2 古代図書館
1
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
索敵範囲を二キロから三キロにしたが結果は変わらない。
ユーズレスの瞳が赤色になり戦闘モードに移行する。本気(戦闘モード)となったユーズレスは、《探知》の索敵範囲を五キロまで拡げる。【アップグレード】に加えて理論上無制限に無限に近い魔力を使えるユーズレスはそれこそ湯水の如く、大気中から魔力を集束する。
シュィィィィィン
新しくなったバックパックに装着されている冷却ジェネレーターの音が何もない地平線にひどく響く。ユフト師かデクスが改修しただけあって冷却ジェネレーターの性能はピカイチである。このスペックであれば、マザー・インテグラ(始まりの機械人形)から高エネルギーを受信する弩級相殺魔法《十五夜》の連続使用も可能であろう。すでに、前回となってしまったボンドとの戦闘データが生かされている。流石は、オトウサンとオニイサン(デクス)だとユーズレスは誇らしげに胸を張る。
『ビィィィ、ビィィィ、索敵範囲を拡げましたが周囲の生命反応は感知出来ません』
だが、誇らしい家族は近くにはいないようだ。
戦闘モードで思考が更にクリアになったユーズレスは状況を整理する。
まず、最優先事項であるオトウサンを探すのがなににおいても重要である。推測するに五十年の月日が経過していることから、厄災戦争は終了している可能性が高い。情報が欲しい。
ユーズレスは思考する。こんな時に、マザー・インテグラとアナライズ(U-2)がいればと……衛星であるマザー・インテグラと外部ユニットであるアナライズがいれば大陸全土の大まかな索敵や三機をリンクさせた《演算・極大》であれば、オトウサンの捜索に対する何かしらの妙案も浮ぶと推測する。ユーズレスは空を見上げて赤色の瞳を点滅させる。遥か上空にいるマザー・インテグラに交信を図るが…
『ビィィィィ、ビィィィィ、上空の魔力濃度が非常に高く、マザー・インテグラとの交信が困難です。マザー・インテグラの外部ユニットであるアナライズにも信号を送りましたが、魔力濃度と距離が開いているためか、交信が難しい状況です』
補助電脳ガードがアナウンスし、ユーズレスは空を見上げたまま固まる。頼りになるオカアサンとオネエサンとは連絡がつかなかった。
曇天の薄暗い空と大気中の大いなる魔力は、遮光カーテンのようにユーズレスの希望の光を遮った。
2
再起動してから十日が過ぎた。
状況に変化はなく、ユーズレスは待機からオトウサンの捜索・周辺の情報収集を決断する。
『拠点からの移動を開始します。戦闘モードのため、移動しながらの常時《探知》が可能です。半径五キロ圏内を索敵しながら移動します』
補助電脳ガードが索敵を補助し、ユーズレスが移動する。誕生してより、グランドマスターであるオトウサンの命令を遂行していたユーズレスは、初めて自分で行動を選択した。オカアサンとオネエサンに相談もなく。機械人形ユーズレスのファーストミッションである。はじめの一歩にユーズレスは高揚していた。ユーズレスのワクワクに相反して、このおつかいは茨の道であった。
3
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
探索を始めて二日が過ぎた。
無限に近い魔力を無制限に使用して昼夜問わずに移動と索敵は行われた。機械は休みを必要としないため人種にはおおよそ真似できない強行軍である。ユーズレスは周辺を視認する。相も変わらず、空は薄暗く地面は砂のように痩せている。地形の高低差はあれども、いつまでも変わり映えしない光景を目の当たりにして、常人であれば少しずつ神経が摩耗していくだろう。
『ビィィィ、ビィィィ、生命反応は感知出来ません』
ユーズレスが赤色の瞳を一回点滅させ了解の意を示す。このやり取りもすでに数千回を超えて万にもなる。最高の魔導技師ユフトによって造られた超大器晩成型の最高傑作である機械人形ユーズレスは……ぶっちゃけ飽きた。
『テンスが行動目的に対する退屈をインストールしました。《演算》を使用します……メモリーにインストールしていないファイルで古代図書館を発見しました。電子書籍としての閲覧が可能です』
ユーズレスは興味を示した。ユーズレスはワクワクしている。ユーズレスは古代図書館のインストールを試みた。
『ビィィィィ、ビィィィィ、古代図書館のインストールにはプロテクトが掛かっています。インストールは出来ません。あくまで電子書籍として閲覧は可能です』
あくまでも、自分で読む必要があると補助電脳ガードがアナウンスする。古代図書館のデーターは膨大でその本のジャンルも小説から、専門書、絵本、辞書、美術集、自伝、エッセイなど千差万別だ。ユーズレスは、ちょっと面倒くさいと思考する。インストールであれば戦闘モードですぐにこの古代図書館の内容が理解できるのに、なぜ閲覧という形を取らなければならないのだろう。
『これはもしかしたら、グランドマスターであるユフト師からのなにかメッセージなのかもしれないと推測します。この図書のなかに何か現状を打破する答えが隠されている可能性が高いと推測します』
補助電脳ガードが駄々っ子のユーズレスに宿題の有用性を解く。ユーズレスは【ランダム】に図書のタイトルを閲覧する。
古来の習わしで、子供は大人になるために宿題なる持ち帰りの試練を幾日も繰り返し行うことで、一人前になったという。
時の賢者が愚者に言った。宿題は楽ではないと、愚者がじゃあやらなきゃいいという。賢者が言った。嫌なことや面倒を覚えなければ、楽しいことや美味い酒が飲めないぞと。それは大変だと、愚者は宿題を幾日も続けた。いつしかこの宿題を続けた酒飲みの愚者が、のちの賢者となった。
参考文献 〖賢者のレシピ〗より抜粋
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