お誘い
「あふ……ねむ……」
時刻は八時を回ったところだ。
今は冬季休暇中。生徒は昨日のうち身支度を終えて、もう二時間もすれば帰省をするためにバタバタと部屋を出ていくだろう。
「その前に服を洗いに行くか」
洗濯物をビニールバックに詰めると部屋を出た。
寮にはランドリーコーナーがある。洗濯は六十分千円、乾燥は十分百円。安いかどうかは知らない。
棟万千は洗濯機に服を入れてスイッチを入れると伸びをした。
「洗濯?」
カケラが話しかけてきた。おそらく部屋に棟万千がいなかったから、探しに来たのだろう。
「何か用か?」
備え付けのベンチに座り、本を開く。
「映画と買い物と食べ歩き」
要はお誘い(強制)にきたらしい。
「へーへー、終わったらなー」
カケラは嬉しそうにほほ笑むと隣に座った。
モバイルを操作しながら、今からいけば何時の回に間に合いそう、終わったらどこで何を食べて、それからあ、と勝手に予定を組んでいく。
「そういやシネマポイント貯まってなかったか?」
「あ、確かに!」
「間に合わなかったら先に飯行くか。買い物は荷物になるから一番最後な」
「トウ君は他と違って自分の意見言ってくれるから楽しい」
「ソレハイカッタデスネ」
カケラを遊びに誘う奴はごまんといるが、カケラが誘うのは棟万千だけだという。
理由は遊んだ気になれないから。
棟万千以外と遊びに行けば、自分に気に入られようと気を遣われ、同性にしろ異性にしろ「疲れてませんか?」「喉が渇いてませんか?」「お荷物お持ちしましょう」と一分毎に聞かれる。そして、カケラが何か言えば「良いと思います」「さすがカケラ様」と終始敬語かつ気味の悪いイエスマンになる。
トイレなどでカケラが離れると、「機嫌を損ねていないかな?」「これも成績のためだ」と話しているのが聞こえる。
学園でクラスメイトと友達になろうとしても、所詮自分は理事長の孫でしかないと思い知らされるので嫌気がさすのだという。
「ねえむう……」
棟万千は顎が外れそうなほど大きなあくびをした。
「そんなに?(笑)」
「寝付けなくて本読んでたら寝過ごしたんだよ」
「明日にする?」
「いや、カフェイン入れれば問題ねえよ」
「トウ君って私を嫌がる割に付き合ってくれるよね」
棟万千は本に目を落としたまま無言でカケラにデコピンを食らわせた。
「った! 何?」
「なあんだろーなー」
クスクスと笑う棟万千の耳はほのかに赤くなっていた。
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