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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
断章4 フィーノ

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6 チート

 お互いに相手の出方を伺う考えなのかやる気を削がれる号令のためかどうかはわからないが、最初は間合いを取ったままどちらも動こうとしなかった。

 しばらく――といっても十秒ほどだろうか、睨み合ったところで、トープドールが槍を構えたままぽつりと口を開く。


「遠慮することは無いぞ。数の利があるそちらから自由に動くといい。そしていっそ一気呵成に私を叩きのめしてもらって構わない」


 構わないと言われても……。いや、そういう気概で来いってことなんだろうけど。


「じゃあ……お言葉に甘えて」


 そうまで言われては仕方ない。

 遠慮なくこちらから仕掛けさせてもらおう。


「……アステル!」

「はいっ! いいんですねやっちゃいますねっ!」


 声を掛けると、アステルは待ち侘びたと言わんばかりに振り向いて顔を輝かせた。

 俺が頷くのを見ると、構えていた大槌ならぬ大焼き(ごて)――祝祀印(アミュレア)を高く掲げて、『祈り』の言葉を放つ。


随祈(エデア)っ『祝福・砕突一点セリエ・ゼノヴォーゲン』っ!!」


 アステルから放たれ立ち上る、清浄ながら禍々しい光の柱。

 それは辺り一体を取り囲むと、アステルに収束し消える。


「む……これは……? ほう……!」


 身構えていたトープドールの感嘆の声。

 特に危害を受けた様子の無い自身の体と、目前で妖異な威圧感を放つアステルを見比べ、得心したようにニヤリと笑う。


 強化の類であることまでは推し量れたかもしれないが、その効果の程度についてはどうだろうか。

 今この場にいるのは俺達四人とトープドール、ミアムの計六人。

 対象を選定する発動時の光の柱は、一番離れたミアムまで届いていた。

 つまり今アステルには、ただでさえ強力な自己強化術が、通常の六倍という異常な濃度で掛かっていることになる。

 この祝福・砕突一点セリエ・ゼノヴォーゲンの性質についてはトープドールといえど想定外だろうが……さて、どう出るか。


「成程、聖王(スプリミオ)の部隊が使っていたものに似ているが……随分と、こう……珍妙な改造が為されたように見受けられる。面白い」


 そう言うとトープドールは槍を構え腰を落とし、


「折角だ。その効果の程も見せて、――もらおうッ!」


 アステルへ向かって突進した。

 目にも留まらぬ速度の接近から繰り出される、一条の光線を思わせる槍の突き。

 それをアステルは、


「ふぬぁっ!!」


 前進しながら、正面から難なく祝祀印(アミュレア)を握った()で弾き返す。

 受け流しに絶対の自信があるわけではない、別に()()()()()()()()()()()()()という担保から来る、祝福・砕突一点セリエ・ゼノヴォーゲンの威力を盾にし一切の回避の意思を見せない前のめりの防御。


 流石にこの行動は想定外だったのか、槍を弾かれ前傾したまま大きく体勢を崩したトープドールに向かって、アステルは祝祀印(アミュレア)を掲げ――、


「くうッ……!」


 咄嗟に体勢を立て直し、突進の勢いを活かしてその場を飛び退くトープドール。

 寸前までトープドールのいた場所に祝祀印(アミュレア)が振り下ろされる。

 轟音と共に陥没する地面。


「やりましたよフィーノ様ぁ! 魔王(ディエンシオ)の手先を仕留めましっ……仕留め……ましてないですねこれっ!」


 歓喜の声を上げかけたアステルだったが、攻撃を回避されていたことに気付き祝祀印(アミュレア)を持ち上げると辺りを見回す。


「あれ、どこに消えましたドルなんとかさん」


 トープドールは既に、回避の勢いのままその場を離脱している。俺達四人の陣を通り過ぎ、後方へ。

 立ち上がり槍を再度構えるトープドール。その眼前には既に、


随祈(エデア)――『現月鏡(ムルミレディニ)』、茫枝(オプギーシュ)


 ミュイユの投擲した剣が飛来していた。


「何ッ……!?」


 辛うじて槍の柄で剣を弾く。軌道を逸らされた剣はトープドールの後方へ風切り音と共に飛び去り、


随祈(エデア)。『現焔鏡(ヴァナミレディニ)』、雀弓(シューフト)


 その行先を見届ける間もなく、曲刀を振りかぶったミュイユが襲いかかる。

 咄嗟に剣を弾いた無理な体勢のトープドール、そのがら空きになった腹部へミュイユが雀弓(シューフト)を横薙ぎに振るい、


「浅いッ!」


 更に後ろへ姿勢を崩すことで、紙一重で斬撃を回避。

 背中から倒れ込みそうになりながら、石突きでミュイユを押し返す。

 突き飛ばされたミュイユは、受け身から立て続けに斬り込もうとするも、トープドールが体勢を立て直すのが早いと見て一旦距離を取った。


 ふぅ、と擁滓玉(グルーツィエ)の白い息を吐くと、剣先でトープドールを指して不満そうにぼやいた。


「いやいいけどさ、あの話の流れでそっちから仕掛けてくる?」

「すまない、興奮で気が逸ってしまった」


 まぁ確かにこっちから好きに攻めろって言ってたけど。

 ミュイユの指摘に素直に詫びると、トープドールは「ところで」と俺に向かって言った。


聖王(スプリミオ)殿はまだ戦わないのだろうか? 私は特に聖王(スプリミオ)殿の戦いぶりが見たいのだが」


 指名されても困るんだけど。色々と。


魔王(ディエンシオ)のための情報収集でしょうか? 俺としてもあまり手の内を明かしたくはないんですが」

「いや、単に見たい。私が」

「……そうですか」


 純真な目でキッパリ言い切られ脱力する。


「……しかし、そうだな。確かに、私がここで見たことは魔王(ディエンシオ)に報告する必要がある」


 と、トープドールはしばし考える素振りをすると、


「では、聖王(スプリミオ)殿はうまく技量を隠しながら戦いたまえ。その上で私は貴方の全力を引き出せるように努めよう」


 槍をこちらへ向け、笑顔で言った。ってなんだその着地点。いいよ努めなくて。


「トープドール君はこういう人だから。ごめんね~ほんと」

「あぁ、いえ……はい」


 どこか諦観混じりのミアムの声。まぁうん、こういう人なわけだな。大体わかってきた気がする。

 とはいえ、俺も戦列に加わらないと、確かにアステルとミュイユの二人だけでは捌ききれなさそうではある。

 俺も早めに動いた方がいいのかもしれない。別にトープドールの要望に応えたいわけではないが。


 ――心を決め、俺は胸元に手をやる。


「アステル」

「はいっ!」


 声を掛けると、俺の意図を汲んだアステルは一度大きく頷き、祝祀印(アミュレア)を構え直した。

 そして未だ輝く目でこちらを見るトープドールへと突撃する。


「ミュイユちゃんっ!」

「んっ」


 ミュイユと二人で、しばらくトープドールを押し留めてもらう。

 ゼオにも目配せをすると、俺はゼオの背後に隠れるように位置取りして――


 ――自身の胸の間に手を突っ込んだ。



 覆心鞘(ヤファーズス)

 俺の持つ、大容量収納空間。及び、そこへの接続・干渉能力だ。


 厳密に量ったことはないが、おおよそ家一軒分ほどの収納能力があるようで、これを利用すれば非常に多くの物を重さ・大きさなどを気にせず持ち運ぶことができる。

 残念なことに、本当に残念なことに内部にも温度や時間経過の影響があるらしく、無加工の食料を保管するのには向いていなかった。

 今は専ら武器類と、瓶詰め等の長期保管可能な食料の収納に使っている。

 やろうと思えば内部で塩漬け肉なんかの熟成もできるのかもしれないが、まぁやろうと思ったことは無い。なんというかこう、絵面的に。


 そう、この覆心鞘(ヤファーズス)、便利なことは便利なのだが、ある一点の致命的な問題のため、あまり積極的に利用しようと思えないのだった。


 ――即ち。

 その接続口が、何の冗談なのか、よりにもよって胸部の中心に……両の胸の、間に存在するという点だ。


 想像してもみて欲しい。胸の間から肉やら魚やらを取り出し調理し始める姿を。その滑稽さだけで魔王(ディエンシオ)を滅ぼす自信さえある。

 いやまぁ武器や瓶でも大差無いかもしれないが、幾分かマシだろう。そう思いたい。


 ……とにかくそういったわけで、あまりこの姿を大っぴらにしたくなかった俺は、仲間の陰に隠れてこそこそと胸から武器を取り出すのだった。

 


 そして取り出したものがこの二本の、左右一対の長柄武器――抉界戟(ゼプシュラー)


 俺の身長程の長さで、柄の先端に刺突用の鋭い刃が、その根本から側面に向かって半月状の刃が付いている、斧と槍の複合武器のようなものだ。

 といっても強そうなのは見かけだけで殺傷力はほとんど無い。なにせ驚く程軽いのだ。

 木の枝を切るくらいなら差し支え無いが、戦闘用の武器としては全く頼れない。重量が無さすぎて、振るっても攻撃に威力が全く乗らないためだ。

 無論、見た目の格好良さだけでこんなものを重用しているわけではない。明確な理由が存在する。


 ()()()()の射程を伸ばすためである。



「――『敢臨(ブラウクルス)』」


 まずは体の待機状態を解除する。

 その短い言葉を口火とし、戦闘状態を起動。全身の滓花(レシェル)に力が巡るのを感じる。

 戦闘状態はおよそ五分しか保たないが、充分だろう。


 続けて、


「――『裁儀(ディスプロディ)』」


 自身の能力値を改竄する。



  ――解析値(基礎値/⇒修正値/)――

  接式干渉力:100 /⇒ 30/・減算補正

  接式抵抗力:170 /⇒ 200/*加算補正

  術式干渉力:250 /⇒ 90/・減算補正

  術式抵抗力:290 /⇒ 80/・減算補正

  速力   :210 /⇒ 600/*加算補正

  精度   :180 /⇒ 200/*加算補正

  計    :1200

  ―――――――――――――――――



 俊敏なトープドールに対抗するため、敏捷性を大きく伸ばす。

 俺自身の打撃力が必要な場面ではない。最低限のみ残し攻撃力は削る。

 念のため物理耐性も足しておき――こんなところだろうか。


 一通りの準備を終えた俺は、抉界戟(ゼプシュラー)を両手に構え、響く剣戟に向かって飛び出した。



 裁儀(ディスプロディ)

 俺の持つ、『対象の能力値を操作する』能力だ。


 対象は自分自身のみでなく、触れることで他者にも適用できる。

 操作可能な能力値は、接式干渉力・接式抵抗力・術式干渉力・術式抵抗力・速力・精度の六種。妙な表記になってはいるが、要は直接な、または術を使っての攻撃力と防御力、あと素早さに器用さといったところだ。


 能力値といっても、この世界にそういった数値が存在するわけではない。あくまで俺の『裁儀(ディスプロディ)』の対象として制御しやすくするため、能力をこの六つの値に当てはめて置き換えているだけだ。

 そしてこの裁儀(ディスプロディ)による能力値改竄は、対象となる人物の、装備品や術による強化等あらゆる要素を合算した、最終的な能力――世界に対する影響力を制御するものになる。

 つまり、接式干渉力――物理的に対象に影響を与える力、物理攻撃力――を0にしてしまえば、その人物がどれ程の怪力の持ち主でも、どれ程の強力な武器を持っていたとしても、紙一枚破れなくなってしまう。

 まぁ実際には相手の術式抵抗力――物理以外の非接触干渉、主に祇心(エシェ)の行使による術攻撃への防御力――にも効果が影響されるため、完全に数値を0にして無力化というのはそうそう実現しないのだが。


 それに、この裁儀(ディスプロディ)には「6値の合計値は変更できない」という厄介な制限も存在する。

 何かを100上昇させれば他の何かを計100減少させる必要がある。

 仮に200ある接式干渉力を0にするなら、他の能力値にその200を割り振らなければならない。

 単純に全ての能力を強化や弱体化するのには使えないというわけだ。


 とはいえ、俺にしか見えない数値を制御する能力。使い方を誤らなければ、特に白兵戦において無敵の強さを発揮する、ロティが言うところの、『無法(チート)』だった。

 ちなみに固い根菜や肉類に付いた骨を切るのにも使えたりする。

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