7 くどい手紙と見知らぬ硬貨
俺達がローナペゼの街に辿り着いたのは、夜も更けた頃だった。
倒れたゼオを介抱し、食事と酒を摂らせ、休憩も多めに挟みながら導輿を走らせていると、予定より随分遅い到着になってしまった。
既にローナペゼの聖立共壇は業務を終了している。
今日起こった事――ローナセラにて魔族三人組の捕縛・討伐依頼を請け負った事、ローナペゼへの道中にその対象と遭遇し交戦した事、結局色々あって取り逃がした事を報告しておきたかったのだが、少し遅かったようだった。
その日は諦めて街で宿を取り、翌日改めて共壇に向かう。
そこで俺達を待っていたのは、予想だにしない結末だった。
「……捕まった? 件の魔族達が?」
「はい。昨日の夕方頃に、なんと言いますか……連行されて来まして。いえ、確かに捕まったのですが、当共壇では確保できていませんでして……」
窓口の青年の説明も妙に歯切れが悪く、いまいち状況がよくわからない。
「えっと……すみません、一から説明してもらっていいですか?」
「あっ、すっ、すみません聖王様。なにぶん私共も混乱しておりまして」
困ったように汗を拭きながら青年が語りだした内容は、確かににわかには理解しがたいものだった。
……それはそうと、やっぱり一般冒険者フィーノじゃなく聖王の名義で受理されてんじゃねぇかこの依頼。何してくれてんだシグネーさん。
昨日の夕刻頃。
混雑する構内に、一人の少女が例の三人組を伴って現れたという。
三人は冗談のように荒縄でぐるぐるに巻かれており、辛うじて歩ける程度に縄に若干の余裕を持たされた足で、自主的に少女の後ろを付いてきた。
その表情は虚ろだが、どこか紅潮したようにも見えた。
少女は周囲の注目とざわめきを意に介さぬ様子で列に並び、窓口に案内されると、受付の青年に、
――この三人はこちらで確保した。聖王には、もう追わなくて良いと伝え、これを渡して欲しい――
そう言って窓口に膨らんだ革袋と手紙を置き、三人を引き連れて去っていった。
「そして、こちらがその袋と手紙になります」
青年が机の下から丈夫そうな革袋と、折りたたまれた手紙を取り出した。
脳内に疑問符を飛び交わせたまま、俺はそれらを受け取る。
随分ずっしりとした袋の中には見慣れない硬貨が数十枚。
《これは……アイレア金貨じゃない。未だにこんなのを使ってるのはセラン・ウェーラー住民か北部の魔族くらいのものだけれど……》
ロティの声。南部では基本的に流通していない物らしい。
俺は一旦袋から手を話し、手紙を開いて内容に目を通してみる。
そこに書かれていたのは――、
『愛しの聖王ちゃんへ♡(会ったことないけど)
貴方がこれを読んでいる頃には、私はきっともうそこにはいないでしょう。急ぎで帰るからね!
なんて冗談はさておき、私がお伝えしたいのは巷で?話題の?あの魔族三人組のことです。
あまり詳しくは書けないんだけど、彼らは怪しげな闇の仕事?みたいなのを請けて、聖王氏を狙ってきたらしいのです。
勝手にそんなことをして、魔族が怪しげな闇の組織と繋がってる、なんて思われたら私達も困る!ので、責任持ってこちらで捕まえさせてもらいました!(褒めてもいいよ)
私達、っていうのが何を指しているのかはここでは書かないことにします。多分そのうちわかると思うよ。お楽しみにねっ!
なお、聖王ちゃんには身内の不手際(ってことになるのかな?)で危険な目に遭わせちゃったわけで申し訳無いので、お詫びとしてお金を用意しておきました。
彼らに掛かってた懸賞金の代わりと思って受け取ってね。
お金で許してもらおうなんてちょっとはしたないかな?なんて思わなくもないけど他に思いつかなかったの。許して♡
あと両替する時間がなくてこっちのお金そのまま包んじゃいました。許して♡(しつこい)
それでは僭越ながら、聖王様の旅のご無事をお祈りしております。
今度は会えるといいな(なんてね)
――通りすがりの横取り女より
追記:彼らの食い逃げ代金もこちらで立て替えてあります。聖王氏は気にしなくていいよ。ところで追記ってなんかかっこいい雰囲気出るよね。出ない?』
「何これ」
思わず率直な感想が漏れ出た。
いや、何なのかは辛うじてわかる。
恐らくその少女は魔族における治安組織のようなもので、不法に外国を襲撃した三人組を捕らえにきた、といったところだろう。
……珍妙な文体のせいでどうにも頭に入って来づらいけど。
そしてこの金貨。
わざわざ気を利かせて俺に置いていったらしいが……受け取っていいのかこれ?
「あの……聖王様、大丈夫ですか……? なんだか随分難しい顔をしておられますが」
思ったより長く手紙とにらめっこしてしまっていたのだろう。青年が心配そうに声を掛けてきた。
「あ……あぁ、すみません。えっと……」
この手紙をそのまま見せるのはどうにも気が引けるところがあったので、俺は内容を掻い摘んで説明する。
説明を聞いた青年は、俯き気味にしばらく何やら考え込んでいたようだったが、やがて顔を上げると、
「わかりました。……いえ、あまりわからない点も少なくありませんが、とにかく聖王様は報酬としてこちらをお持ち帰りください。上……シャディオン様へはこちらから、適度な形に報告しておきましょう」
と、机の革袋をこちらへ差し出した。
「受け取っていいんですか? いや俺は助かりますけど、なんかこう問題とかありません? 立場とかそういうの的に」
「置いていかれても困りますので」
「……まぁ、それはそうですよね」
そう言われてはこちらも拒否しにくい。
「では、ありがたく頂いておくことにしますね。後のことは……すみません、よろしくお願いします」
「お疲れ様でした。その感謝は、件の少女に会った時にでも」
そういって微笑む青年に俺は頭を下げ、革袋を掴むと、共壇を後にしたのだった。




