表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 序 -記憶の始点-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/110

第12話 所長ハスト氏の歓待

「話は僕が事前に通しておこう。聖王様(スプリミオ)は、セラン・リウーネで『代王(アンスプリム)』シャディオン様と話し合ってもらうべきだと、僕は考える。向こうに丸投げするようで気が引けるところはあるが、このような地方都市ではできることに限界があるのでな」


 自嘲する風に笑うと、「とはいえ」と一旦自身の後方に目をやった。


「すぐにとは言わない。せめて今日一日だけでいい、聖王(スプリミオ)の帰還を、貴方に逢えたことを、この聖立共壇(ザフティーグ・セレン)職員たちで祝わせて欲しい」


 ハストさんの後ろには、沈黙したまま、潤んだ目でこちらを見つめる五人の職員達。

 統聖国(リウネア)に到達した今、そこまで急ぐこともないだろう。というかちょっとゆっくりしたい。ここまであまり気の休まる状況は無かったし。

 ロティが口を挟んでくる様子も無いし、少しくらい羽根を伸ばしても構わないだろう。


「それじゃあ……お願いします」


 そう頭を下げると、ハストさん含む全員の顔が輝いた。

「そうか、ありがとう。では、ささやかだがもてなしの宴を用意させてもらうとしよう!」


 落ち着いた風に話すハストさんだったが、その声と表情からは歓喜の色が滲み出しているのが見えた。

 興奮を抑えきれない調子で、職員達に号令を掛ける。


「お前達の今日の業務内容は全て変更だ! 今から街へ出て最高級の料理と酒を手配しろ! 仕事の後処理は全て僕がやるっ!!」


 ざわつく職員達。そして俺。……え、最高級? ささやかって言わなかった?


「えっ……いいんですか!? いいんですねっ!?」

「構わん、行け! どうせ今日は仕事など手につかんだろう。僕もだろうがな!」

「わかりましたっ! じゃあちょっと商店街まで……いや、牧農区まで走ってきます!」

「あ、なら俺は水産区に! セラン・ユプセンからの貨物が届く時期のはずなんです」

「代金は共壇(ザフティーグ)の経費を好きに使え! それとわかっているだろうが、聖王(スプリミオ)のことは絶ッ対に、外部にも他の職員にも漏らすんじゃないぞ!」

「心得てます! それでは失礼しますっ!」

聖王様(スプリミオ)、必ず最高のお食事を用意しますからね!」

「お前っ、なに気易く聖王様(スプリミオ)に……俺もっ絶対満足させますっ!!」

「何してる早く行け!」


 追い立てられがやがやと駆け出していく職員達を見送り、部屋には俺とハストさんだけが残った。

 ひとつ息をつくと、ハストさんは眼鏡をかけ直し、こちらを見て苦笑した。


「騒々しくしてしまってすまない。本来ならばもっと厳かに歓迎すべきなのだろうが……」

「い、いえ俺は別に構いませんが……その、最高級の料理とか酒って……」

「それくらいはさせてもらいたい。可能なら街全体を挙げての歓待といきたいところなのだ。……あぁ、聖王様(スプリミオ)は酒は飲まないのだろうか?」

「酒……は、大丈夫だと思います。それより……」


 グライネロアからリュケオンへの旅路で、ヴェシュさんに何度か頂いて飲んだ。特に飲めないということは無いはずだが。


「その、一応さっきも言ったと思うんですけど、俺は聖王(スプリミオ)と同じ体を持ってるだけの別人にすぎないんですよ。俺自身はこうして歓迎されるべき存在じゃないというか……」

「無論、理解している。いや、正確には理解の及ばないところも多いが、とにかくわかった上でやっていることだ。それに対する回答も変わらない」


 そう言ってハストさんは笑う。


「フィーノ、というのだったか。貴方には失礼かもしれないが、我々にとっては歴史上の聖王(スプリミオ)との違いはわからないのでな。それに何より、行方のわからなくなっていた聖王(スプリミオ)の体が帰ってきたこと、それ自体が喜ばしい大事件と言える」


 なるほど……そういうものだろうか。


「それでも気後れするというのなら……フィーノ氏、貴方が聖王(スプリミオ)の体を見つけて統聖国(リウネア)に持ち帰ったことが歓迎されていると、そう捉えればいいのではないかな」


 確かに、それなら幾分気は楽かもしれない。俺はあくまで聖王(スプリミオ)の体を拾って届けただけ、それが偶然にも超重要なモノだったと。


「じゃあ……そう考えることにします。ありがとうございます」

「いや、構わないさ。貴方の力になれたのなら幸いだ。……それより僕からもひとつ、確認しておきたいことがあるのだが……」


 感謝を述べる俺に、どこか気まずそうに声を潜めるハストさん。


「えっと、なんでしょう?」

「その……本当に、このような話し方でよろしいのでしょうか? 国王に対して馴れ馴れしく接しているようで、どうにも畏れ多さが拭えないのですが……」


 泳いだ目で、そんな事を尋ねてくる。口調が元に戻っていた。


「い、いやもうほんと気にしないで、そのままでいてください! 俺は体を持ってきただけの一般人なんで!」

「そ、そうか、そうだな……それならいいのだが……」


 どうやらハストさん自身も心の整理ができていないようだった。

 なんだか気まずくなってしまった空気を打ち払うよう、ハストさんが無理に明るく取り繕ったような声を上げた。


「そ、そうだ聖王様(スプリミオ)、本棟へ案内しよう。こんな埃っぽい場所ではなく、本棟の貴賓室を使ってくれ。念の為、顔だけは隠しておくようにな」

「あ、えっと、じゃあそれで、お願いします。あー……顔だけ隠しておけば大丈夫ですか」

「何も知らない者達には聖王(スプリミオ)の帰還など完全な想像外、容姿さえ見られなければバレることは無いさ。多分な」


 どうにも打ち払いきれていない気まずさに纏わり付かれながら、俺はハストさんに続いて命湍(ヒューメナツィア)の部屋を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ