3 孤独な機械
スナック感覚でお楽しみ下さい
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『メモリーの中の古代図書館からオススメの電子書籍を何件か【ピックアップ】します。索敵は自動モードで補助しますので、移動しながらの閲覧を推奨します』
補助電脳ガードが気を使ってくれる。ユーズレスは、移動である歩行を疑似脊髄反射で行い意識をメモリーの電子書籍に向ける。
 
オススメ電子書籍一覧
〖誰でも簡単時短レシピ〗、〖モテる紳士のセリフ集〗、〖マリア―ジュ~洒落たオイルカクテル~〗、〖なろう小説全集〗、〖人工魔石の秘密〗、〖笑う二振りの剣〗、〖キャッチ―なタイトルとは〗、〖サルでもできるプレゼン〗、〖会社を作っちゃ王~営業の神シーマの奮闘記~〗、〖犬と猫どっちも飼おう〗、〖ワンチャンできる漢〗、〖世界最高のポップアート〗、〖八十からのストレッチ〗、〖名前の付け方と由来〗、〖困ったときのゴーグル先生辞典〗、〖世界のエモい景色〗、〖PⅤ・ブックマーク・★の増やし方〗
 
ユーズレスは誰のオススメがよく分からない電子書籍のタイトルと表紙を確認する。
ユーズレスが初めに選んだ電子書籍は、神話の時代よりこの大陸で最も多くの読者を虜にしたと伝えられている〖なろう小説全集〗の閲覧を開始した。
 
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『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して五日が経過した。距離としては既に五百キロは移動したが景色は変わらない。せめてもの救いは〖なろう小説全集〗が面白いことだ。この電子書籍は様々なジャンルがあり、戦記や文芸、推理、エッセイ、なかでもファンタジー系がユーズレスのお気に入りだ。特にこの〖ゴーレムが見る夢は〗シリーズは秀逸である。残念ながら更新当時は、人気はなかったようだが……ユーズレスは底辺作家ナポにブックマークといいねと評価★★★★★をした。
 
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して十日が経過した。距離としては既に千キロは移動した。ユーズレスは大きな湖を発見した。周囲は内地であったがまるで海があるようだった。湖の色は海と同じく深緑だった。大きな山があったが灰色の雲で上の部分は隠れていた。電子書籍の〖世界のエモい景色〗の写真と山の形が一致した。エモい景色を、直に見れないのは残念だった。生命反応は感知出来なかった。その日は、何故か電子書籍を閲覧する気が起きなかった。
ところでエモいってなんだろうか……
 
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して二十日が経過した。ユーズレスは白き木々に囲まれた森を発見した。不思議な森だった。大地からは水も緑も感じられなければ、光合成を行う陽の光さえ当たらないのにその木々は活動していた。その場所だけ魔力濃度が一段と濃かった。ユーズレスは不気味という感情を自己ダウンロードした。
『ビィィィィ、ビィィィィ、白い木に対して警戒センサーが作動しております。この木からはアップグレードした本機を遥かに上回る魔力を感じます。詳細は不明ですが、一刻も早くこの場所からの退避を強く推奨します』
ユーズレスは補助電脳ガードに深く同意した。
 
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して三十日が経過した。最近では趣向を変えて〖誰でも簡単時短レシピ〗、〖モテる紳士のセリフ集〗、〖マリア―ジュ~洒落たオイルカクテル~〗を閲覧している。実演はしていないが、脳内でのシミュレーションもばっちりだ。オトウサンや他の誰かと会った時には、人の為に造られた最高の機械人形の名誉に懸けて、最高のおもてなしをするのだ。
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して五十日が過ぎた。海に面した土地にやってきた。そこでは、機械のパーツがスクラップとなって山を成していた。
ユーズレスは赤色の瞳を何度も点滅させて機械の山に呼びかける。
『……』
まるで反応はない。ジャンクたちはすべてシャットダウンしているようだ。ユーズレスは、少し待つことにした。もしかしたら、動く機体があるかもしれない。
一年かけてすべての機械に語り掛けたが誰も返事をしなかった。
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して三年が過ぎた。電子書籍も不眠不休で閲覧して、半分は読み終わった。残りの半分はタイトル的にあまり閲覧する気にはなれなかった。
 
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して七年が過ぎた。最近では補助電脳ガードの【アナウンス】が不快に聞こえる。古代図書館の電子書籍はすべて読み終わった。最近は移動しながら、〖子供が喜ぶ簡単マジック〗、〖百歳からのあやとり〗を実演しながら移動している。別の意味で〖器用〗を司るデスクより器用になった。
 
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を開始して十年が過ぎた。
『この場所は来たのは既に三度目です』
補助電脳ガードが言わなくてもいいことを【アナウンス】する。大陸を渡り歩いて生命体が存在しないことは既に理解していた。戦闘モードでの本機は思考がかなりクリアに働く。
電子書籍はもうすでに、三度も読み直した。いつの間にか速読が出来るようになっていた。料理、日用大工、占い、靴磨き、マジック等多岐にわたり脳内での【シミュレーション】もやり尽くした。オトウサンに会える日を、誰かに会える日を心待ちにして……やれることはもうやった。
『ツ……カレ……タ』
ユーズレスは再起動して初めて、痩せた大地に腰を下ろした。
今日も読んで頂きありがとうございます。
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古代図書館の電子書籍のタイトルは作者の妄想の産物で、実際に関係する本や団体とは関係ありません 笑




