エピローグ~ジャンクランドの日常
プロローグで登場したボス、ボンドさんの出演です。
ジャンクランド
ウェンリーゼより南へ南へと南下した海に面した国がある。
その国は、巨帝ボンドという厄災級に指定された人工生命体が統治している。人工迷宮を管理している機械の帝国だ。このボンド王が治める機械の帝国は、元は炭鉱が盛んな国であった。鉄の材料となる鉱山や、エネルギーの原料となる鉱物で人種の賑わいある国であったが、資源の枯渇とともに衰退していき人種の住まない土地となった。採掘用の古びた機械達を残して……
数百年の時を経て、スクラップとなった機械達を修理し機械の帝国として再建したのが、巨帝ボンドという医療用ユニットであった。彼がどこから来て、誰に造られたのか、いつの時代の機械なのかは隣国での公式な情報は謎である。
現在このジャンクランドは、大陸唯一の死なない人工迷宮を有し、多くの引退に近い冒険者の【セカンドライフ】、駆け出し冒険者の腕試しに人気のあるダンジョンである。その理由としてこの人工迷宮はドロップアイテムがでない代わりに、BPという活躍に応じた得点を獲得することができ、その点数によってジャンクランド特有の景品と交換できる。食料から日用品、財宝、ジャンクランドでの地位、他国の王族待遇に近い夢のような宮殿での贅を費やした暮らし、機械による管理された最高の医療に介護等、モノ以外での交換も可能である。
何故ならこの機械達は元々、人の幸せの為に造られた人工生命体なのだから……
2
『ボンド様、ボンド様、朝です。お仕事の時間です』
巨帝ボンドは起動する。巨帝ボンドの朝はパン屋より早い。
『おう、ご苦労さん。今日の当番はユニコか』
巨帝ボンドは、口は悪いが皆に優しい。言葉の端々に気遣いと優しさが滲み出ている。皆もそんなボンドが大好きだ。この朝の起動係はジャンクランドでも人気が高く、毎日ジャンクランドの機械達による抽選という名の過酷な争奪戦である。機械達にとっては、巨帝ボンドにその日初めての御言葉を頂くのはとても名誉なことだ。
『ボンド様、ボンド様、まずはいつものようにジャンク病棟の朝の回診でございます』
名前を言われた機械人形ユニコは、ブラックボックスの温度が二度上昇した。
基本的に巨帝ボンドはジャンクランド住人三十万機体の固有名を把握している。何故ならばその機体すべてが、スクラップから巨帝ボンドがコネクト(結合)し新たな機械人形として生を授けた。巨帝ボンドはジャンクランド住人すべての父であり兄であり良き隣人であるのだ。
3
日勤も終わり、夜勤にシフト変更する時間に事件は起きた。
巨帝ボンドはいつものように玉座で、レング(U-3)、フェンズ(U-4)と本日のジャンクランドの報告を受けていた。
『以上が本日の報告を終了させて頂きます。何か不備な点はございますか』
レングが巨帝ボンドに報告する。
『そういえば、今日は緊急でウェンリーゼから避難民が来る予定だったな』
巨帝ボンドが避難民の安否の確認をする。
『そちらでしたら、まだ国境警備機体からも報告待ちでございます』
レングがブルーの瞳点滅させながらを報告する。
『そうか、もしかしたらノラ魔獣に襲われてるかもしれねぇな。フェンズ、お前の近衛隊に様子を見に行かせろや』
『もうとっくに行ってるわよ。いっつもトロいわね』
フェンズは巨帝ボンドにツンツンである。
『お前なあ、こっちは数百年有休なしで稼働してるんだぞ。少しは労りの精神というものをだな。おまえ、俺、泣くぞ、ホントに泣いちゃうぞ。引きこもりになっちゃうよ』
『その際には、事前に勤務報告書の作成をよろしくお願いいたします。ちなみに死蔵してある有給休暇はおよそ百年間御座います。お使いになりますか』
レングが事務的に【アナウンス】する。
『お前らさあ、もっと真面目に心配っていうかさあ。他の機械みたいに優しくしてくれてもよくねぇか』
巨帝ボンドは結構切実だ。
その時、もう一言ボヤこうとしていた巨帝ボンドのボディが光り出す。
『これは、強制転移か。また、あのババア急に呼び出しやがって、せめて任意転移にしやがれ』
巨帝ボンドは慣れた様子で木人に悪態をつく。
『今回の座標はウェンリーゼになってますね。避難民に加えて、彼の地でなにかトラブルでもありましたかね』
レングが探知で座標を特定する。
『よかったじゃない。外出許可下りて、おんもで気分転換でもしてきたら』
フェンズは楽しそうだ。
この木人による強制転移は、御馴染みのことのようだ。転移させられる方は堪ったもんじゃない。だがこれにより過去、大陸間の戦争を巨帝ボンドは納め、国と国の仲を繋いできた(コネクト)。
『残りの事案はこちらで対応しておきますので、心置きなくバカンスを楽しんで下さい』
『あっちの王様、なかなかいい整備士だからよろしく言っといてね。あとお土産忘れないでねー』
レングはお辞儀をし、フェンズは手を振って巨帝ボンドを送り出した。
『ちょっと待って、これって有休じゃないよね。特休だよね』
『ご安心ください。初の有休でございます』
『おめでとさーん、これで今年の働き方改革ばっちりねー』
二体が見守る中、光の柱が出現し手足をバタバタさせながら巨帝ボンドは消えた。
『ボンド様、ボンド様、巨帝をお届けに参りました』
ユニコが六メートル級の斧である巨帝を引きずりながらやってきた。巨帝ボンドが大好きなユニコは非常に気が利く。
『『あー、……』』
二体は斧を見て同時に呟く。
『あれ、ボンド様はもう行かれたんですか。今日のボンド様はメンテナンス中でしたので、装備がほぼノーマルでしたが大丈夫ですか』
ユニコが心配する。
『『あー、……』』
『まあ、大丈夫でしょう。木人様もおりますし』
『なんだかんだ、うちの自慢の王様だからね』
『ご本人の前で言って差し上げたら喜びますよ』
レングが兄弟であるフェンズにいう。
『いまさら言えるわけないでしょ』
フェンズのブラックボックスの温度が上昇した。
『面倒な方ですね』
レングは肩をすくめる。
そんなやり取りを見ていたユニコの手で寂しそうに佇んでいた巨帝が、少し笑ったような気がした。
エピローグ ジャンクランドの日常 完
原案 ヴァリラート
ジャンクランド国旗
メス、注射器、中央のヒビは再生を意味する
今日も読んで頂きありがとうございます。
作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます。
原案者 ヴァリラート様からのいつも読んでくださる読者様への特典でした。




