5.新生活
私はともかくとして、ウィルは使用人と暮らしたことがないからすぐには慣れないかもなぁ。今までの使用人は皆解雇して国王直々に面接をして使用人を選んだらしい。
大切な孫のためですし。そうなるのかな?
「母さんはおまえなんかに渡さないからな!」
アララ、コンラッド様。いきなり息子に嫌われたんですか?傷心ですね。
「坊ちゃん、コンラッド様はこの国の第3王子であられます。敬意を払うべきかと……」
「坊ちゃんて誰?」
「ウィルの事よ。私は奥様かなぁ?コンラッド様は…旦那様?」
「無理に敬う必要はないよ。敬うべき人間かどうかが大事だろう?あ、そうだ。突然この邸で暮らすことになったから、パン屋の女将さんと旦那様にお礼状を書いておいたよ。陛下が」
それは平民が先祖代々額縁に入れて大切に保管します。
「それから、‘王家御用達’って肩書もつけた。事実、あのパン屋さんを騎士達が押し寄せるようになったからなぁ」
お礼になったかな?とってもお世話になったし、落ち着いたら、訪ねてみようかな?
「騎士は一人普通の食パンなら2斤くらいかなあ?その騎士が100人はいるし、王家御用達って看板でお客の入りもすさまじいだろうなぁ。嬉しい悲鳴だろう」
―――手伝いに行こうかな?なんか大変そうだし。
「俺はパン屋を手伝いに行ってくる!」
早い!もう行っちゃった。行き先わかってるからいいけど。護衛の方がついてるし。本人は気づいてないと思うけど。ウィル―――貴方は王子なのよ。
「奥様の部屋は旦那様の部屋の隣となっております。その間の部屋が夫婦の寝室となっておりますので……」
そんなこと言われても~~!!ああ、コンラッド様も期待するような目で私を見ないで~!
「坊ちゃんのお部屋は日当たりのよい部屋を選択しました。今後の成長にはやはり日の光をたくさん浴びた方がよいと思いまして、はい」
ウィルもコンラッド様のような立派な紳士に育ってほしいなぁ。
「俺らもパン屋に行こうか?」
「うーん、店内そんなに広くないから店員が沢山いても邪魔なのよね。かといって、旦那様の手伝いをするようなスキルはないし……。ウィルに頑張ってもらうしかないのかな?今日は」
「めちゃくちゃ忙しかったぞ。何でこんなことになったんだよ?」
苦情は陛下に言ってください。私は陛下に苦情なんて畏れ多い。
「ウィル……。俺を父さんとは呼んでくれないかな?」
「特に血のつながりを感じないし~?」
「コラッ、ウィル!」
「ごちそうさま~」
ウィルは早々と部屋に戻っていった。
その日の晩餐の後、コンラッド様から話があると言われて食堂に残った。
「ウィルの事なんだが…陛下が帝王教育をしたいと言ってるんだ。本人は全くそんな意思ないだろう?テーブルマナーとか?」
「社交でのダンスとかですか?」
現段階で、パーティーにはウィルを連れて行けないなぁ。
「俺が第3王子って中途半端だからだろうか?」
「それにしたって、クレイグ侯爵家ですからね。高位貴族として基本的なテーブルマナーとかダンスくらいはできていてほしいものです」
そうだよ、うちは侯爵家なんだよ。社交もついてまわるし、高位貴族として基本的なことは覚えていてほしい。他の人に馬鹿にされるようなことにはならないでほしい。
「陛下が仰るような帝王教育はともかく、高位貴族としての基本的なことは覚えていてほしいです。貴族は腹の探り合いですから」
素直な子だからこそ他の貴族に騙されたりするのでは?と心配になる。
市井で育ったからなかなか貴族の世界に馴染めないウィル君です。頑張って!