円卓の騎士たち
すいません
ユーズ今回出ないんです。
思いの外、海王神祭典が盛り上がってきてしまいました。
海王神祭典一話予定だったんですが、多分これ五話位続いちゃいます。
1
「それでは、諸君! 若者たちが居なくなったところで、本当の会議を始めよう。皆楽にしてくれ、言葉も崩していい」
ボールマンは軽快に指をならし、控えてたメイドたちに酒の準備をさせた。
「ふぁー、お利口さんでいるのは疲れたもんだぜ」
「アルは、いつも通りでしたけどね」
「「「ハハハッ……」」」
アルパインとランベルト以下、十名の年寄り(オッサン)たちは、先ほどの茶番を見抜いていたようだ。
「婿殿を怒鳴り付けたときは、少しあせったがな」
ボールマンは杖の柄を二回撫でた。
「俺の演技もまあまあなもんだろう」
「私は、半分本音がはいってましたけどね」
ランベルトは、幾分ペン回しの速くなった。
「二人とも、憎まれ役をさせてしまったな。婿殿は本気で丸坊主にさせれそうな顔をしていたぞ」
ボールマンは、幾分頬を緩ませる。
「ありゃ、演技じゃねぇし本気だ。だがああいう威勢がいい奴は嫌いじゃねぇぜ。最近の若えのは、俺に何か言われると目すら合わせやしねぇ。中央の王族っては、鼻につくが【根性】だけは、かってやる」
「あなたに睨まれて、仕事が手につかないと新兵から苦情がある位ですから、そこは私も評価しましょう」
ランベルトのペン回しはさらに加速した。
「ラザアにはどう見えたかな」
「「「「あぁー」」」」
室内であるが皆が天井を仰いだ。
「バレてるな」
「バレてますね」
「やはりなぁ、カンのいいところだけは、妻に似たからな」
「【べっぴんさん】なところもな、さっきなんて危うくエミリアお嬢様なんていいそうになっちまったぜ」
「私はお恥ずかしながら、あまりにも似すぎて直視できませんでしたよ」
ランベルトのペン回しはさらに加速しもはや誰にもその軌道を追うことが出来ない。
「ラン落ち着け! 誰かタバコ持ってないか」
アルパインは、皆を見回す。
「ご心配なく、持ち歩いておりますので、お嬢の御子が無事に産まれるまでは【禁煙】というものをしているんです。私の【トレードマーク】のような物なので、お守りみたいなものなので持っているだけですが」
ランベルトのペンの軌道はかろうじて皆に見えるようになった。ランベルトの後ろで火の神が残念そうにしている。
2
「で、本当のところはどうなんだ? 勝算はあるのか」
アルパインは、ボールマンを見る
「ハイケン」
『了解致しました。本作戦の達成確率は、主がディックの杖を正常に使用したと仮定して、一割程度です。作戦の一部を報告したことを終了します』
歴戦の猛者たちは、表情ひとつ変えずに耳を傾ける。
「なるほどなぁ。それで、俺たちは何をすりゃあいいんだ」
「ハイケン」
『了解致しました。皆様には、海王神シーランドを海岸沿いまで引き付けるいわゆる囮役をお願いいたします。作戦の一部を報告したことを終了します』
「ほう、要は海蛇野郎を海から陸に上げちままうってわけか」
「考えましたね。確かに今日は三ノ月に一度の二つの月が昇る日ですからね。普段よりも潮の満ち引きが強くなるはずです」
ランベルトは、珍しくペンを落としそうになった。
「ハイケン」
『了解致しました。皆様が各々の役割を正確に再現可能であれば本作戦の成功率は一割五分まで上昇します。作戦の一部を報告したことを終了します』
皆が顔を会わせる。
「なんでぇ、随分上がったじゃねぇか」
「要するに主役は、ディックの杖ではなく私ということですね」
「「「お前じゃなくて、俺たちだろ」」」
ランベルトは、ペンを拾う。
「お前たち、死ぬかもしれないんだぞ」
ボールマンの口調はきつい。
「何を今さらいいやがる、やるしかねぇんだろう。だいたい、一番今にも死にそうな奴が何いってやがる」
アルパインは、なぜだか笑っている。
「まったくです。杖と支えがなければ歩けないご老人を見捨てたなんて、天国でエミリアお嬢様に顔向けできません」
「「「確かにな」」」
「おう!いっちょう、みんなでこの泣き虫ジジイの死に水をとってやろうぜ」
「一人でカッコいいことは、させません。【イケメン】は私です」
「「「そいつは、無理がある」」」
「そうだ、作戦名は最高の【イケメン】軍団作戦だ」
アルパインは、自分でいって恥ずかしそうだ。
「ふっ、……まあまあだな」
ボールマンが皆の顔を見ながらいう。含み笑いだ。
「おお! 大将のまあまあが出たぞ」
「これで、去年と同じで勝ち戦ですね」
『恐れながら、主の「まあまあ」が発言した戦は過去の例もあわせて、八割五分の勝率であると具申します。過去の作戦の一部の勝率の報告を終了します』
「オッシャア! 一割五分と八割五分を足したら十二割だ! この戦もらったぞ」
「「「ハハハハハハ」」」
アルパインはいつものように計算を間違えた。いつものことなので、もはや誰も何もいわない。
3
【タイミング】よくメイドたちが酒と人数分の杯を用意した。
「秘蔵の酒だみんな遠慮なく飲んでくれ」
ボールマンは、皆に酒をすすめる。
「なんだなんだ、中央のお貴族様から頂いた高い酒か? 」
アルパインは酒に目がないようだ。
「気がききますね」
ウェンリーゼ出身で酒に目がない男はいない。
皆がグラスに手を付け、秘蔵の酒を口に運ぶ
「おまっ」
「なっ! 」
「「「うー」」」
「げほ、げほ、げほ」
皆がむせる、中には驚きのあまり吐き出すものもいた。
「皆! どうだ! 我が家の秘蔵の酒は」
ボールマンはイタズラが成功した子供のようだ。心なしか、主の一歩後ろに控えたハイケンが心配そうに見つめている。
「どうだってこれ、五級酒よりしたの六級酒じゃねえか! 」
「これは私が研究中の【郷土料理】より、利きますね」
「ああ! まあまあ利くだろう! 」
ボールマンは非常に満足そうだ。
「これ何処の酒だ、こんな不味いもん久しぶりに飲んだぞ」
「こんなに、【アルコール】がキツくて、くどく、のどごしが悪い鼻に残る酒は久しく記憶にないですね」
十人は、皆ボールマンに軽く殺意を抱いた。
酒につられた武神が、事の詳細を興味深そうに見ている。
「あぁーそうだ。馬のションベンだ! 私たちの故郷で私たちが初めて作って、毎日楽しみに飲んでた、我らが故郷のウェンリーゼの酒だ」
ボールマンは、誇らしそうに胸を張った。
「これが」
「私たちが作った」
ボールマンを除いた一同が吐き出した酒の味を思い出す。
「まぁ、材料や水なんかはユーズが《消毒》《ろ過》してくれたがな。味はともかく、すぐに酔っ払って【栄養失調】を予防し、私たちを生かしてくれた酒だ」
ボールマンは皆を見回す。
「夢を語り、歌を唄い、暑さに負けず、寒さに負けず、他の領の奴らに笑われ、餓えにも負けず、鼻につく役人たちには、嘘つきだ、【税金】泥棒と罵られ、親、兄弟、仲間たちの屍を泣きながら弔い、海水が染み込んだ毒の大地を、根気よく耕した。道半ばで、逝ってしまったものもいた。途中で逃げてしまった者もいた。違う土地で同じ領のかつての仲間にさえ、後ろ指を指された。歯を食い縛り耕した土地や作物は、魔獣に荒らされ、国からは税として搾取された。餌の代わりに、木の根や草を削り、朝から晩まで、釣竿をたらしても、海の恵みを得ることが出来なかった。 神を……神……を呪ったことさえある。口に出してはいけない、言葉を出したことさえあった。生きているときが辛くなることもあった。このまま楽になりたいと思わなかったことは、一度や二度じゃない、皆もそうだろう……ただ、私たちには、希望があった」
ボールマンは、馬のションベンを一気に飲み干した。
十人の騎士たちは、ボールマンを凝視し目に涙を浮かべるものもいた。
「見ろ! 見ろ! 今のウェンリーゼを、木々は美しく、水は清んで、土地は栄えた、子供たちは伸び伸びと曲がらず育った、男たちは誰もが自分の仕事に誇りを持ち、女たちは太陽のように微笑んでいる。これが私たちが私たちの力で成し遂げた
【復興】だ! 違うか友よ! 」
ボールマンは、息を切らしながら、目には涙を浮かべている。
水の女神と海の女神は、神話時代から誕生以来、初めて消滅したいと思っている。水の女神と海の女神は、神界へ逃げ出した。武神は、部屋の中の誰よりも泣いている。
「そうだ」
「そうだ」
「全くもってその通りです」
「ここは誰のものでもねぇ!俺たちが【復興】した理想郷だ」
十人の騎士たちは、勢いよく酒を口にいれ、五十年分の想いを味わった。
武神はとても羨ましそうに皆を見ている。
「うまいなぁ」
誰かが言った。
「こんなうまい酒は初めてだ、いや、50年ぶりだ」
「まあまあ、悪くはないですね、タバコには若干負けるかもしれませんが」
「こんな旨いもん、忘れてたなんて俺たちはどうかしてたぜ」
十人の騎士たちは、ボールマンに惚れ直した。漢が漢に惚れる、大変名誉なことである。
「ヨシ! あれを持ってこい」
ボールマンは再び、指を鳴らした。その小気味のいい音を聞いた、他の女神たちはボールマンの【推し】になった。
メイドたちは杯を持ってきた。十人の騎士たち一人一人に慎重に杯を配った。
「みんな覚えているか」
「こいつは……」
「随分懐かしいガラクタを」
その杯は古びて所々が欠けて、実用性が全くない杯ものだった。【◯◯焼き】ユーズレスの記憶を使っても正確に再現でできなかった、【商品】になれなかった贋作である。
「こいつは、贋作だ。なんの価値もないガラクタだ、だか私たちにとっては五十年前に誓った、その想いは本物だ! これは我々の【ウェンリーゼ焼き】だ! 皆! この杯に誓え! 家族のためでもいい、好きな女のためでもいい、父母、そして自分自身のために誓え! 」
ボールマンは、著しく体力を消耗した。正直死にそうだ。【推し】たちと主神は、禁忌目録を破り劣化神代級魔法《延命》の呪文を唱えた。ボールマンの寿命が少しだけ伸びた。代わりに神界の秩序が乱れた。
4
空白の席【上座】にも杯が置かれた。
ボールマンは、ディックの杖を円卓に立て掛け、ハイケンに支えられながら立ち上がる。メイド長は、赤子を抱くかのように酒瓶を持ち一歩後ろに控える。
ボールマンは、ゆっくりとした足取りで、騎士たちの席を一人ずつ回る。杖はつかずとも、ハイケンの【介助】は慣れたものだ。
「ギン」
「へへへ」
ボールマンは、ギンと【ハグ】をした後、片手で杯に酒を注ぐ。
「ベン」
「おう」
ゆっくりとした足取りだが【ハグ】は続く。
「ジョー」
「なんだよ、この」
ハイケンの【介助】に少し力がはいる。
「クロ」
「無理すんなよバカやろう」
ボールマンは幸せそうだ。
「シロ」
「泣かせるなよこの」
ボールマンは、【ハグ】を繰り返すたびに若返るようだ。ハイケンは、気付かれない程度に重心移動を繰り返す。
「スイ」
「一番の泣き虫小僧が……」
メイド長は、指先を使い酒瓶を見えない位置でそっと支える。
「ヒョー」
「お前は、いつも最高だよ」
ボールマンは、肩と膝の震えを心地よく感じる。
「レツ」
「お前が俺たちの王様だ」
ボールマンの息づかいが速くなる。
「ラン」
「全くあなたはいつも、非合理的ですね」
ランベルトは、眼鏡を外し我らが王の顔を見つめ、そっと【ハグ】をする。
ハイケンは主の願いを叶えため、ボールマンの杖、ボールマンの体の一部になる。そのことを誇りに感じる。
「アル」
「………………」
二人は知っているそこに言葉は必要ないことを、十人の中で誰よりも大柄なアルパインは、十人の中で誰よりも優しく【ハグ】をした。
5
ボールマンは、ハイケンに支えられ少々質素な王の玉座へと座る。杯を持ったボールマンにメイド長は、薬を注ぐかのように厳かに酒を注ぐ。
離れた空席の杯にも、酒は注がれる。皆に注がれた馬のションベンはいつの間にか【御神酒】となった。
ボールマンを除いた全てのものが立ち上がる。
「みんな揃ったな」
ボールマンは臣下達を見回す。
「まだ揃ってねぇぞ」
神々は揃って挙手をする。
皆の視線は、ハイケンに注がれた。
「そうだったな」
神々は非常に残念そうだ。
ボールマンは、椅子を引きハイケンの方に向かい両手を広げる。ハイケンは、皆に視線を移し助けを求める。
「ハイケン」
「ご主人様を待たせるもんじゃね」
「ハイケン」「ハイケン」「ハイケン」
「ハイケン」「ハイケン」「ハイケン」
「ハイケン」 「ハイケン」
「我らの王の願いですよハイケン」
一人一人が祝福の言葉をかける。
神々は泣きながら「ハイケン」【コール】が鳴りやまない。
皆がハイケンを見つめる。その視線は優しく出来がいいが、遠慮ばかりする子供を見つめるようだ。
部屋の中で水と海の女神を除く全ての神々がハイケンに祝福を送りたがっている。
ハイケンは、一呼吸し、膝を折り我が主の胸にその重みを預ける。
「……ハイケン」
王は目をつぶる。
『恐悦至極にございます。私は感情のすべての報告を終了します』
それはまるで祈るようであった。その杯には、メイド長より、人種の視覚では確認出来ない祝福が注がれた。
「我がグルドニアに!いや……我らのウェンリーゼに」
ボールマンは、着座のまま皆を見渡し杯を掲げた。
「「「我らがウェンリーゼに、我らの王に」」」
十人の臣下たちは、それぞれ杯を掲げる。
その時、一瞬聴こえるはずのない杯と杯を鳴らす小気味のいい音色が聴こえた。王と騎士たちは、水と海の女神を除く全ての神々の祝福を受けた。
グルドニア王歴509年
機械人形ハイケンはユーズレスに代わり、円卓の英雄たちを記録する。
神界では、神代アーティファクトとなった杯と酒瓶を巡り、神々のアルマゲドンが繰り広げられていたことは、魔道機械人形ですら知らない。
誰が、一体主人公なんでしょう。
なんかオッサン達が、愛着湧いてきちゃいました。
モブたちは、名前とか覚えてなくていいんで、上の三人だけ、名前覚えていただければと、なんかキャラが一人歩きして、迷走してきましたが個人的には好きな回です。
作者の励みにや創作意欲向上になりますので、よろしかったらブックマーク、いいね、評価して頂ければ幸いです。