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7 真なる悪魔クリムゾンレッド


 魔界


闇なる漆黒を統べる魔界大帝を主とした悪魔が住む国である。そこには、無限にも等しい黒の世界であり、闇から生まれし悪魔のみがその黒からなる隠された色(色彩)を識別することができる。悪魔は闇からなる永遠なる無限の魔力を喰らい存在する。大喰らいの存在であり、魔力が豊富な魔界でしか生存ができない。悪魔の優劣は魔力の器たる自身にどれだけ闇(魔力)を喰らうことが出来るかに依存していた。言い得て妙だが、魔力が多いだけの自然界の獣程度の存在であった。


 あるときに力があり知恵のある悪魔が言葉を生み出した。この言葉により、獣であった悪魔は他者という存在を認知し理解するようになった。理解が進めば、感情が生まれた。悪魔は元々の力に加えて賢さを手に入れた。ある時、知識なる神が悪魔に興味を持った。神は悪魔が知らないことをたくさん知っていた。悪魔は自身より上位なる存在を知った。力も知識も……いつからか悪魔は神なる上位種に祈るようになった。


その祈りは純粋なものであった。神は悪魔に多くの知識を与えた。それが英知となり、悪魔は他の悪魔を統べるようになった。いつしか、周りの悪魔たちは英知なる力のある悪魔を魔界大帝と呼ぶようになった。


魔界大帝は、他の悪魔のように力による支配を嫌った。神より授かった知恵による統治を成した。その悪魔は何よりも欲しいものがあった。自身の偉大なる個体名、真名だ。しかし、自身に名を与えることができる悪魔がいなかった。神なる存在を除いては……皆、魔界大帝よりも序列の低い存在だ。そのため創世の時代より今世に至るまで、真名を持つ悪魔は存在しない。




2


 「メェェェェェェェェ(強奪)」


悪魔が光に包まれて叫んでいる。どうやら本人の意思とは無関係にユーズレスから膨大な魔力を奪っているようだ。ギュッの儀式による副作用であろうか。


『ビィィィィ、ビィィィィ、緊急事態により急速充電モードに移行します。大気中より無制限に魔力を集束します。ビィィィィ、ビィィィィ、冷却ジェネレータを最大稼働します。フルスロットル、モード絶対零度・改』


 キィィィィィィィィイィン


 悪魔とユーズレスのハグを祝福するかのように機械音が鳴り響く。


 補助電脳ガードも不測の事態に驚愕している。いったい本機は何を教えたのだろうかと……ユーズレスはバックパックだけではなく全身の各所にもある冷却ジェネレータを稼働する。その温度たるや自身の【ブラックボックス】である魔光炉すらも活動停止しかねない絶対零度の機械が凍てつく冷たさだ。


 大気中の魔力がまるでブラックホールの渦に飲み込まれるかのようにユーズレスと悪魔を中心としたエネルギーの力場に集束する。魔力が零から一へと質量を持ち始めようとした刹那に、光の柱が発現し曇天の空はその一部が半世紀の時を経て青空を覗かせ大地に光が差す。


「メェェェ、メェェェ」

大いなる陽の光(祝福)が差すその先には…光の柱が収束していき一つの機械と真なる生命体を照らす。


「はあはあ、どうやら私は真名を頂けたようですね。まさか現世で、神話なる真なる悪魔に成熟するとは思いもしませんでした。我が名はクリムゾンレッド、親愛なる友であるテンスさん、保護者のガードさんにより頂いた尊き名です。お二方、本当に深謝致します」

悪魔の骸骨に皮膚と肉がついて頭部が完全なる山羊の姿となる。悪魔が再びユーズレスと力強いハグをして、心の蔵の鼓動を感じた。


 神々が誕生した創世の時代より、原初の色である黒の世界を魔界と呼んだ。闇の世界、魔界で初の真名を持つ山羊の顔をした気の弱い泣き虫な悪魔は〖色彩の赤〗クリムゾンレッドとなった。名を欲してやまなかった父である魔界大帝の嫡子クリムゾンレッドは奇しくも、創世の時代より初の〖真名を宿りし真なる悪魔〗へと神々に近しき位へとなった。


 機械人形はことの重大さが良く分かっていない。当たり前であろう英知なる古代図書館にすらそのような記述はなかったのだから……




3


「メェェェェ、メェェェェ、感激だメェェェェ。父上すら持ってない名前持ちになったメェェェェ。ありがとうメェェェェ、テンスさんのおかげメェェェェ」


真なる悪魔は感激している。今更だが初対面の紳士からは想像できない完全に発情期の山羊だ。発情期の山羊はユーズレスの腕を掴んでブンブン振り回してみたり、バグの連続攻撃をする。余程嬉しいのであろう。


『《鑑定・極》』

補助電脳ガードが真なる悪魔を《鑑定》する。


〖真なる悪魔〗

個体名 クリムゾンレッド 色彩の赤(深紅)


魔界を統べる魔界大帝の嫡子であり、王太子。機械人形ユーズレスの影をベースに現世へ受肉した。補助電脳ガードによる儀式と、機械人形ユーズレスの名付けと魔力により真名を授かる。世界において唯一無二の真なる悪魔。


神代級魔法《生命置換》が使用可能

効果 生命の根源である力・魔力を別の対象に移し替える。


(名前がついて良かったな。本機は魔力を供給しただけだ。儀式を設けたのはガードのおかけだ。ガードはオトウサンほどじゃないけど、凄いんだ。ガードは古代図書館にも載っていないことをなんでも知ってるんだ)


 ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させながら胸を張る。その表情のない表情は誇らしげだ。


『いや、あの……』


「これは失礼いたしました。流石は英知なる古代図書館すら凌ぐ、もう一人のテンスさんなるガードさん。いえ、先生と呼ばせて下さい」


 真なる悪魔クリムゾンレッドは受肉したばかりの山羊の目をキラキラさせてユーズレスの中の補助電脳ガードを見る。補助電脳ガードは誕生以来最も窮地に立たされている。喧嘩した二人を仲直りさせるだけのおまじないが、真なる悪魔を誕生させるまさかの一大事になってしまった。補助電脳ガードは自身のプログラムされた保護者としての人格に従って、予測しない結果だったとアナウンスしようとした。


(先生もいいが、古来より先生の上なるものの呼び名は社長というんだ。時の王よりも偉いと電子書籍に記載してあった)


「おおお。王すら凌ぐ尊き呼び名がシャチョウなのですね」


(ちなみに、願い事や礼を述べるときはシャチョサン、シャチョサンと二回続けて呼ぶと、おねだりの成功率が四割上昇するのだ)


「シャチョサン、シャチョサン、深謝、深謝です。シャチョサンなる単語は私の最も敬愛する最上の言葉です」


 クリムゾンレッドが喜びの余り地に膝をつけ神にでも祈るかのように猫のポーズとなる。


 色々と後に引けなくなった大人な補助電脳ガードがこぼした一言は……


『……まあ……まあ……ね』


 子供たちの期待を裏切れない補助電脳ガード社長は知ったかぶりを【ダウンロード】した。




 真なる悪魔クリムゾンレッドの誕生と共に、ここに時の王にも勝るシャチョウなる概念が勘違いにより誕生した。

今日も読んで頂きありがとうございます。

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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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