決意
体育館には尾暴者が数人と、舞台の上に初老の男性がいた
「やあ、待っていたよ」
「あんたが犯人か」
「ああ。そうだ。しかし」
男は急に目を細めた。
「大きくなったな、イグサ」
「は?」
男の言い方はまるで数年ぶりに子供に会った親のようだ。
「お前は私の息子なんだ。なんならDNA鑑定してもいい」
「あー、確かに。どことなくトウ君に似てるかも。目元とか」
「マジ?」
「自分でもそう思わない?」
「そんなまじまじと自分の顔なんざみたことねえよ。つーか仮に父親だとして何だって言うんだ? 感動の再会をしたいわけじゃないだろ?」
「当然だ。これは私のコレクションなんだが」
男は自分の前にいる尾暴者を誇らしげに指した。
「お前をここに加えてやろうと思ってな。わざわざ会いに来たわけだ」
尾暴者は性別・年齢・尻尾の種類、全て違った。
「物心つく前に捨てられて、養親にも捨てられて、挙句の果ては実父のコレクション。はっ、クソみたいな人生だな」
「私のコレクションになれば、白い目で見られることが無くなるぞ」
「おー、それは魅力的だ。だが今俺は割と充実してるんだわ」
「……残念だ。お前はいいコレクションになると思ったんだが」
男は懐から出した銃に弾をセットしている。
セットし終わった銃は、ぱんっと軽い音がした。
鍛えた動体視力と直感が、弾はカケラに向けられていることに気がつき、咄嗟に庇った。
「つっ……」
よく見ると弾には窓がついており、中の液体が入ってくる。
確実にまともな液体ではないので急いで引き抜いたが、中身はほとんど空になっていた。
「やはり庇ったな! そいつに向ければ絶対に当たると思ったぞ」
「トウ君大丈……」
トンッと棟マチはカケラを離した。
心拍が上がる感覚と悪寒、それから暗い感情が押し寄せてくる。
「知ってるか? 尾暴者は私が作ったんだ」
「どこだ、ここ」
その空間は上も下も右も左も白い。
白すぎて距離感が掴めない。
「そうだ! ツキ!」
なんとなく勘で思った方に走る。
やがて何かが見えてきた。
紐状の物体が絡まっている。
目が離せず近づいていくと、それは鎖だということに気がついた。
「何だ、これ」
手を触れると独りでに鎖が避けて中身が見えた。
「!?」
それは齢10歳程度の男子だった。そればかりか……
「俺、だよな?」
その男子は棟万千に酷似していた。
「はは、『俺』か」
男子は笑った。
「何だよ」
「別に。それより、そんなにツキが大切?」
「大切なのかな、でも大切にはしたい。唯一好いてくれる人だからな」
「ふぅん。僕にはわからないな」
「おそらくだがお前は俺だろ? 何がわからないんだ」
「君は僕かもしれないが、僕は君じゃない。僕は養親に裏切られたあの時捨てた君だ」
「ああ……」
棟万千は久しくその時のことを思い出していた。
実親の記憶はなく、親の記憶は養親が全てだった。だから、それに応えようと望まれるがまま「棟万千イグサ」を演じた。
でも、弟が生まれてから全てが崩れ落ちた。
いっそ、世間からも捨てられてやろうとサソリを生やした。
ここまで捨てられたのだから自分も捨ててやろうと口調も変えた。
二度も親に捨てられ、世間も捨て、自分さえも捨てた。そこを拾ったのがカケラだった。
最初は変わった奴だと思った。
彼女は自分と違って誰にも逆らえない力がある。そんな力を持っているなら自分が有益になるように使うだろう。成績ファーストのこの場所ではそれが普通だ。彼女は世間的に優等で自分は劣等。関われば彼女の方が損だろうし理由もない、どうせ話しかけても来ないだろうと思っていた。『特級特待生』で入学した棟万千にとって、カケラと関わろうと関わらまいとどうでもよかった。
でもカケラは何も得がない、なんなら損しかない自分と関わってくれる。
いつも笑顔で楽しそうに話しかけてくる。好いてくれる奴などいくらでもいるだろうにわざわざ自分を選んでくれた。彼女はサソリの尻尾が好きなのだと言った。それを聞いた一人がサソリを生やして来た。しかし、彼女は見向きもしなかった。加えて論破までしてしまった。
やがて自分が彼女につきまとっているという噂が流れた。否定したが教師も誰も聞く耳をもってはくれなかった。
そんな状況を知ってか知らずか相も変わらず彼女は自分に話しかけてくる。
「ツキが君と話してくれるのは、自分を自分として見てくれるから。他にそんな人が現れたら捨てられちゃうよ?」
「……そうだな。でも今はそれでもいいな。いつか現れるそいつのために俺が死ぬ気でその席を守るさ」
「そ。ま、せいぜい頑張りなよ」
「―――、―――ん」
「ほら、呼んでるよ」
「ああ。邪魔したな」
棟万千は声がする方に歩きだした。
「あ」
2,3歩歩いたところで立ち止まると振り返った。
「あいつをツキと呼んでいいのは俺だけだ。たとえお前でも許さんぞ」
「何それ(笑)。さっさといきなよ」
それを聞くと棟万千は駆けて行った。
「譲る気ないじゃん……」
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