2.追放と出産
そんな夜会からしばらくが経ち、『私が妊娠している』という噂が王都中に溢れた。
これに激怒したのが、我がクレイグ侯爵家の父上。
「伝統あるクレイグ家に泥を塗りおって、相手の名前を言え!言うんだ!」
言えと言われても、知らないので言えない。
「申し訳ありません。知らないのです」
「行きずりの男か?質が悪い。その男の特長は何か覚えていないのか?」
「銀髪を後ろで束ねていらっしゃいました。それから……紫水晶のような瞳を持っていらっしゃいました」
「…なに⁈誠か⁈紫水晶の瞳は王家のみが保有する王家の証!お前は畏れ多くも王家の子を身籠ったのか?」
私に聞かれても…。紫水晶の瞳が王家の証なんて今日初めて知ったし。
「そうなの?パトリシア?ねぇ、妊娠した時の様子を詳しく教えなさい?その子の母親には私がなるわ」
「おお、それがいい!」
なんなの?この家?『伝統ある』んじゃなかったの?私のお腹の子をお姉様の子として偽る気でいるの?
「お腹の子は渡しません!」
「それなら、この家から出ていくんだな!さぁ、アバズレは出てけ!」
それからというもの私は平民として生活することになった。運よく住み込みでパン屋さんで働けるようになったので、‘衣食住’のうち、‘住’は安定している。
私が妊娠していることもここの人たちと言っても女将さんと旦那さんはご存じ。「女には知られたくない秘密の一つや二つくらいあるもんさ」と女将さんは深く追求してこないので助かる。それでも、私の体を労わってくれるので大助かり。
「今は辛い時期だろう?休んでいても文句は言わないよ」と、言って仕事を有給で休ませてもらったりもする。その時はかいがいしく世話まで焼いてくれて本当に大助かり。いつかご恩を返さないといけないと思う。売れ残りのパンをくれたりと本当に甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
それは突然やってきて、仕事の最中だった。
「パットちゃん(私のあだ名)が破水したみたいだよ。誰か産婆さんを呼んできておくれ」
店の常連さんまでもが、大騒ぎとなる。店の中があわただしくなる。
食品を扱う店の中で申し訳ないと思うばかりです。そう女将さんに伝えると、「仕方ないだろ?そういう時だってあるさ」と明るくかわされた。本当に恩返しをしなくてはと思う。
激痛を乗り越え、産まれて来てくれたのは可愛い男の子。名前はどうしようか?うーん、ヴィンセントにしましょう。あだ名はウィルかしら?
ウィルの瞳は紫水晶だった……。王家の証。もっと大きくなったら不自由だけど、眼鏡をかけて生活してもらおうかな?
薄い色の茶髪(月明かりに透ける感じ)に瞳の色は紫。きっと美丈夫に育つんだろうなぁ。
よかったのかな??パトリシア。無事出産は良かったね。周りがいい人で良かったね。




