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棟万千の過去と世間

「この子にします」

イグサは養子だった。なかなか子宝に恵まれなかった養親たちは施設でイグサと出会い引き取った。

養父の名前は畳。養父はイグサという名前に運命を感じたのだと言う。

そのころには既にイグサには物心がついており、自分が実子ではない自覚はあった。だが、愛情であろう感情を向けてくれる養親に応えられるように勉強をして、いつしか養父を支えられるように中学は経済系の学校に進もうと思っていた。

しかし小五の春、弟の京間が生まれた。正真正銘の実子である。

そこから養親たちの態度がよそよそしくなった。

最初は世話で忙しいのだと思った。が、六年の夏、中学受験も考えなければならない時期になって養親から中学は全寮制の学校に行くように言われた。

将来養親たちの助けになるようにと勉強に励んでいたイグサは周りよりも頭が良かった。だから察した。遠回しに出ていけと言われたのだと。

イグサが了承すると養親たちは、それはそれは嬉しそうな笑顔でお礼を言ってきた。

そのことを担任に相談すると養親たちと四者面談を開こうとしてくれたのだがイグサが拒否した。どうせ何を言っても変わらない、そう思ったからだ。その代わりにイグサの成績なら大丈夫だろうと月満学園のことを教えてくれた。

当然余裕かつ特待生で合格した。寮は入学の半月前から入れるとのことだったので、さっさと出た。物欲は無いに等しかったイグサの持ち物は段ボール三箱にまとまった。他にも参考書や経済学の本などあったが、必要なくなったので置いてくことにした。弟が将来使うかもしれないし、これらの処分くらい任せても良いだろう。


「飯は?」

全身痛いうえに顔に傷もある。これでは食堂に行く気も起きない。

「まだあ。トウ君と食べようと思って」

「あー……ファストフードでいいか?」

「いーよー。私、」

「チキンカツのセットでオレンジジュースだろ?」

「何でわかったの?」

「お前、いつも同じじゃねえか。俺も同じので炭酸にしよ」

端末で出前の注文を済ませる。今の時間なら二十分もすれば届くだろう。


「棟万千様、ファストフード店より商品のお届けです」

しばらくしてコンセルジュが部屋まで出前を届けてくれた。

「ありがとうございます」

女性を床で食べさせるわけにはいかない為、カケラに机を使わせ、棟万千は床で食べた。BGM代わりにテレビをつける。

番組表を見てもめぼしい番組がなさそうだったのでバラエティ番組を見ることにした。

突然テレビがピコピコンと鳴り、文字が右から左に流れる。

『緊急速報  ○○県△△市××区に尾暴者が現れました。近くにお住いの方は家から出ないようにお願いします。外出中の方は近くの建物に避難してください』

モバイルにも同じ文面が表示されている。

「近くだな。最近多くないか?」

「先月も何人か出たよね。何が原因なんだろうね」

「さーなー」


尾暴者――ここ何年かでよく聞くようになったものだ。

生物学やら化学やらの色々な学問の発展で人間は進化の過程で捨てた尻尾を後天的に生やせるようになった。ほんの何百年前までは生やすというよりかは『移植』というのが正しかったが、ここ数十年の間に自分が望む生物の尻尾が文字通り生やせるようになった。メジャーな尻尾からマイナーな尻尾まで、種類数は定かではないが、目録を紙で作ろうものなら最低でもアコーディオンくらいになると何かで聞いたことがある。

尾暴者のことは大人がひた隠しにしているので詳しいことはわからないが、字面から察するに「尻尾が暴走している人」のことだろう。緊急速報でわざわざ流すくらいなのだろうから相当危険なのだろう。同じ区内に出現するとそれが授業中にしろ、大事な式の最中にしろ即中断され、緊急職員会議が始まるくらいだ。

「お父様曰く原因は尻尾との相性って言ってたよ。トウ君はどう思う?」

「俺? 俺はなんとなく人為的な気がしてる」

「なんで?」

「考えてもみろ。もともと生えてないもん生やしてるんだぞ? 相性もクソもないだろ」

「なんにしてもトウ君はならないでよ?」

眼を合わせて真剣な顔で言われる。

「へーへー。原因わかんなきゃ予防もできねえけどな」

抜きゃあいいかもしれんが、と半分冗談で言うと本気でカケラに「ダメ!」と言われてしまった。

「悪かったって(笑)。ほれ」

カケラの前に尻尾を持ってきてやる。

三センチ程度の球が連なり、最後の球は勾玉のような形をしている。

そう、棟万千が生やしているのはサソリの尻尾だ。

「……」

カケラは棟万千の尻尾を掴もうと構えている。

「取った!」

カケラの手が閉じられる前に尻尾はひょいと逃げた。

「こぼすぞツキ」

棟万千はケタケタと笑った。


以前カケラはサソリの尻尾が好きだという噂がたち、カケラとお近づきになりたい違うクラスの男子がサソリの尻尾を生やしてきた。棟万千の記憶が正しければ彼は別の尻尾を生やしていたはずだ。

多少値は張るが尻尾の付け替えは可能だ。なんなら何本も生やすことも理論上は出来るという。が、カケラは一瞬見た後は見向きもしなかった。

どうやらカケラが好きな尻尾は棟万千イグサに生えているサソリの尻尾のみ(・・)らしい。

棟万千がいじめられているのはカケラとほぼ一緒にいるから、というのもあるがもう一つの理由がサソリの尻尾だ。

何故か。誰が言い出したのか世間は動物史上主義だからだ。つまり虫の尻尾を生やしている棟万千は世間的に劣等種なのだ。

自分の私欲のためにサソリを生やしたその男子生徒は周りからの嘲笑を手に入れた。尻尾を戻してからも一度動物以外の尻尾を生やしたという事実は人々の記憶から消えなかった。故に彼は程なくして不登校になった。

「(しっかしなんでそんなに俺の尻尾に執着してるんかねぇ。そのせいで教師陣から洗脳でもしてるんじゃないかって思われてんだけど)」

ちなみに棟万千は己の意思でサソリを生やしている。動物以外を生やせば周りからどんな目で見られるか、わかっている上でサソリを生やしている。安かったのも理由の一つだが。

「そういえば、またケンカしたでしょ」

「ケンカじゃなくてただの憂さ晴らしだけどな」

「なんで抵抗しないの? 本当はすごく強いのに。ほら前に一緒に誘拐された時にさ」

「あー、あん時な」

ズゴゴーと中身が少ないドリンクのストローを吸う。

お読みいただきありがとうございます

次回もよろしくお願いします

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