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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
断章3 ゼオ

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4 無力は無差別に

 随分もたもたと三人組が岩場から降りてくるのを見届けつつ、俺はゼオの傍を離れて導輿(カーフローツ)へ向かった。

 残った食材で、今からでも何か軽く作れないかと考えてのことだ。

 もちろん、いざという時にはゼオに加勢する準備も怠ってはいない。

 やっとこさ降りてきたサイザがゼオに向かって大層な口上を述べているのを横目に、俺は念の為わずかに仕込んでおいた地湖鱸(ペスビス)の切り身の油漬けと乾燥焚砕麦(パヌーエ)を食糧庫から発掘。

 これで軽食程度は拵えることができるだろう、と安堵したところで、戦いの口火は切られた。


 最初に動いたのはサイザだった。

 恐らくは先程奇襲として仕掛けてきた氷錐攻撃を再度繰り出そうとしたのだろう。

 北部民族特有の大袈裟な詠唱と共に、派手な杖をこちらへ向けた。


「――『寂静にして不動の王、理を裂く者。我が威を断絶の刃と成し』――」

「あ、それはさせないよ」


 割り込むようにゼオが槍の柄を足元に突き立てる。


「えっ、ごめんゼオそれはちょっと待っ」


随祈(エデア)、『呪界・怨心首(グネーデオ・ファウフ)』」


 俺の制止は間に合わず、それは発動した。


「むッ……!?」

「サイザさん、下がって……!」


 杖を引っ込めるサイザ、二人をかばうように前に出るメミナ。


 ゼオが足元に突き立てた槍の穂先から、得体の知れない不可視の力場のようなものが展開される。

 本来地上に存在して然るべき何かがすっぽりと抜け落ちたような、言い表わせられない怖気を催すその空間は、ゼオを中心に大きく広がり、俺達だけでなくサイザ達三人も飲み込み、更に拡大してゆく。

 そうして、辺り一帯を覆い尽くしきったところで拡大は止まった。ちょっとした集落程度なら丸ごと収まる程度の半球状の空間が、俺達の上に被さっている。


「何だ……この不快な空気はッ……?」


 顔をしかめつつ身構えるサイザ達。辺りを見回し警戒するが、特に続けて何かが起こる様子は無い。


「相手をなんだか嫌な気分にさせる類の術か」

「類もなにもそんなみみっちい術聞いたことありませんけど。……と言っても、確かにもう何も起こらないようですね」

「ふむ、こけおどしか何か知らんが、私をなんだか嫌な気分にさせた報いは受けてもらうぞ」


 サイザが杖を振るい、先程中断した詠唱を再開する。


「――『聳える愚者を贄と為せ』ッ!!」


 サイザの声が高らかに響き渡り、氷錐の乱舞が、特に発生しなかった。

 虚しい沈黙が辺りを満たす。


「何……だと? 何故だッ!?」


 想定外の事態に慌て、再度詠唱を行うが、氷が放たれることはない。


「サイザさん、わたしも駄目みたいです……!」


 隣でメミナも何らかの術を行使したようだったが、同様に不発に終わっていた。


「馬鹿な……まさかこれは……ッ!」


 サイザが上空からのしかかる半球を見上げて狼狽する。

 その推測は恐らく正しい。不発の原因は、ゼオが展開させたこの空間にある。


 呪界・怨心首(グネーデオ・ファウフ)

 領域内への、祇心(エシェ)の干渉を遮断する――即ち、術の発生を無効化する術。

 この領域では、単純な物理によるもの以外の戦闘行動が、また戦闘に限らず祇心(エシェ)の力を利用した行動が一切取れなくなる。炎祇(ヴァーハート)による発火も、戦祇(エープウェール)による身体強化も何もかも。

 影響を受けるのは無論敵だけではない。素の身体能力ではなく術の展開を主として戦うアステルとミュイユは共に、領域内では戦闘が全くと言っていい程できなくなる。導祇(ロテューメテイア)――ロティもこの中には干渉できないそうだ。

 そして、俺は――。


「……待ってって言ったのに……」


 辛うじて動く口でぼやいてみるが、それ以上のことはできない。

 俺は導輿(カーフローツ)の床に突っ伏して寝た体制で、成り行きを眺めていた。


「あれ、フィーノ様なにしてるんですかこんなところで寝て」


 と、そこへ戻ってきたアステルが、導輿(カーフローツ)を覗き込んで首を傾げた。相変わらずミュイユが背中に貼り付いている。


「何と言われても……動けないんだよ。ゼオのアレのせいで」

「ゼオさんの……? あー、フィーノ様そういう体質でしたっけそういえば」


 体質……かなぁ? 性質の方が近いかもしれない。どちらかと言えば。

 呪界・怨心首(グネーデオ・ファウフ)の影響下では、俺は一切の行動が取れなくなる。なんとか小声で喋る程度は可能だが、恐らく水も飲めないだろう。

 目だけを動かしてアステルの様子を見る。

 時間が経って落ち着いたのか、単にゼオが動いたせいで矛先を見失っただけなのか。先程までの狂気じみた態度は鳴りを潜めているようだ。

 俺から目を上げ、導輿(カーフローツ)の中を眺め回すアステル。


「私もですね、ゼオさんのアレが出たのでやることがなくなりまして。持て余した怒りと暇を、お茶でもしばき回すことで解消しようかとこちらへ……あれっ」


 と、アステルの視線がある一点で止まる。俺の首の角度では見えないが、何に目が留まったのかはおおよそ想像がつく。先程俺が食糧庫から取り出し机に並べておいた、


「魚ぁ!!」


 真っ先に声を上げたのはミュイユだった。

 アステルの背から転げ出るように机に向かうと、地湖鱸(ペスビス)の油漬けと乾燥焚砕麦(パヌーエ)に飛びつく。


「フィーノっ、これっ、魚っ、食べっ、お腹っ、魚っ」


 まるで言葉になっていないが、言いたいことはまぁ大体解った。


「いいよ、そのために用意した物だからね。……あぁ、でもその焚砕麦(パヌーエ)はそのままだと硬すぎるから、軽く塩を振ってから水をまぶして、ほぐした魚を……」

「硬ぁッ!!」

「フィーノ様これカッチカチで無理ですよっ!? 本当に食べ物ですか実は投擲武器とかじゃないんですか!?」

「……まぁ投擲しても強そうだけどさ……」


 話を最後まで聞かずに齧りついた二人の悲鳴に、か細い嘆息が漏れた。

 ふと、アステルの祝福・砕突一点セリエ・ゼノヴォーゲンなら噛む力も強化されるのだろうかなんてくだらない思考が浮かぶ。まぁ呪界・怨心首(グネーデオ・ファウフ)の中にいる今は試しようがないんだけど。

 二人にもう一度食べ方を口頭で説明しながら、俺は今のこの状況の原因である三人組とゼオの方に意識を戻した。

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