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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
断章4 フィーノ

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1 再びくどい手紙

 残るは一匹。


「アステル、防御を!」

「お任せくだっ……さいっ!!」


 枯蓄鳥(ピナッタ)の巨躯による超重量の突進を、アステルは難なく受け止め弾き返す。


「ミュイユちゃんっ! 今ですよっ!」

「はいよ」


 弾き飛ばされよろめいた枯蓄鳥(ピナッタ)に向かって腕を振りかぶるミュイユ。


随祈(エデア)――『現月鏡(ムルミレディニ)』、鋼花(ブランゲイア)


 その手から放たれた金属片が空中で無骨な大剣へと姿を変え、枯蓄鳥(ピナッタ)の脚に襲いかかる。

 足元への斬撃で大きく体勢を崩しながら、枯蓄鳥(ピナッタ)はなおも威嚇するようにその翼を広げる。

 丸々と脂肪を蓄えたその体躯を誇示するが如く広げた両の羽。その前に無数の炎の矢が展開され、


「ゼオッ!」

「うん、対応済み。随祈(エデア)、『呪方・溶堕門(ゲノニエ・ウープ)』」


 それらは発射される前に消失した。 

 ゼオによって既に枯蓄鳥(ピナッタ)の足元に投擲されていた黒針、冥指(ヴェスデ)から立ち昇る瘴気の柱が、炎を全て掻き消していた。

 必殺だったはずの攻撃の不発に驚き戸惑う様子の枯蓄鳥(ピナッタ)

 それは僅かな隙だったが、俺には充分だ。

 駆け寄り、抉界戟(ゼプシュラー)による刺突と共に、放つ。


「『裁儀(ディスプロディ)』――『(アダーフェ)』!!」


 抉界戟(ゼプシュラー)の穂先は軽くかすめた程度だったが、それで事足りる。

 苦しさに呻くような低い鳴き声を上げた後、枯蓄鳥(ピナッタ)は再度炎の矢を展開し、撃ち出した。

 乱れ飛ぶ炎。直撃すれば跡形無く消し飛びかねない爆撃だったが、もはや恐れることはない。

 同様に、巨体を活かした突撃も。


 既にその()()()()()()()()()


 俺達の周囲に着弾した炎は派手に爆風を上げるが、ぬるい風に軽く吹かれた程度にしか感じない。

 俺は爆風の中を悠々と歩き、ミュイユの元へ打ち合わせに向かう。


「姐さん、アレはもう通ってるから、あとはいつも通り適当にやっちゃって」

「みたいだね。任せといて」


 携えた小振りの曲刀を手の代わりに振りながら答えるミュイユ。

 さて、勝ちも確定したことだし、休憩がてら昼食の仕込みでもしておこうか。

 この場を離れ導輿(カーフローツ)に戻ろうとした俺は、背中にふんわり柔らかい圧力を感じた。

 何かと思い振り返ると、目の前に枯蓄鳥(ピナッタ)の巨体。

 どうやら、苦し紛れに俺に向かって突進攻撃を仕掛けてきていたようだった。

 なんかちょっと気持ちよかった。攻撃力が無い状態だとこんな感触になるんだ、枯蓄鳥(ピナッタ)の突進。

 いっそもう一回食らってみてもいいかも……なんて考えを自制し、俺は相変わらず自身に発生した異常に気付けていない枯蓄鳥(ピナッタ)に背を向けた。

 後はミュイユに任せておこう。




 かくして、今回の討伐依頼――『炎祇(ヴァーハート)の力を取り込み暴れまわる枯蓄鳥(ピナッタ)の群れ』の討伐は難なく終えることができた。

 下手すると一日二日では終わらないかも、とも考えていたため、初日であっさり片付いたのは僥倖だった。

 副産物として大量の枯蓄鳥(ピナッタ)肉も手に入った。どうやって使い切ろうか、多すぎて使い方がまとまらない。至福の悩みだった。


 夕刻。郊外の森から無事ローナセラに帰還した俺達は、夕食までには帰宅することだけを取り決め一旦解散した。

 俺は依頼の報告のため共壇(ザフティーグ)へ向かう。


 そこで俺を出迎えたのは、眠気だか何だかで既にやる気を消失させたシグネーさんと、彼女が差し出した一枚の手紙だった。


「手紙……俺宛ての、ですか?」

「はい。今日指定の特別便で届けられました。セラン・ウェーラーからの便ですね」


 と、片手で頬杖をついたままとても面倒くさそうに手紙をこちらへ寄越す。


「随分と念入りに、いつ頃届くかと確認されたそうです。なお発送元は無記名ですが、サラサラキラキラな長めの金髪と北部伝統風の鎧が素敵な美丈夫だったとの事です。また出先で引っ掛けてきたそういうのですか?」

「またって何ですかどういうのですか引っ掛けてません一度も」


 シグネーさん、だいぶ疲れてるのだろうか。あまり普段は言わない系統の軽口だったが。

 しかし、特に思い当たるところのない容姿の情報だ。手紙というと最近奇妙なものを貰ったばかりな気もするが……今度は何だろう。

 俺はシグネーさんから手紙を受け取り開封してみる。

 そこに書かれていたのは――、




《愛しの聖王ちゃんへ♡(会ったことないけど)

 そうです今回も私です。って、この間の手紙は受け取ってくれてるよね? なかったらちょっと悲しみ´-`

 といっても、これは代筆。聖王ちゃんに用があるのは私じゃなくてトープドールっていう私の仲間……仲間かなぁ? なんだけど、手紙の書き方がわからないというので私が代わりにしたためました。

 彼、真面目なのはいいんだけどあまりに(あまりに!)筆が遅くて、本人に任せてるといつになっても出来上がらなさそうだったからたまらず私がやっちゃった、っていうのが真相。褒めてもいいよ。

 さて肝心の本題ですが、トープドール君、聖王ちゃんに謝罪と決闘の申し込みがあるそうです。

 何言ってるかわかんないよね? でも実際大体そんな感じの用らしいよ。

 場所はセラン・ウェーラー南の街道、ウダウル沿湾村っていう宿場町から東へ逸れたところにある、廃村の中央広場。

 この手紙が届いてから一週間後、正午頃に来て欲しいってさ。(三日くらいは余裕持たせてるからちょっとくらい前後しても大丈夫)

 ちゃんと仲間の人と一緒に来てね。聖王ちゃんにも有益な情報を持ってきてるから損はさせないと思うよ。

 そんな感じだからよろしくね♡

 ――通りすがりの代筆女より


 追記:有益な情報って、聖王ちゃん達も各地で探してるらしいアレのことです。有益でしょ?

 本文に書けばいい話だけど追記した方がかっこいい気がしたので追記しました。どう?》




「何これ」


 思わず率直な感想が漏れ出た。

 完全にこの前ローナペゼの共壇(ザフティーグ)に手紙置いてったのと同じ奴じゃねぇか。

 いや、用件があるのはトープドールという人物らしいが、これに代筆させてよかったのか? 頼む相手間違えてないか?

 まさかシグネーさんの言うサラキラ金髪がこの手紙の女……ではないな。持ってきたのは男らしいし。


「……どうしました? どうにも形容しがたい表情で手紙を読んでいますが、そんなに形容しがたい内容だったのですか?」


 シグネーさんが訝しんでこちらを覗き込むように見る。頬杖のまま机にほぼ寝るような姿勢になっていた。いいのかそれで。


「いや……要点だけならごく単純な内容ではあるんですが……」


 見てもらった方が早いかと思い、俺は手紙をシグネーさんに手渡す。

 頬杖――というかもはや腕枕?――とは逆の手で受け取って、シグネーさんは顔の前に垂らすようにして手紙に目を通した。


「はあ……なるほど……? 謝罪と決闘……?」


 どうにも形容しがたい表情で頷きつつ、明らかに疑問符の付いた反応を返すシグネーさん。

 でもまぁやはりそうなるだろう。言ってることは単純だがどうにも何を言ってるかわからない内容だし。


 シグネーさんは体を起こすと再度手紙に目を通し、やがてこちらを見て口を開いた。


「……で、聖王様(スプリミオ)は行くのですか?」


 今までの怠惰全開っぷりは鳴りを潜め、至って真剣な面持ちになってこちらを見据える。

 彼女の言わんとすることは解る。こんな得体の知れない誘いに本当に乗るのかと。

 それは至極もっともな問いだ。

 だが――。


「……行きます。危険を冒す価値はあると判断しました」


 シグネーさんの視線を受け止め頷く。

 手紙の末尾に書かれたアレとは、恐らくは『聖標器(ヴァイネライナ)』の事。

 その情報が手に入る可能性があるなら飛び込むのも吝かではない。

 それに。


「それに、俺には頼れる最高の仲間がいますから。大丈夫です」


 アステル。


 ゼオ。


 ミュイユ。


 あの三人が共にいる限り、恐れるものは何も無い。

 どういった魂胆の誘いか知らないが、受けて立とうじゃないか。

 そんな決意を込めて答えると、シグネーさんはなんだか含み笑いのような表情になっていた。


「……何ですかその顔」

「いえ、なんとも恥ずかしげな台詞を恥ずかしげもなく頂きありがとうございます」

「恥ずッ……!?」


 いや特に格好つける意図は無かったんだけど、そう混ぜ返されると急に恥ずかしげが湧いてくるんですが。

 赤面する俺をシグネーさんはしばし愉快そうに眺め、そして真面目な表情に戻って言った。


「では聖王様(スプリミオ)は、これより二週間、セラン・ウェーラー方面への出張という形で処理させて頂きます。その間の依頼はこちらの判断で保留あるいは破棄とします。……ご武運を」


 お辞儀するシグネーさんにこちらも頭を下げ、俺は聖立共壇(ザフティーグ・セレン)を後にした。


 さて、旅の準備だ。

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