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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
断章4 フィーノ

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5 緩く士気を削ぐ狼煙

 と、間が空いたので俺からも質問してみることにする。


「えっと、命に関わらない程度っていうのは……」

「致命打になりそうな攻撃が出たらあたしが止めるから安心してね、ってこと。言い換えるなら、あたしの仲裁が発生した時点で勝負はおしまい、って感じかな」


 なるほど、それは取り決めとしてはわかりやすい。だが――、


「しかしミアム、君にそのような微細な見極めができるのか?」


 俺の懸念を代弁するようにトープドールが問い掛ける。

 問われたミアムは、


「失礼な。もちろんできないけどね」


 と、何処からか奇妙な装飾品のようなものを取り出した。

 手のひらに収まる程の大きさで、古びた紙に細い金属の紐が巻き付いたような造形。金属の枠で札を覆い補強したもの、のように見える。


「なので、こんなものをユラエナちゃんから借りていたのでした~」


 じゃーん、と得意げに見せつけてくるミアムに、あぁなるほど、とどこか不服そうながら合点のいった様子のトープドール。置いてけぼりの俺。


「あの……それは一体?」


 その物体についておずおずと尋ねてみると、ミアムはにんまり笑って答えた。


「これはね~、身につけていると、持ち主が致命的な攻撃を受けた時に、一度だけ身代わりになってくれる便利な道具だよ」


 なんだその都合のいい物体、とも思ったが、口には出さないでおいた。なるほど、それで命に関わる事態は免れるわけと言いたいわけか。


「これが作動すると、なんか地味めな黒い光が出て相手を押し返すんだよね。だからあたしはそれを確認したら、二人を止める。戦ってる当人だと熱くなって見落としちゃうかもしれないしね」


 どう? とえらく自信満々に語るミアム。

 どうと言われても、それじゃつまり仲裁してるのはその道具であってミアムはそれを中継してるだけじゃないか。そうも思ったが、突っ込まないでおく。

 それより気になるのは――、


「その……致命打に反応して防御という動作は、どの程度の精度、信頼性があるものなんですか?」


 これだけは訊いておかねばならない。

 どういった理屈で動いているのかも訊きたいところだが、そこは後回しでいいだろう。

 俺の問い掛けに、「当然の疑問だな」とトープドールが答える。


換身符(ジュスカフト)の効果の程については、実際に見てもらった方が早いだろう。ミアム、予備はあるか?」

「あるよ~」


 ミアムからその奇妙な札を受け取ると、トープドールはそれを手に何やら呟き、上半身の鎧を外して札を腰辺りに忍ばせ、


「さぁ聖王(スプリミオ)殿、私に致命傷を与えてみるといい」


 と、俺に向かい腕を広げて言った。

 ……って、えぇっ!?


「実際に発動するところを見るのが納得しやすいだろう。私達とて首や心臓を破壊されれば死ぬ。……はずだ。さぁほら、私を殺してみたまえ」


 何言ってんだコイツ!? なんかちょっと楽しそうに怖いこと言わないでほしいんだけど!

 いやいずれはそうする必要のある相手なんだろうけど、こう正面切って促されると色々困るというか!


「どうした聖王(スプリミオ)殿、効力を見たいのだろう?」

「いやそれはそうですけど、さぁ殺せと言われると流石に気が引けるんですが。というか死は免れても致命傷以外の痛みは受けるんですよね?」

「私は構わないぞ」


 俺が構うんだが。なんだこの狂人は。

 相変わらず腕を広げ俺に迫るトープドールに困惑していると、ふと背後から、


「じゃ任せて」


 と声がした。それもかなり低い位置から。


「姐さん?」


 振り返ると、ミュイユが擁滓玉(グルーツィエ)の白い息を吐きながら手元で金属片を弄んでいた。


「フィーノがやりにくいならアタシがやるよ。ちょっとどいてて」


 俺を押しのけるようにして前に出ると、トープドールに対峙する。


「え、いやちょっと姐さん」

随祈(エデア)――『現焔鏡(ヴァナミレディニ)』、雀弓(シューフト)


 金属片が復元され、ミュイユの手元に出現する小型の曲刀。


「おぉっ!?」


 どこか喜色を含んだトープドールの驚きの声。

 ミュイユは雀弓(シューフト)を手に無防備なトープドールの胸に飛びかかり――、


「へぶっ」


 次の瞬間には、地面に倒れ込んでいた。

 弾き飛ばされたというよりは、斬りかかった次の瞬間には既に倒れていた、といった様子だったが……これが、例の札が発動した結果なのだろうか? 地味な光とやらは確かによく見えなかったが。


 戸惑う俺を尻目に、無傷のトープドールが倒れたミュイユに手を差し伸べた。

 わずかにためらいつつもその手を取って立ち上がるミュイユ。

 普段表情の読みにくいその顔は、今は俯きながら、明らかな不愉快感と悲哀を映している。


「……擁滓玉(グルーツィエ)落とした」


 ってそういう表情かい。

 確かにミュイユの足元には、先程まで咥えていた擁滓玉(グルーツィエ)が砂まみれで転がっていた。地面に倒された衝撃で落としてしまったようだ。

 ミュイユのぼやきに慌てるトープドール。


「す、すまない。それは想定していなかった。飴なら今度買ってくるから許してほしい」


 今度っていつだよ。


「あ~、トープドール君が子供泣かせてる~。カナ君に言っとこ」

「それは勘弁してくれ本当に」

「泣いてないし子供じゃないし飴じゃないし予備ならあるし」


 囃し立てるミアムに困惑するトープドール、しょぼくれた感じで導輿(カーフローツ)に帰っていくミュイユ。

 状況が混沌としてきた。何の話してたんだっけ。あぁそうだ、あの札の……。


「あー……とにかく、換身符(ジュスカフト)が発動するとこうして所持者を護ってくれるのだ。わかっていただけただろうか?」


 トープドールが話を引き戻す。

 確かに、その効力については目の当たりにした。必殺であったのだろうミュイユの攻撃は必殺故に無効化され、ミュイユは地面に転がった。トープドールには傷一つ無い。

 その効力には疑う余地は無さそうだ。

 ただ一つ気になる点があるとすれば。


「その換身符(ジュスカフト)、の発動の瞬間でしょうか。ミュイユが斬りかかってから地面に倒れるまでの間がよく見えなかったというか、その……トープドールさんが斬られる瞬間だけ、時間が飛んだように感じたんですが……」


 先程覚えた違和感を伝えると、トープドールはあっけらかんと、


「あぁ、換身符(ジュスカフト)が発動すると何故か必ずああなるようなのだ。効果に影響は無いから気にしないでほしい」


 と笑って言った。

 後ろでミアムも「何なんだろうね~アレ」と首を傾げている。

 とぼけている様子でもないし、持ってきた本人達にわからないのなら仕方ない。


《……時間……?》


 ロティが何やら呟いているのが聞こえたがひとまず放っておく。

 色々あったが、とにかくこれでトープドールとの戦いに関する懸念はおおよそ解消されたと言ってよさそうだ。


「わかりました、ありがとうございます。……それでは、改めて――」


 戦闘開始だ、と意気込んで仲間に号令を掛けようとしたところで。

 ぐぅ、と気の抜ける音が響いた。腹の音だ。

 うわ俺か!? なんて空気の読めない腹だ。確かに今日出発前に軽く食べたきりだったけど、何もこんな時に……。

 と慌てたが、よくよく考えると俺のものではなかった気がする。

 まさか、と前を見ると、恥ずかしそうに目を伏せたトープドール。


「そうだった……。言い忘れていたが、換身符(ジュスカフト)は発動の際、所持者の体力、活力といった類の何かを大きく消費するようなのだ。その結果……発動すると猛烈に腹が減る」


 あぁ、ということはさっきのはやはり俺じゃなくトープドールのものだったらしい。

 なんだか安心した、と思ったところで――俺の腹も鳴った。


「…………」

「……一旦休憩しようか。軽く腹ごしらえなどして、一時間後に仕切り直すとしよう」

「……そうですね」


 かくして、どうにも締まらないまま俺達は一時解散したのだった。




 約一時間後。


 俺達四人とトープドール、ミアムは、再び噴水広場に集まり向かい合っていた。

 俺達は導輿(カーフローツ)にそれなりの食料を積んできているが彼らはどうなのだろうか、と少し気になってはいたが余計な心配だったようだ。

 気力充分といった佇まいで槍を構えるトープドール。


 少し距離を置いて対峙し、俺は仲間達を周囲に展開させる。

 俺の前方にアステル。

 斜め後方、右側にミュイユ。左側にゼオ。

 俺を中心に三角形を描くような配置。強敵に対する俺達の基本陣形だ。


 なお、換身符(ジュスカフト)とかいうお守りは既にミアムから人数分借り受けて、四人全員が身につけている。俺達のうち誰か一人でもこれを発動させたらこちらの負けになる取り決めだ。

 陣形を整えた俺達を一瞥すると、トープドールは首を傾げて言った。


聖王(スプリミオ)殿は、武器は使わないのか?」

「え? あぁ、えっと……」


 確かに俺は、素手のまま彼と向き合っている。が、決して徒手空拳で戦うつもりはないしそんな技術も無い。

 抉界戟(ゼプシュラー)という武器を、いわば隠し持っているのだが――。


「……この仲間達が最大の武器、というのでは駄目でしょうか」


 何も手の内を全て事前に明かす必要は無いだろう。それっぽい言葉でごまかそうとしてみる。

 シグネーさんに聞かれるとまた煽られそうな、そのこっ恥ずかしい俺の言葉を聞いたトープドールは、俺の内心を察したのか否か、ふっと小さく笑った。


「構わないさ。だが――」


 と、口元は笑ったまま鋭くこちらを見据え、続ける。


「手を抜いたまま負けるような真似だけはしないでくれ。手を抜くならせめて勝って欲しい」


 うーん……。実のところ、手加減とかじゃなく抉界戟(ゼプシュラー)を取り出すところをあまり見られたくないだけなんだけど……まぁいいか。いずれ見せることになるだろうし。


「……頑張ります」


 とだけひとまず答えておいた。

 トープドールは頷き、少し離れた場所で石段に腰掛けたミアムに目配せする。

 合図を受けたミアムはゆっくり立ち上がると、こちらを見渡して言った。


「準備はいいみたいだね~。それじゃ――」


 そして、一際声を張り上げる。


 その号令によりついに、俺達と魔族(ディアティーアン)トープドールとの、奇妙な戦い――保証付きの果たし合いが始まった。


「――いい感じに始めちゃって~!」


 しかしその気の抜ける号令はもう少しなんとかならなかったのか。

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