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テールリーグ 試合前

「あそうだ、トウ君はテールリーグに参加しないの? もうすぐだしエントリーは始まってるよ?」

「テールリーグなあ……」


テールリーグとは尻尾を生やした生徒だけが参加できる校内戦のことだ。無駄に広い敷地に無駄に三つもある会場に分かれて行われる。

開催は毎年後期の中頃、つまりもうすぐだ。

学園の生徒はほとんど参加するかつトーナメント方式なので短くて五日、長くて七日かけて行われるからか、不参加の生徒からは秋休みなどと呼ばれている。

「金は困ってねえしなあ」

優勝者は学園から金一封が与えられる。当然開催中は授業も課題も無しなので不参加の生徒からは秋休みなどと呼ばれている。

「別に俺、戦いたくて格闘技諸々を会得してるわけじゃねえしなあ。どうせ勝っても不正だのなんだの言われそうだし」

何より参加する奴らの「俺強いカッコイイ!」な雰囲気が大嫌いだ。

そう、と落胆したような返事をしたので、棟万千はてっきり諦めたのだろうと思っていた。当日までは――


学園全体に嫌われていることを自覚している棟万千は、部屋でゴロゴロしていた。

どうせ会場に行っても嫌な顔をされるだけだし試合に興味もない。

「ジムでも行くかなあ」

部屋着からジャージに着替えているとモバイルが鳴った。

速報ニュースでも来たのかと持ち上げると、通知の内容に驚き呆れた。

『試合開始三十分前 第三会場』

「マジかあいつ……」

いつの間にかテールリーグに参加することになっている。

状況を理解して思わずベッドに崩れ落ちる。

おそらく、きっと、確実に、絶対カケラの仕業だ。

「(棄権の申し込みは時間外。教師に連絡、は番号知らねえし。何より)ツキが納得しねえよなあ。めんどくせえ……」

天井を見上げ目を閉じる。

すーっと深く鼻から息を吸う。肺一杯に空気を吸い込みカッと見開くと同時に吐く。

「っし!」

跳んで立ち上がると第三会場の控室に向かった。



「――――――」「――――――」

第三会場の控室前に来るとなにやら中が騒がしい。励ましあっているのかとも思ったが耳を澄ませると少し違う気がする。

なんというか発せられた言葉一点に向けられているような……

扉を開けると、その正面の壁に人だかりが出来ている。

「見ていてください! 俺、あなたのために勝ちますから!」

「抜け駆けすんなよ! こいつよりも俺の方が強いです! もちろんあいつよりも!」

人だかりの中心にいる人物には心当たり、というかそいつしかいない。

勝手にエントリーされた腹いせに助けずにいようかとも思ったがーーー

「お前の言う『あいつ』ってのは俺のことか?」

全員に聞こえるように少し声を張った。

十数人が一斉に向くとなかなか怖いものがある。

「おお怖っ」

人だかりの中から中心にいた人物がかき分けるように出てくる。

「ぷは、おはようトウ君」

「はよ。ところで」

何か言うことがあるよな?と寄って来たカケラの頬を掴んで引っ張る。

「らんろ(何の)こと?」

みよんみよんと伸ばし縮みを繰り返しながら文句を言う。

「お前だろ、俺をエントリーさせたの。てかお前以外いねえよ」

らって(だって)ほーくん(トウ君)ひつろくをひらふぇる(実力を知らせる)ふぁんふらと(チャンスだと)おもっちぇ(思って)

「知らせたところでどうなんだよ、ええ?」

そんな話をしていると気配を感じて、カケラから手を放して気配を掴む。

それはおそらく人だかりの中にいた一人の手だった。

「なんか用か?」

「やっと汚い手をカケラさんから放したな」

「汚くねえよ。さっき入口で消毒したし」

相手は舌打ちをすると力任せに手を振り払った。

「つーかよお、よってたかって自分強いですよアピールとか子供かよ。動物の求愛行動の方がまだマシだな。いや一回断られりゃ諦めるあたり動物の方がっ……」

言葉が途切れて視界が横にぶれた。左頬も痛い。

「そーやってすぐ手を出すとこがカケラさんに嫌われてるんじゃないか?」

「お前こそカケラさんがつきまとわれて迷惑してること、いい加減気づけよ」

「迷惑してるのはこっちなんだがなあ」

「どうせお前は初戦で負ける。それでカケラさんも目を覚ますだろう」

それに同調するように控室内のほとんどの人間が頷くと散らばった。

「ったく。ツキのせいだぞ。つーかなんでここにいるんだよ」

「エールでも送ろうと思って。時間通りに来たのにトウ君いないんだもん」

頬をさすりながらカケラが言った。

「当たり前だ。通知が来るまで寮にいたんだ。猛ダッシュで来たんだぞ」

「寮から五分で来るあたりさすがだね」

ため息をつきつつ手近なベンチに座る。当然のようにカケラも隣に座った。

「つーかどうやってエントリーさせたんだよ。指名者は匿名性とはいえ俺は弾かれる可能性が高いだろうに」

「私もそう思ったから誕生日プレゼントと引き換えにおじいちゃんに頼んだの」

カケラの祖父は月満学園の学長、つまりこの学園内では誰も逆らおうとは思わない人物だ。孫に甘いという噂がまことしやかに囁かれているが、カケラの話を聞く限りでは無条件で何でも訊くわけではないようだ。

「そうまでして俺を構う理由がわかんねえな」

「理由なんて何でもいいじゃーん」

「さーいでーすか」

そんなどうでもいい会話をしていると係の教員に呼ばれた。

お読みいただきありがとうございます

次回もよろしくお願いします

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