表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
断章3 ゼオ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/110

8 枯香猪の雪代鍋と地湖鱸料理盛り合わせ

「倍っ!? 元の報奨金のですかっ!?」


 アステルが目を丸くして驚く。


「うん。……といってもどこかでリレア貨幣に両替しないと、このままじゃこっちでは使えないらしいんだけど」


 俺は頷いて、手にした革袋を掲げてみる。詰まった金貨の重みが足先まで伝わりそうだ。

 元々三人組の捕縛依頼の報奨金として提示されていた額の、およそ二倍。ロティが言うには、それが少女の置き土産として俺に送られた金貨の価値だった。

 本当にこんなの貰ってよかったのか? と改めて思う。なんせ対象は取り逃がして依頼は達成できていないし、戦ったのはゼオだけで俺は寝てただけだし。

 ……とりあえずゼオには、後で良さげな酒でも買っていってあげることにしよう。


「北部のお金の両替ってどこでできんの? セラン・ウェーラーにでも行かないと駄目?」


 ミュイユが仄甘い息を吐きながら訊く。


「いや、ローナセラでも両替はできるらしいから、帰ってから共壇(ザフティーグ)で問い合わせてみるよ」


 路面の傾斜に気をつけつつ答える。

 山間部に拓かれた街であるローナペゼは、街路の起伏がなかなかに激しく、意識していないと転びそうになることが多々ある。つまづいて金貨をぶちまけでもしたら事だ。


 共壇(ザフティーグ)を出てアステル、ミュイユと合流した俺は、二人に経緯を報告しつつ、料理店を探してローナペゼの街を歩いていた。

 時刻は少し早い昼前。土地勘の無い場所だし早めに動き始めた方が良いだろうと、案内板の地図を確かめながら飲食街らしき方面を目指す。

 ゼオは宿で寝ていた。まだ本調子ではないらしく、食事は宿で用意できる軽食で済ませるとのことだった。

 珍しくやる気を出していたため任せてしまったが、少し無理をさせ過ぎたかもしれない。倒れたゼオを思い出し反省する。



 そもそもの契約難度もさることながら、死祇(フヌ)はその維持と行使にも多大な負担を強いる。

 死祇(フヌ)が契約の代償として要求するものは『死』。マトモな手段では契約維持など不可能も甚だしいのだが、何をどうしたのか、ゼオは『極度の酩酊状態』を死と誤認させて捧げることで維持を可能にしているらしい。


 酒が切れると本来の代償である『死』を要求されて絶命する危険性があり、また一定量を超えた酩酊状態が供物として取り上げられるため、いくら飲んでも泥酔することはない。

「ありがたいんだか悲しいんだか。難儀だよね」

 などと本人はぼやいていた。


 そして死祇(フヌ)は、その力を行使する際にも生命力を要求する。

 通常の祇心(エシェ)と違い契約する際の細工が効かないため、ゼオは文字通り命を削って術を使用しているのだ。

 こちらは消耗しても休めば回復する程度のものなので普段はそう気にする必要は無いのだが、今回のように無理な使用を続けると意識を失うこともあるし、最悪の場合死に至る。

 なんて厄介な代物を扱っているんだと改めて思う。おかげで普段助けられているのは間違いないのだが。



「フィーノ様、あのアレがっ! あれってアレじゃないですかっ?」


 と、アステルが俺の袖を引っ張って前方を指さした。

 どのアレが何なんだよ、と指した先を見ると、


「……あぁ、アレがあの」


 なんだか古ぼけた意匠の、一軒の飲食店らしき建物があった。

 年季を感じさせるくすんだ木造の外観に大きめの窓。扉の前に立て看板があり、店名と共に料理の名前と説明書きが並ぶ。

 その中で特に大きく推されていたのは、「枯香猪(ワブファス)の雪代鍋」。この辺りの名物料理という話だったか。うずたかく盛った肉を覆い隠すように荒くおろした白い野菜類を乗せて調理する、雪山に見立てた鍋料理だそうだ。

 そしてその看板の隅に、真新しい字で最近書き足されたと思しき注意書き。


 ――『無銭飲食厳禁』。


 ……まさか。ここが今回の発端の店なのか?

 奇妙な縁と、どことない申し訳無さを覚える。


「んー、良さげじゃん。アタシは有り。むしろ行きたい。食べたい」

「ですよねっ! ほらフィーノ様、せっかくですしここでどうですかっ!」


 随分と乗り気な様子のミュイユに、提案の体だが有無を言わさぬ語気のアステル。

 まだ飲食街に着いてもいないのに、なんだかもう決まったような雰囲気になっている。


「まぁ……確かに気になるし、ここにしようか」


 流されるようだが、興味があるのは確かだった。昼食をこの店に決めたことを告げると、二人は歓声と共に駆け足で店の入口へと向かった。

 立て看板の品書きに食らいつき、何を注文するかで盛り上がっている。


「具材、なんだか色々ある中から選べるみたいですよ!」

「ほんとだ、枯羽牛(フブール)とか枯蓄鳥(ピナッタ)にもできるんだね。いやでもここは枯香猪(ワブファス)でしょ。一番基本っぽい。外せない」

「ですねっ! ではそれを軸に付け合わせの一品などで他のお肉も制覇しましょう! 種類の多さに目移りで目が回りそうですがっ!」

「待って。鍋の肉、合盛りも可能って書いてある。惑わせてくれるねこの店」

「そんなの可能性が無限大で幸福と苦悩が大混乱じゃないですかっ!? こうなったらお肉と言わず料理を制覇蹂躙し尽くす方向で……あっ」


 と、品書きを凝視していたアステルが何かに気づいたように声を上げる。

 俺の方を振り返ると、


「フィーノ様見てくださいこれ! 地湖鱸(ペスビス)料理もいくつかあるみたいですよ! 鍋とは違うみたいですけど」


 品書きの一点を指差して言った。

 近寄って見てみると、魚料理と括られた一角に、見慣れない料理名の数々。その中に確かに地湖鱸(ペスビス)らしきものも並んでいた。

 説明書きには、酢漬けにして揚げたものだの切り身に香草を挟んで焼いたものだの。どうにも想像がつかない。


 ……これは気になる。

 どんなものが食べられるのかという興味自体もさることながら、あわよくば俺が料理するときの参考に、なんて考えも浮かんできてしまう。

 ……そういえば俺が昨日作った地湖鱸(ペスビス)料理、結局食べられずじまいだったんだよな。どっかの食い逃げ犯のせいで。

 よし、帰りにまたあの宿場町に寄って地湖鱸(ペスビス)を買って帰ろう。ゼオを労うためにも再挑戦だ。


「フィーノ、まだ決まんないの? 入るよ」


 と、気付けば扉に手を掛けて待っているミュイユ。

 アステルの姿は無い。既に入店してしまったようだ。


ミュイユ(姐さん)達もさっきまでがっつり悩んでたじゃないか……。いや、うん今行くよ」


 なんか理不尽なものを感じつつミュイユの後に付いて店に入る。

 店内には三組程の先客の姿。外観通り落ち着いた趣きのある内装が目に入ると同時に、燻した魚介のような芳醇な香りが鼻腔を突き抜け空腹に突き刺さった。


「フィーノ様ぁー! ミュイユちゃーん! こっちですよー!」


 既に着席しているアステルが大きく手を振ってこちらを呼ぶ。それ程広くも混雑してもいない店内、そんな大袈裟に呼ばなくても見ればわかるが。


「フィーノ様、注文は決まりましたかっ? 私はまだですっ!」


 決まってないんかい。


「早く決めちゃってね。アタシはそれを参考にするから」


 姐さんあんたもか。優柔不断しかいねぇ。


「さっき表で話してた時間は何だったんだよ……。あー……そうだな、じゃあ俺は……」


 どうやら俺が注文を確定しないと先に進まないらしい。

 苦笑して、俺は既に決めていた注文内容を口にする。

 内容を聞いた二人には驚かれたようだが、今はとにかくこうしたかったのだ。仕方ない。

 それからしばらく後、二人の意見もようやく決まり、店員に注文を伝えた。

 少しずつ混みだし賑やかさの増した店内で、談笑しながら俺は料理の到着を待つ。


 ――半盛りの枯香猪(ワブファス)鍋と、全制覇する勢いで頼んだ大量の地湖鱸(ペスビス)料理を。


《何その思い切った攻め方。貴方、そんなにあれが尾を引いてたの……?》


 うるさいな。そうだよ。呆れたようなロティの声に心中でだけそう答えた。

 そういえばあの三人組もここで山ほど食べたんだっけか。

 ゼオなら何を頼んだだろう。酒には合うのかな。

 とりとめない思考と共に料理を心待ちにする俺の背後で、ぎしりと入口の扉の軋む音。

 吹き込む風が店内に満ちた芳香を散らし、新たな客の来訪を告げた。



 ――これは旅の一幕。愛しい仲間達との記憶の断片。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ