第27話 きっとまた逢うから
統聖国の心臓部、交通や物流の中央と言うだけあって、ローナセラはとても広く大きな街だった。
街の中心部へ向かってまっすぐ伸びた目抜き通りは、細やかな石畳で綺麗に舗装され、幅も廻輿が五、六台は並んで走れそうな程だ。
左右には、敷き詰められたように立ち並ぶ様々な店舗や工房。車内から眺めているだけでも目移りする。
そんな通りの華やかさに対し、妙に人通りが少ないのが引っかかったが、ミュイユ曰く、
「この辺はほぼ工業区だからね。夕方くらいには仕事を切り上げてみんな帰るから、職人がついでにやってるような店も軒並み閉まるんだよ。西側の商業区沿いならまだ賑やかなんじゃないかな」
との事だった。
さすが地元――なのかは知らないが、この街に居を構える身。ここの地理や情勢には詳しいようだ。
俺達の乗る廻輿は通りをゆっくりと抜け、中央広場と呼ばれる開けた場所に着く。
北西、東、南西の三方面からの街道が交わるこの場所は、ただ商店類が集中するだけでなく、ローナセラ興りの地として一種の記念公園のようにもなっているらしい。
その一角、一般の廻輿の発着所となっている場所。
そこで俺達は全員降車し、別れの挨拶を交わしていた。
「そんじゃアタシ達はこれで」
「いやー、結局何もなくて良かったねぇ、あれから」
「そうですね、またあんなのが来たらと思うと……お腹空きましたね」
今どんな飛躍したんだその思考。
「姐さん……本当に行ってしまうすか」
聖畜衆の人も別れを惜しんでいるようだ。……姐さん? ミュイユの事か? いつからそんな呼び方を。
「行くって言うか帰るんだけどね。共壇の方に報告もしないとだし、ちょっと忙しいんだよね」
「そうすか……。じゃあ、お元気で、っす」
そう言う彼の表情は夕日に翳ってよく見えなかった。
「ここまでありがとうございました。また、こちらに立ち寄ったら挨拶に来ますね」
俺からも礼を言うと、ミュイユは相変わらずの変化に乏しい表情で答える。
「ん、まぁ暇で仕方ないってんなら共壇にでも寄るといいよ。アタシらの方はどうせ暇してるから」
素っ気無い態度だが、嫌がられているわけではなさそうだ。むしろ――、
「はい、是非。今度は護衛とかそういうの抜きで、みんなで食事にでも行きましょう」
そう答えると、ミュイユの顔が微かに綻んだように見えた。
「だね。次はアタシらのお勧めでも案内するよ」
「ローナセラ名物の混沌集合盛りですねっ! あれは美味しくて楽しくて大変ですよ!」
「待って、そんな名前だったっけアレ」
「違うし特に名物でもないかなぁ。まぁここの料理はロテュメアとちょっと違って各地の食材や文化が入り混じってる感じだからね。なかなか珍しいというか、面白いものが多いよ」
「そ……そうなんですね。楽しみにしてます」
軽くローナセラ料理について教わったところで、「さて」とミュイユが切り上げる素振りを見せる。
「そろそろ行くかな。アンタ達の宿は商業区と居住区の間あたりだからあっちだね。それじゃ、アタシらは共壇に急ぐから」
そう言って手を振り、ミュイユは南西に伸びた大通りへ向かって歩き出す。
「あ、ミュイユちゃん、共壇そっちじゃないです」
「宿の方向も向こうじゃないね。多分真逆」
「…………」
と思ったらすぐ呼び止められて帰ってきた。
「……先に擁滓玉買い足しに行こうと思ったんだよ」
「薬局もそっちじゃないです」
「共壇に急ぐんじゃなかった?」
「……。……急ぐよ。行って」
ミュイユに両手でそれぞれ背中を押されながら、仕方なさげに歩き始めるアステルとゼオ。なに今のくだり。
「それじゃ、また会いましょうねっ」
「またねー」
振り返り手を振る二人とミュイユの背中に向かってこちらも手を振り返す。
夕陽の差す大通りへ消えてゆく彼らを、ちょっとした予感のようなものを胸にしながら見送った。
きっとまた本当に、彼らと一緒に戦う時が来る。そんな、期待というにはどこか確信めいた何か。
「……すみません、お待たせしました」
振り向いて、聖畜衆の皆さんに声をかける。
「いや……大丈夫っす。行きましょう、宿はこっちっす」
ぞろぞろと連れ立ち、俺は彼らの案内に従って、アステル達とは別の通りを行く。
ミュイユが指した方角とは確かに真逆だった。
こうしてアステル、ゼオ、ミュイユの三人と別れた俺は、翌日ローナセラを発った。
――魔王城の地下で目覚め、ロティと共に脱出。ルゼルメイとヴェシュさんの力を借り、旧魔領からリュケオンの命湍を抜けて統聖国への転移。ロテュメアのハストさんに示され、カナンの襲撃を受けつつもローナセラへ。
そしてあと数日で、この旅路の最終目的地――セラン・リウーネに到着する。
大陸南端、統聖国の中心である為聖庁の存在する街。
そこで俺は、『代王』シャディオンという人物に、様々な話を聞き、道を示されることになる。
一年前に大陸全土を襲った大災害、『大遍心嘯』について。
その災害において、発生した脅威から街を守護した勇士『幾聖』について。
聖王の能力を拡張する数多の武具、『聖標器』について。
聖標器の取得によって起こりうる、――俺の記憶の復元について。
そして俺はシャディオン氏により、独自の動力機関を持つ廻輿の一種『導輿』を授けられ、幾聖と聖標器を探しに再び北への旅に出ることになるのだが――、




