変
店には予約時間ちょうどに着いた。受付を済ませて案内された席で早速カケラはタッチパネルで注文を始める。
「トウ君は何食べる?」
棟万千はレーンを虚ろな目で見つめている。
「トウ君?」
「……あ、ああ、俺はツキの後に注文するわ」
「どうしたの? 調子悪い?」
少し間が開いた返答に違和感を持ったカケラは聞いてみたが否定された。
一時間後―――
「お腹いっぱいだねえ。ごちそうさまトウ君」
「おう。(こいつ半分以上イカ食ってたな)」
結局、会計はカケラが緻密に計算し1980円で棟万千が払う事になった。金額の三分の二はカケラのお腹の中に納まっている。
「帰ったらどうする? 久しぶりにゲームで対戦しない?」
コンビニで買った棒アイスを食べながらカケラは言った。
「連日の勝負で疲れたからソッコーで寝たいんですが」
棟万千は気分じゃないと言って買わなかった。
当然のようにカケラは部屋までついて来た。鍵を開けると先に入ってゲームの準備をしている。
だらだらとテレビゲームで対戦をしていると、カケラがベッドの上で寝落ちしやがった。風邪をひかないように布団をかけ、就寝の準備をする。
こういうことがたまに起きるので寝袋を買って部屋の隅に置いてあるのでそれで寝た。
「おはよう……」
寝起きのカケラの頭には寝癖がついていた。
起きたら同じ部屋に男がいることに疑問はもたないんだな、と内心ツッコミつつ帽子を被せる。
「登校の準備するから出てけ。ツキも準備があるだろ? お互い風呂入ってないしな」
と、もっともらしい理由をつけて追い出した。
カケラを見送って扉を閉めると、扉に背中を預けて座り込んだ。
「(これは、思った以上にヤバイかもなあ)」
三日前から続く不調、原因はわかっている。わかってはいるのだが……。
「市販の薬でごまかすしかねえな……」
ただでさえ学園中が敵なのだ、体調不良ごときで欠席したら何を言われるか。想像するだけで重い身体が余計に重くなる。
風呂をシャワーで済ませ、のそのそと準備をして買い置きのチューブのゼリーを昼飯込みで四つ、手に一つ持って部屋を出た。時間はまだ余裕がある。
「(思った以上にダルい……)」
教室につくと倒れるように席に伏せた。
「おいサソリ、朝からずいぶんとお疲れだな」
「まさか朝からイヤらしいサイトでも見てたのか」
ケタケタと笑うクラスメイト達の相手をするのさえ今は面倒だ。
無視していると「聞いてるのか」と机を蹴られた。
のそりと上体を起こす。身体が重すぎて腕も頭も上がらない。
「……」
「あ? 聞こえねえなあ」
一人が耳を近づける。
「うるせえって言ったんだ。俺は今気分が悪いんだ。話しかけるな」
教室の空気が一気に張り詰めた。
「な、なんだよ……ちょっと挨拶しただけじゃないか……」
普段なすがままの棟万千が怒気がこもった声で言い返したからか、彼らは少し気まずそうに自分たちの席に戻っていった。
「(ったく朝からピーピーピーピー、何だってんだよ)」
その日はカケラ以外話しかけてくる奴はいなかった。どうやら朝のが相当効いたらしい。
病院に行く気も起きず、日増しに目つきが悪くなる棟万千につっかかるバカは教師でさえおらず、金曜日まで体調以外は何事もなく終わった。
金曜日の帰宅は明日から二日は休んでいられるという安心からか身体に力が入らない。いつもなら徒歩三分の距離を十分かけて帰るとリュックも下ろさずにベッドに倒れこんだ。
「ダルすぎる……」
自然と瞼が閉じていく。このままでは寝そうだったので、なんとか部屋着に着替えて歯を磨いてから再度ベッドに倒れこむと気絶同然で寝てしまった。
翌朝、棟万千は猛烈なインターフォンの音で目が覚めた。
「うるさ……何?」
寝起き十秒の顔で対応をする。訪問者は当然カケラだ。
「おはよ……って大丈夫? ひどい顔だよ?」
「誰のせいで……ダル……入れ」
珍しくカケラを招き入れるとイスに倒れるように座った。
「大丈夫?」
「見てわからないか?」
冷蔵庫から未開封のペットボトルを出し、開けようとするが力が入らない。
無言でカケラに突き出すと開けてくれた。
「心配するな……ただの毒の使い過ぎだ……」
昨日の帰宅から水すら入れてないから一口飲んだだけでも滲みわたるのがわかる。
「先週のテールリーグで……私が勝手に、参加させたから……」
カケラは消えそうな声で言った。
「そういうことだから今日は帰ってくれると……」
「じゃあ今日はトウ君の看病するね」
ぱっと顔を上げて言った。
「……へ?」
一瞬の思考停止後、まぬけな声が出た。
「身体しんどいんでしょ? 原因は私だし、それにしんどいなら他人に頼らないと。ね?」
「何か予定があったんじゃないのか?」
「別にないよ? ノープランでぶらつこうと思ってたから」
「いやいやいや、だとしても遠慮する。放っとけば治るし」
「放置して治ってないのに? ほら病院行くよー」
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