テールリーグ 終幕後
「あーダルかったー」
わざとらしく背を丸めた棟万千はカケラと寮への道を歩いていた。
「今日はお祝いだね。ね、何か食べに行こうよ。焼肉とかお寿司とか」
「……ツキ、俺ちょっと戻るわ」
「何か忘れ物?」
「そんなとこだ。先に帰ってどこに食べに行くか決めておいてくれ」
「わかった。暗くなってきてるから気をつけてね」
返事をした後にカケラが見えなくなるまで見送ると後ろに声を投げた。
「何か御用でしょうか」
物陰から出てきたのは教員五人だった。
「自分から一人になるなんてな」
「それを望んだのはそっちでしょう。闘技場を出た時から尾行されていたことに俺が気づいてないとでも?」
会話をしながら首を傾けると顔の横を何かが通過した。
「これを避けるのか」
そう言ったのはキリンの尻尾を生やした体育教師だった。
今度は半歩右に移動するとちょうど落ちてきた葉が音もなく真っ二つになった。
「突然、蹴りや斬撃を飛ばすのは教師としてどうなんですか」
斬撃を飛ばすのは狼の効果だ。カッコイイと生やす人間は少なくないが、制御が上手くいかず封印してしまうのもまた少なくない。
「安心しろ。これはお前に対しての特別授業だ」
「へえ、この状況で俺に何を教えてくれるんですか?」
「身の程の知り方、だ」
腹に向けられた拳を直前で受け止める。
「それは、是非とも受けたいものですな」
「まず教師に対してのその口調だ」
体育教師が蹴る。避ける。
「カケラさんの呼び方」
拳は受け流す。
「テストのカンニング」
足払いは跳んで避ける。
「カケラさんの付きまとい」
斬撃はわざと掠らせる。
「わ、っと」
行動を移す前に潜っていた教師に足を掴まれ、一瞬意識をそちらに向ける。
一斉に殴りかかって来たのが気配でわかったので避けると仲良く石畳を殴っていた。
「っぶない、ほんと」
掴まれていない方の足の踏み込みと叩きつけた尻尾の反動で距離を取る。
「お前、何者なんだよ」
「何者もなにも、ただの中学生ですよ。月満学園中等部二年 棟万千イグサ。それが俺です。それは差し上げますよ」
拳を向けてきた歴史教師のベルトにはいつの間にか賞金が挟まっていた。
「正直いって俺には必要ないんで」
賞金袋の中身は図書券や学園外で使えるクーポン券が計五万円相当入っている。
「じゃ、俺はお暇しますね」
追ってこられても面倒だったので何の効果もない霧を発生させて目くらましにした。と言ってもお暇できる場所は寮ぐらいしかないのだが問題ない。
エレベータ―は学生証かマスターキーカードをリーダーにかざさないと動かない仕組みになっている上、個人の部屋番号を学園側は知らされていないし、問い合わせがあってもフロントは答えてはいけないことになっている。
部屋の扉にはアナログの鍵もついているので心配はない。
「おかえりー」
部屋には先に戻らせたカケラがいた。
「また、いちゃもん付けられたんだね」
手の甲や顔についている赤い線をみたカケラが言った。
「教師に対しての口調がなってない、ツキっていう呼び方、付きまとい、カンニングを辞めろ、だと」
「いつもそれじゃん。他に言うことないの?」
常備している応急セットでカケラが手当てを始める。
「俺に言うなよ」
消毒液がしみて顔をしかめる。
「口調はそんなに酷いとは思わないし、ツキってあだ名は気に入ってる。付きまとってるのはむしろ私の方だし、成績は日頃の成果なのにね。ていうか、あんな決めつけた言い方されたら相応の口調にもなるよね」
「世間はそう思ってないらしい。つーか中間であれだけのことやったのにまだ疑ってるらしい。さすがに頭悪くないか?」
棟万千はテストがほぼ満点なのはおかしいと、毎回カンニング疑惑を懸けられている。
定期テストは机の中を空にし、机上も鉛筆二本とカバーを外した消しゴムのみがルールだ。
どうにかして不正をする輩はいるが、棟万千はその中に毎回含まれている。
今回の中間テストでは疑惑がもたれた生徒一同で再テストがあった。
突然校内放送で空き教室に呼び出され、ポケットに何も入っていないことを確認されたあと入室、距離が離され仕切りがつけられた机に着席、筆記具と一緒に配られた答案用紙、一対一の見張り。どうやってもカンニングが出来ない状況で解答を記入していく。日頃から予習復習を欠かさない棟万千は当然95点を取った。
それでもまだ、疑われているらしい。理由は当然サソリだから。
「はい終わり」
「サンキュー。で、どこに行くんだ?」
ケガの手当ては毎回カケラがしてくれる。カケラとしても慣れたものだろう。
「明日は普通に授業だしお寿司にしようかなって」
「じゃあ、近くの回転寿司でもいくか。お、いい時間に予約できそうだぞ」
「いっぱいたーべよ。トウ君の……」
「二千以上は割り勘だからな」
「なぜ奢られ前提なのバレたし。いーじゃん、世間ではデートは男が払うもんだってテレビでやってたよ」
「付き合ってねえだろ、俺ら。てかお前がさっき自分で付きまとってるって言ったんじゃねえか」
「世間的には逆だけどねえ」
「くだらねえ話してないで飯いくぞ飯」
「はーい」
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