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4 招かざる客


『……』


 ユーズレスは赤色の瞳を十年ぶりにブルーの瞳(通常運転)にする。現在、ユーズレスには十年間の孤独と先の見えない未来により【ブラックボックス】に多大な負荷がかかっている。


 バックパックである四次元から、ユフト調合の特性オイル(機械ビール)を取り出し、がぶ飲みした。


『……ゲフー』


 ユーズレスは初めてゲップをした。ユーズレスは閲覧した小説〖風を感知〗で「困ったらビールを飲め」との【フレーズ】を実践する。


 ユーズレスは飲んだくれた。機械ビールを五本飲んだが、問題は何も解決しなかった。小説のように小気味のいい音がするピーナッツ(つまみ)がなかったせいだろうか。


 ユーズレスは思考する。


(どうして、オトウサンは本機を独りぼっちにしたのだろう)


(本機は、オトウサンに見捨てられたのだろうか)


(オトウサンが……嫌いだ)


 ユーズレスの影がピクリと動いた気がした。




『テンス、一旦落ち着きなさい。これ以上の魔力の集束と発現は機体が持ちません』

ユーズレスは現在、思考が負のスパイラルに陥っている。

ユーズレスが周辺の高濃度の魔力を集束しては出力し空間が歪む。

『過度の負荷や思考の不安定により、このままでは【自爆シークエンス】が発動してしまいます』

ユーズレスの【ブラックボックス】である魔光炉が輝き出し光の柱が発現する。


その刹那に……


「ああ、いい……絶望の匂いは美味ですね」

ユーズレスの影が何やら実体を持ち始める。影が大きくなり光の柱を喰らう。世界が黒に染められ、闇が染み込んでいく。

「この闇はなかなかにボリュームがありますね」

闇に染まった光の柱から声がする。世界に染み込んだ闇がユーズレスの影に集まってくる。

『ビィィィ、ビィィィ、高濃度に圧縮された魔力を感知しました。第一級警戒体制、戦闘準備を推奨します』

ユーズレスは、自身の影であったものから距離を取りバックパックの四次元ポケットから流体金属を取り出す。


ドクン、ドクン、ドクン


影であったものから、高らかな鼓動と共に生命の息吹を感じる。


「ああああああ、いいいい! これが肉体というものですか、尊いでメェェェェ」

影が縮小して形を創っていく。

ユーズレスの目の前には、深紅の燕尾服を着てシルクハットと杖を持った、人の形をしたモノが立っていた。


「ご馳走様でございました。深謝致します」

人の形をした首から上が山羊の頭蓋骨で眼鏡をかけたモノが礼を述べる。


「とても美味しゅう御座いました。改めまして、魔界よりアナタ様の美味なる負の魔力より現世へ受肉(転生)したモノでございます。こちらの言葉では、悪魔等とも呼ばれております。以後、お見知りおきを」

杖を付き、シルクハット持ちながら優雅な礼を取る。


『……』

これが、ユーズレスと魔界のプリンス(泣き虫)との出会いであった。





ユーズレスはバックパックの四次元ポケットから、簡易的な椅子と机を出す。ついでに、パラソルも出した。陽の光は当たっていないがこういうのはムードが大事だと〖大人のマナー、断る勇気〗で学習済みだ。


 ユーズレスは、四次元に保管してあるミネラルウォーターを杯についで出す。悪魔の種族的な好みが分からないのでこれが最適解だろう。お茶菓子は、保存用のスティックタイプの干し芋をチョイスした。スティックタイプだから食べやすく、干し芋は【アレルギー】が少ない食品で、異国の人種にも評価が高いと旅行雑誌で特集していたのだ。


『……オ……テ……ナ……シ』


 ユーズレスは椅子を引き客人(悪魔)を招く。


「これは、これは、ご丁寧に痛み入ります。芳醇な魔力を頂いた上に、このようなオモテナシをして頂きまして恐縮です。手土産の一つもないご無礼、平にご容赦下さい」


 悪魔はシルクハットを取り、椅子に座る。ユーズレスは、嬉しい。誰かとこうやって話をするのは再起動してからは初めてのことだ。


『……イ…エ…イ…エ』


「それにしても、アナタ様はお強いのですね。悪魔でも特級である私をご自身の影だけで受肉させるとは、普通はこちらでいう生け贄なる個体が三桁~四桁は、町一つは必要なのですが」


悪魔がシルクハットを机に置き、眼鏡の位置を直す。


『……コス…パ…ワル…』


ユーズレスは、向かえの席に座りながら電子書籍で学習した古代語を披露する。補助電脳ガードが大変良くできましたとハナマルスタンプを電脳内に押す。


「コスパン? 一体どんな悪いパンなのですか? 魔界と地上では文化の違いがあるようで大変興味深いです。ちなみに、こちらのお飲み物は頂いても」


 悪魔は地上の食に興味津々だ。


『ド……ゾ』


「では、頂きます。地上の飲み物に興味がありまして」


悪魔が杯の水に口をつける。一口かと思いきや、悪魔の喉がゴクリゴクリと動き、流水が骨の口腔内を潤いで満たす。悪魔は杯の水を飲み干した。


「おお、なんと、喉越しの良く混じりっ気の少ない液体なのでしょうか。魔力は全く感じませんがこのように味覚だけで美味と感じたのは生まれて初めてです。現世へ生まれたのは先ほどなんですがメェェェェェ」


 悪魔は非常にご満悦のようだ。


「こちらの黄色い食べ物も頂いてもよろしいでしょうか」


『ド……ゾ』


 ユーズレスが干し芋をすすめ、悪魔が喜んで口に入れる。


「これは、これは、いったいどうのような味付けを、このほんのりとした甘さ。これが噂の魔界には存在しない優しい味なるものですか。まるで、口の中がシルクに包まれているようです。これは、魔界でも生産可能なのでしょうか。これは、魔界で革命(戦争)を起こしうるレベルの宝石にも勝る英知の結晶でございメェェェェェ」


 どうやらこの悪魔は興奮すると地が出るようだ。


『……ヨカ……タ』


 ユーズレスは紳士に言葉を返す。マナーには種族の数だけ種類があり文化も異なるのだ。


「受肉するまで地上とはいったいどのような場所なのかと、見くびっておりましたが、これは大幅に上方修正せねばなりませんね。いや、いや、不勉強でお恥ずかしい限メェェェェ」


『ベン……キョ……タ』


 ユーズレスは自分の頭部に手を当てて、この十年間の勉強の成果を【アピール】する。


「ほう、そこに滅びを免れし人類の英知が詰まっているのですね。単刀直入ですが、その頭頂けませんか」


 茶をご馳走になった悪魔がマナー違反を起こす。悪魔の異形なる右手がユーズレスに迫る。




 どうやらこの悪魔は古来より人種が招かざる客であったようだ。



挿絵(By みてみん)

悪魔 作画 ヴァリラート様

今日も読んで頂きありがとうございます。




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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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