魔道機械人形ユーズレス
第二部完結です。
魔道機械人形ユーズレス
1
『本機の特性である統合を使用します』
補助電脳ガードがアナウンスする。
ユーズレスは胸部の予備収納庫に置かれたハイケンの【ブラックボックス】を解析しデーターを統合する。シャットダウンしたユーズレスにハイケンの記録データーが流れ込んでくる。
……
「ボール、この秘密の部屋のデーターは最重要機密です。ハイケンにも使用した他にも、この古代の技術は恐らく我々の手には余ります。絶対にこのメンバー以外に閲覧させてはなりません」
副官のランベルトが些か激しい声で話している。
ボールマンを含めた、魔導技師のベン、付与術師のシロ、医術士のジョーが同意する。年齢を見るに十五年程度昔であろうか。
「そうだな、特にアルやクロ、ギンには絶対に隠さなきゃいかん。これから我々がやろうとしていることは、悪魔の所業だ」
シロが清く育った兄弟達を巻き込みたくないという。
皆が、秘密の部屋の主である、机でモニター操作と資料のスキャンをしているチルドデスク(U-7)を見る。研究者であるチルドデスクはボールマンたちの話し合いには無頓着のようだ。いつものように、自身のアップデートを行っている。
「この計画はこの四人とハイケンを入れたメンバーでの最重要シークレットとする。以降の計画の変更には三人以上の同意がなければ変更はしない。皆、これから行うことは他人の不幸を吸って我々が欲を喰らう業だ。すべての責任と罪は領主代行である私にある。何があろうと最後まで付き合ってもらうぞ」
ボールマンが皆に強く言う。その目は赤く涙を貯めているが、決して泣かない。
「今更ですよ、地獄の底までお付き合いしましょう。エミリアお嬢様のためにも」
ランベルトは平常運転に戻った。
『今回の人工魔石製作炉計画は初期投資に相当のコストがかかると一部の報告を終了致します』
ハイケンのシミュレーションでは、本計画は湯水のように財を使うと提言する。
「だが、成功すればリターンはとても大きい。魔石は、迷宮特有のドロップで安定供給ができない。そこに、人工魔石製作炉とウェンリーゼの技術の粋を詰めた魔導具の二本柱があればこの土地はより良くなるだろう。誰も飢えることも争うことのない人種がニンゲンらしい生活の行えるどこよりも優しい領地になる」
ボールマンが理想を語る。
「我々で、魔石の価値と魔導具による生活レベルの向上とともに大陸全土の豊かさを牛耳るというわけか」
シロが合いの手をいれる。
「生き物とは悲しいもので、普段の生活のなかで一度上がった生活レベルはよほどのことがないと下げることができない生き物です。特に、中央部の貧しさを知らないもの達は」
ランベルトが発言しベンとジョーが顔をしかめる。ランベルトには悪気はないのだ。
「ユーズにはいいのか」
昔からボールマンを知っているベンが問う。
「ユーズには禁忌目録である麻薬については知られたくない。ユーズには、娘のラザアを頼みたい。これから罪人となる私には子育てなど、この手でどうして我が子を愛でることができようか」
「後ろ暗いことがない貴族なんていやしないさ。ボール、そんなお前も俺達が愛そう」
ようやくジョーが口を開く。
「まずは、資金集めからだ。この麻薬を、ウェンリーゼをまるで植民地のように扱い、王からの復興支援金ですら懐に入れていた貴族どもに甘い甘い蜜(薬)をくれてやろう。なあに、殺すわけじゃないんだ、生きててもらわなきゃ搾り取れるだけ搾れないからな。戦争に比べればまだ健全だ」
シロの目が死神のそれになる。
「俺は、デスクとこの麻薬の治療に使う方向での研究に専念する。前向きな治療ではないが、終末期医療に対する考え方が一気に変わったからな」
ジョーはなにか思うところがあるようだ。
「五年、いや三年で魔石製作炉を完成させる」
ボールマンが皆を見ながら高らかに宣言した。
「「「ウェンリーゼのために我らがボールマンのために」」」
皆はボールマンに臣下の礼を取る。デスクは暑苦しいなと視線を向ける。
「何にでもなってやるさ。例え、悪魔だろうが外道だろうがな。私が、私はボールマン・ウェンリーゼだ。この地を守りし領主代行だ」
……
その年にエミリアは逝ってしまった。ジョーがいうには最後は痛みなく安らかに逝ったようだ。
それから、ボールマンは進んで自身で商売麻薬の被検体になった。ボールマンは時折、〖賢き竜の魔石〗に何かブツブツと話しかけるようになった。ラザアは酷く怯えていた。ユーズレスはボールマンからまるで逃げるようにラザアを守るようになった。ハイケンはただ何も出来ずに主の傍にいた。ハイケンの魔光炉はチクリと痛んだ(バグ)のを感じた。
ハイケンは主であるボールマンを止めることが出来なかった。分かってはいた、主が人の道に背きしことをしていることは……主は定期的に薬を打っていた。
その時はお亡くなったエミリア様の名前を叫びながら泣いていた。
許してくれ、許してくれ、助けてくれ、助けてくれ、オトサンと泣いていた。
でも、ユーズレスだけには知られたくなかった。
ハイケンは自分が役立たずだと認識した。ハイケンは自身の存在意義についていつまでも、いつまでも思考した。《演算》は何も答えてくれなかった。
ボールマンは、五十歳を過ぎてから一気に身体の自由が利かなくなってきた。ディックの杖がT字杖から肘から使うロフストランドクラッチに変形した。日常生活に支障を来すほどだった。ハイケンの仕事が増えた。ハイケンは傍にいるだけの役立たずではなくなった。ハイケンは自身の存在意義を証明できて嬉しいという単語をダウンロードした。
同時に思考した。
主に不利益が生じたことにより、自身の存在に快楽を見出だした本機の意味はなんだ。主が不健康になることを喜ぶ機械人形、本機もとっくに壊れていることを悟った。快楽という電気信号(麻薬)に支配されている。
ハイケンは感情がぐちゃぐちゃになった。
補助電脳が「お前は悪いことをお手伝いするために創られたのだ、気を病む必要はない」ウイルスのように囁く。
ハイケンは決めた。何があろうと主の望みを叶えようとそれが蛇の道だとしてもそれが、私の魔道であると。
「愛してるぞ、馬鹿息子」
ボールマンの最後の言葉は、ハイケンへの愛だった。
……
ユーズレスは、ハイケンの感情である葛藤を理解しました。
ユーズレスは、ハイケンの感情である寂しさを理解しました。
ユーズレスは、ハイケンの感情である優しさを理解しました。
ユ ーズレスは、ハイケンの感情である快楽を理解しました。
ユーズレスは、ハイケンの感情である空虚を理解しました。
ユーズレスは、ハイケンの感情であるココロノイタミを理解しました。
ユーズレスは、ハイケンの感情である魔道を理解しました。
「ユーズ」
ユーズレスのメモリーがボールマンの一番の宝物を映す。
「気をつけて、行ってらっしゃい(無事に帰ってきてね)」
『…マ…ア…マア…デス』
本機はすぐに帰りますとラザアと約束した。
『ビィィィィ、ビィィィィ、テンスが機械人形ハイケンのブラックボックスのメモリーを統合して、ハイケンのキカイノココロを理解しました。ユーズレスのメモリーにあるキカイノココロ壱・弐・参・肆・伍・陸・漆・捌が強く共鳴しています。今まで貯めた、ココロノカケラがココロノカタマリになります。機械人形ユーズレスは人造機械人形に進化可能です。人造機械人形に進化しますか/進化しませんか』
ユーズレスの瞳の色が戻る。
「ほうほう。これは、はじめてのパターンだね」
木人が呟く。
「キャン、キャン」
ホクトが尻尾を振りながら鳴く。
ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させた。
第二部 完
今日も読んで頂きありがとうございます。
作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます。
第二部いかがでしたか。ちょっとシビアな話が多かったですかね。個人的に反省です。第三部で海王神祭典は完結予定です。
積みプラとスパロボとかストック貯めたりして、ちょっとリフレッシュしたら編集長と打ち合わせして来月から三部開始予定です。
何かリクエストや、分からないことなどあったらどんな感想でも嬉しいです。
それでは皆さん良い夢を。




