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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
魔王軍会議

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幕間1 英雄の帰還

 大陸北部、旧魔領(ヴォフディアーテ)の更に北東端。


 旧都グライネロアと呼ばれる街の中心部、市街からわずかに離れた場所にそびえる小高い丘。

 そこに鎮座する、巨大な屋敷。


 魔王城カルパーシェ・ディエンスと呼ばれるこの屋敷の玄関、屋敷内へと繋がる大扉の前に、二人の男女が立っていた。


 端正な容姿に鎧を纏った男性と、頭の左右で括った明るい赤髪が特徴的な少女。

 男性の身につけた鎧には、その細やかな意匠を覆い隠す程に、大小様々な傷が刻まれていた。


「いや~、やっと帰ってきたね」


 赤髪の少女が感慨深そうに屋敷を見上げて言う。


「あぁ、どうにか間に合ったようだ。ここまですまなかったね、ミアム」


 男性が礼を述べると、少女――ミアムは不満そうに答える。


「いやほんと、大変だったよ。特にセラン・ウェーラーを越えるくらいまでは、トープドール君自力で立ち上がれもしなかったもんね。もう貨物として送る方が楽かもなんて何度か考えた」

「貨物……そうか」

「待って、冗談だから。その手があったかみたいな顔しないでね」


 知見を得たとばかりの反応を見せるトープドールを呆れ顔で制止するミアム。


「良い案だと思ったのだが」

「確実に何か法に触れるから。実行しないでね。っていうか袋から顔だけ出して『私をどこそこまで送ってくれ~』ってやる気? 誰も受け取らないよそんな気味悪い荷物」

「ならば箱に詰まるので、梱包だけお願いしてもいいだろうか?」

「運搬されないでって言ってるんだよ」


 トープドールの素っ頓狂な提案に溜め息で返すと、ミアムは屋敷の玄関を離れ、建物沿いに庭へ歩き始めた。


「何処へ?」

「メルちゃんに挨拶してくるんだよ。帰ったよ~って」


 振り向いて答え、玄関扉を指差すミアム。


「トープドール君はまずみんなに会ってね。会議に集まってるはずだから」


 そう言い残し、ミアムは庭の奥へ去っていった。


 残されたトープドールは、扉を一度見上げると、複雑な造形の取っ手を握りゆっくりと引いた。

 彼の身長の倍ほどもある大扉がかすかな軋み音と共に開く。



 玄関広間へと進み辺りを見回すトープドール。その姿を見るや否や、無言で詰め寄る人物が一人。

 癖の強い短髪と鋭い目が特徴的なその男は、トープドールを睨みつけながらその眼前まで来ると、鎧の胸元を掴んで怒鳴りつけた。


「おいコラてめェトープドールぁ!! 心配しただろうがどこほっつき歩いてやがったァ!」


 その剣幕に、特に慌てる様子もなくなだめるように答えるトープドール。


「南部遠征と伝えておいたつもりだったが……心配かけてしまったか、すまないねイフラ」

「ア゙ァ!?」


 その言葉に、イフラと呼ばれた青年は鎧を掴んでいた手を離し、トープドールを突き飛ばす。軽くよろめくトープドール。


「誰が心配したなんつったァ!」

「君だが」

「……誰もてめェの心配なんざしてねェんだよ! 帰ってくんのが遅ェせいでエイゼン様とノーヤ様がてめェのために拵えた朝飯と昼飯が無駄になるだろっつってんだ」

「私の食事? 会議前に帰ると連絡しておいたはずだが」

「本当に寸前に帰ってくる奴があるかってんだよ。間に合えばいいってもんじゃねェだろうが」


 語気の荒さに対し至極真っ当なイフラの言葉。トープドールは素直に頭を下げる。


「まぁいい。てめェはまず着替え……てる時間は無ェか。大食堂に行け、皆さんお集まりだ」

「何故食堂に?」

「会議の時はいつも大食堂使ってんだろうがよ! なんで知らねェんだてめェが!」


 首を傾げるトープドールに声を荒らげるイフラ。


「あ、あの……どうなさったんですか、イフラさん……」


 そこにおずおずと掛けられる幼い声。

 広間の奥から、小柄な少年が覗いていた。ひらひらと広がるゆったりした服装に長めの髪は、少女と見紛う容姿だ。


「あぁ、すまねェっす、ノーヤ様。今こいつに常識とかそういうヤツ叩き込んでたんで」


 振り向いて答えるイフラに、少年は「こいつ?」と体を傾ける。イフラの陰に隠れて見えなかったらしいトープドールの姿を認めると、


「トープドールさん! お帰りになられてたんですね!」


 弾けるような笑顔で駆け寄ってきた。


「あぁ、今しがたね」

「ご無事でしたか? お怪我などはありませんか?」


 ひどく傷ついた鎧を心配そうに見上げるノーヤに、トープドールは笑って答える。


「怪我ならほとんど無いな。二度ほど死んだかもしれないが」

「そうですか、でしたら良かっ……死!?」


 驚きに声の裏返るノーヤ。


「いや下らねェ冗談でノーヤ様怖がらせてんじゃねェよ。いいからてめェは早く食堂へ行きやがれ」


 追い払うような仕草でイフラに促され、トープドールは「冗談ではないのだが……」と独りごちながら玄関広間を後にした。


「良かった、冗談でしたか……」


 その呟きはノーヤには聞こえていなかったようで、胸を撫で下ろす声を背中に聞きながら、トープドールは屋敷の奥へ足を進めた。

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