第24話 絶無の協調
「逃げてないでっ! 当たってっ! くださいっ!!」
雑に槌を乱舞させながら無茶な要望を口にするアステル。
既に辺りの地面にはいくつか大穴が開いている。
「嫌に決まっているでしょう! そんな大槌振り回して、殺す気ですかっ!?」
逃げ回りながら裏返った声で答えるカナン。さっきまで聖畜衆やら俺やらを木剣で滅多撃ちにしてた奴の言葉とは思えない。
「大丈夫です! 槌ではなく木材とかに焼き印とか入れるための道具なのでっ!」
そういう問題ではない。
というかそれだとまず間違い無く金属製であることになるのでむしろタチが悪い。
「くっ……! 何故そんな物を持ち歩いてっ……!」
カナンの至極もっともな突っ込みが聞こえた。俺もそう思う。
そんな様子を遠巻きに眺めていたミュイユがぽつりと、
「埒が明かないね、これ」
誰ともなく不意に呟いた。
そしてずっと手元で転がしていた金属片をひとつ選り分けると、
「随祈、『現月鏡』――鋼花」
何やら呟きつつ前方に放り投げた。
勢いよく中空を飛びながら、金属片は巨大な剣へと姿を変え、刃を回転させながらカナンへと襲い掛かり――、
「げぶぁっっ!!」
間が悪く軌道上に飛び出したアステルの背中に直撃した。
「何ぃッ!?」
カナンの驚愕の声は、突如出現した剣に対してのものなのか、それが盛大に同士討ちを起こしたことへなのかは定かではない。
「あ……ごめん」
さほど大事ではなさそうな調子で謝るミュイユに、アステルは背中をさすりながら振り向いて答える。
「もー、気をつけてくださいよミュイユちゃん。私じゃなかったら全身両断爆発四散して死んでましたよ」
「そだね、気をつける」
頷いて再び手に金属片を握るミュイユ。
……ちょっと気になってたけど、このアステルとかいう少女、頑丈さ――というか身体性能が異常じゃないか?
さっきもカナンの剣を顔面で受けて平然としていたけど、明らかに常人の域ではない。
あの大きな槌を軽々振り回せる点も然り、何か特殊な強化術でも使っているのだろうか。
「……って、後ろ!」
と、目を逸らしたアステルの背後の状況に気付き、慌てて呼び掛ける。
「へっ?」
正面を向いたアステルの前には、大きく剣を振りかぶったカナンの姿。
俺にも覚えがある。いくら術で耐久を増していても痛いものは痛いし無限に受け続けられるわけでもない。
あの至近距離からカナンの渾身の攻撃を受ければ、アステルとて無事ではいられないんじゃないだろうか。
どうにか助けに入れないかと立ち上がろうとしたところで、
「あの剣、邪魔だねぇ」
ゼオが、何かを放るような仕草を見せた。
大きく黒い針のような物体。
それはカナンに向かって音も無く飛び、
「あっ」
「えっ?」
カナンの持つ剣に到達する寸前、どこからか飛来した別の剣に突き刺さる。
剣は微塵と分解され、風に吹き消えた。
……どうやらミュイユも同時に、カナンめがけて剣の投擲を放っていたようだ。
そしてカナンに命中するより先にゼオの針に刺さったらしい。
ゼオが放ったのは恐らくは針で刺した対象を粉々に粉砕する術。あの時は気付かなかったが、カナンの一本目の木剣もゼオが針で破壊したのだろう。そして今ミュイユの剣も。
「ちょ、ゼオ、何やってんの」
「いやーごめん、まさかそんな見事に衝突するとは」
申し訳なさそうに頭を掻くゼオに、「一本無駄になったじゃん」とぼやき再度投擲を放つミュイユ。
小型の曲刀がカナンに襲いかかるが、カナンは体を少し傾けるだけでそれを回避。
しかし、
「随祈――『絶逢伉』」
次の瞬間、ミュイユはカナンの背後で曲刀を振りかぶっていた。
「何……?」
突如視界から掻き消えたミュイユの姿を慌てて探すカナン。
そこにアステルが正面から、
「余所見ですか余裕ですか失礼ですねっ!」
槌を振り上げる。
「くっ……!」
咄嗟に側方へ飛び退くカナン。
結果。
「へっ?」
「は?」
向かい合ってお互いの武器を鉢合わせることになるアステルとミュイユ。
振り下ろした曲刀と振り上げた槌が衝突し、
「あー……」
カキーンと小気味良い音を立てて、ミュイユの曲刀は遥か彼方へ吹き飛んでいった。
「なっ……なんでミュイユちゃんそこにいつの間にっ!?」
「なんでって、うん……そういうのもあるんだよ」
確かに、離れて見ていた俺にも何が起こったのかよくわからなかった。
一瞬のうちにカナンの背後へ移動していたミュイユ。それはカナンの高速移動とはまた違う、まさに転移、瞬間移動のような光景だった。
だが、それはそれとして。
「……貴方達は一体何をして……いえ、何がしたいのですか?」
少し離れた位置から呆れ顔で問うカナン。
しかしカナンでなくとも、これまでの戦いを見ていれば恐らく誰もが同じ感想を抱くだろう。
……この人達、全くもって、欠片も、微塵も連携が取れていない。
むしろ足の引っ張り合いを繰り返しているようにさえ思える。
個々の能力だけなら軽くカナンを凌ぎそうな雰囲気はあるのに、どうしてこうなった。
「何、って……」
カナンの問いに顔を見合わせる三人。
しばし押し黙った後、口々に答える。
「えっと……アンタを倒す?」
何故疑問形。
「そしてそこの人にごはんをもらいます!」
あげるとはまだ言ってないが。
「お酒も欲しいかなぁ」
それは無い。
「…………」
彼女らの回答に、無言の溜め息で答えると、首を振ってカナンは剣を再度構えた。
「……いいでしょう、やりおおせて見せなさい。その程度の意識で我々の戦いに介入する、覚悟がお有りならば」
その言葉から滲み出るのは、怒り……というよりは焦り、だろうか。どのような感情で問い、答えたのかは定かではないが。
ずっと漂わせていたカナンの余裕のようなものが消え、代わりに纏うのは、殺気。
カナンの姿勢がわずかに低くなり、口元が小さく動き――、
「させませんっ!!」
アステルが、ミュイユの前で剣撃を防いでいた。
カナンの攻撃はミュイユに向けて放たれたもの。それをアステルが体を割り込ませて防御したようだ。
無論、槌ひとつでカナンの無数の剣撃を全て防げるはずはない。大半は体で受けている。
わずかにアステルの顔が歪む。
「ふむ」
小さく呟き、追い払うように振り回したアステルの槌をカナンは大きく後方へ跳んで避ける。
そしてそのまま流れるように今度はゼオに向かって飛びかかる。
展開が早い。アステルの防御は間に合わない。
ならば――、
「――俺がッ!」
わずかでも時間を稼ぐ。
抉界戟を拾い上げて前方へ飛び出し、ゼオに迫るカナンへ突きを放つ。
「むっ!?」
「えっ?」
あわよくば一撃を、とも思ったが穂先がカナンを捉えることはなかった。寸前で回避されている。
だがこれで問題は無い。守られてばかりはいられない。わずかでも、俺も彼らの助けになる。
当然俺が前に出るということは、相手が最終目標を狙いやすくなるということ。
カナンは次は確実に、俺を標的にしてくるだろう。
つまり、相手の行動が絞りやすくなる。
漫然とバラバラに戦っていたからこその連携の取れなさ。こうすればきっと、彼らも戦いやすくなる――はずだ。そう思いたい。
俺自身の危険と引き換えだという点だけが問題だが。
俺はゼオの前に立ち、抉界戟でカナンを牽制する。
「えっ、ちょ、出てきちゃ……!」
「いや……なるほどね、有りかも」
慌てるアステルに、得心がいったらしいミュイユ。
「……愚かな」
こちらの意図を察してか否か、吐き捨てるように言うカナン。
そして俺に向かって剣を構え――、
「うん、ありがとう」
ゼオが、後ろから俺の肩を軽く叩いてそう言った。
「さっき守ってくれた一瞬のおかげで確証が得られた。じゃ、彼の足を止めようか」




