十一振り目 騎士ハイケン
1
『自爆シークエンス発動まで残り三秒です』
シーランドの頭部まで残り五メートル。
ハイケンは様々なメモリーがフラッシュバックする。まるで走馬灯のように。
……
「おーい、ハイケン。いいところに来たな。明日はボールの誕生日だよな。この魚もってけ」
スイがハイケンに魚を渡す。
『お見事なお魚でございますスイ様。主も大変喜ばれると思われます』
ハイケンも上機嫌のようだ。
「この大きさだと一日置けばいい具合に熟成される。なんならさばき方教えてやろうか」
『私は介護兼執事機械人形ですので、刃物を持つことができないのです』
ハイケンは少ししょんぼりした。
「あん、包丁は刃物だが料理をする分には自分の腕みたいなもんだろう。一流の料理人は、包丁は自分の体の一部だとかココロだとかいうしな。おもてなしってやつよ」
どうやらスイも良く分かっていない。
『ココロでございますか』
「それに、誕生日の席でその場で捌いてやったらボールもきっと喜ぶぞ」
『ビィィィィ、演算の結果、今回に限定して包丁は刃物ではなく、料理人のココロと解釈しました。セーフティーが解除されたことの一部の報告を終了致します』
「そう来なくっちゃな」
時間はかかったがハイケンは魚の捌き方をインストールした。
ボールマンは非常に喜んでくれた。郷土料理人ランベルトがちょっと慌てていた。
……
「ハイケン、ちょっと相談があるんだがこれを見てくれるか」
レツが折れた剣と象牙を持ってやって来た。
「この剣を鍛え直したいんだが、うまくいかなくてな。私の腕が不足しているのが問題なのだが」
『このウェンリーゼで、レツ様以上の鍛冶師はおりません。炉の温度に問題があるのでしょうか』
ハイケンは本心を話す。巨匠ウォルンの弟子であるレツを越える鍛冶師は大陸全土といえどそうはいない。
「そこで相談なのだが、私は鍛冶仕事の時は炉の温度はデーターなるものをとった時がないのだ。もちろんその剣、絶剣が特殊であるのも分かってはいるがな。なんとしても、私のプライドにかけても鍛え直さなきゃいかん」
『先代様の剣ですね』
「ああ、ギンに剣ぐらいは親父殿の形見として持っていてもらいたいだろう」
『私でできることでしたら如何様にも』
その後、時間はかかったがハイケンに温度を測定してもらいながら、企業秘密の技術を流用して〖絶剣満天・銀〗が新たに鍛え直された。剣が「きゃはははは」と嬉しそうに笑っているように聞こえた。
……
「ハイケン、明日はボールの誕生日だったな。なにか欲しいものとか言ってなかったか」
いつも無口なヒョウが今日は良く喋る。
『特に何もおっしゃられていなかったと一部の報告を終了致します』
「なっ。そ、そうか」
尻尾がしょんぼりしている獣人は喜怒哀楽が分かりやすい。
ハイケンは《高速演算》を起動した。ユフト師の機械は人の為にの精神を裏切ってはいけない。ハイケンは、できる機械人形なのだ。
(なんとかインチキできないかな)
『……確か、いや、神輿などいかがでしょうか』
「神輿とな、それがボールは欲しがっていたのか」
『以前、地方領視察で神事の神輿をみながら、その土地の領主様にいつかわたしも乗ってみたいですな……と仰っていました。ユーズ兄さんが……確か』
「なに、本当か」
ヒョウは尻尾をブンブン回している。ランベルトのペン回しを越える速度だ。
『ワッショイ、ワッショイと皆で主の生誕を神々に示し、ウェンリーゼ英大名なるボールマン・ウェンリーゼを未来永劫称えるのです』
「こうしてはおられん。時間がない。今日は、公共事業はすべて中止して神輿作りだ。助かったハイケン。恩に着る」
ヒョウはその日、職人たちを集めてそれはそれは豪華な神輿を作った。
近隣貴族を招いた生誕祭の席で、ゲリラ的に行われたワッショイは盛り上がりはしたが、後でランベルトとボールマンに物凄く怒られた。スイとラザア(少女)が、神輿の上でワッショイされたボールマンをそれはそれは羨ましそうに見ていた。クロが酔っ払って自警団を焚付けて酒を浴びながらワッショイされていた。
ハイケンは、社交辞令なる貴族が良く使う政治的かつ高度なやり取り【建前】を覚えた。
次の年の生誕祭では神輿から御捻り(金貨)とモチがばら撒かれた。去年よりも、輪にかけて怒られた。
……
『自爆シークエンス発動まで残り二秒です』
シーランドの頭部まで残り二メートル。
メモリーのフラッシュバックは止まらない。
2
「ハイケン、仕事を頼みたいのだがいいか」
市長であるギンが資料を持ってハイケンを訪ねる。
『これは、これはギン様。私で、よろしければなんなりと』
執事機械人形ハイケンは頼もしい。
「次の月に、王都で冒険者組合の依頼がてら市長として王都の視察に行くのだが、王都の混合政権についてハイケンの意見を聞きたい」
大陸に数人しかいない金級冒険者であるギンは、ウェンリーゼ支部以外での未達成の依頼を頼まれることが多い。そのため、視察の言う名の遠征が度々ある。
『王都は特殊で、王制、貴族政、市政の異なった制度が序列こそあれ入り乱れた土地でありますとの一部の報告を終了致します』
ハイケンはあるグルドニア大陸に関する資料は逐一【スキャン】し、ある程度のことは学習している。
「流石だな、ハイケン。皆に聞いたがラン(ランベルト)以外はいい返事がなかった。おやっさんの話は、一昔前だから歴史を知るにはいい内容だったが、真新しい意見が欲しい」
冒険者ギンは真面目な性格で一度決めたことはしっかりとこなす。
『了解致しました。私のメモリーにも混合政体は詳しくは記録されていないので、資料参照の上《演算》処理した意見を述べさせて頂きます。恐縮ですが、多少のお時間を頂けると助かりますとの一部の報告を終了致します』
「ありがとうハイケン。これで少しでも兄上のご負担を減らすお手伝いが出来ればいいのだが」
ギンが呟くようにいった一言が、ハイケンの魔光炉を輝かせた。
数時間後に、ハイケンは混合政体に対する学院教授クラスにも見劣りしない分かりやすい資料を作成して、朝までギンと語り合った。いつまでも経っても帰ってこないハイケンに、ボールマンはクロたち自警団に捜索願を出した。
ギンとハイケンは皆に怒られたが、ボールマンはハイケンとギンの頭を撫でた。ハイケンはその感触が今でもメモリーに焼き付いている。
……
「ハイケン、今後の戸籍と住民票について相談なのですが」
ランベルトが長年の問題であるウェンリーゼ領民の把握について相談する。この戸籍なるシステムは古来のものを採用しており、内政を管理しているランベルトもその全容を把握しきれていない。
『戸籍から漏れている領民も多くおられます。そのせいで、医療保険や適切な税の控除や仕事の斡旋など多岐にわたり、支援が必要な方々が支援を受けられないことの一部の心苦しい報告の終了を致します』
「今は、貧困していた時代に比べて、魔石炉のおかげでウェンリーゼには波が来ています。ボールは何よりこの富を領民に還元して、将来的にウェンリーゼを工業都市にする構想のようですが、古来の行政システムを運用しているのですが複雑な部分が多くて手が足りないのです」
よく見るとランベルトの眼鏡の下のクマが会うたびに酷くなっている。機械と違い、人種には休息が必要だ。
『了解いたしました。戸籍・住民票の帳簿から虚偽申請や不可解な点や、人口に対しての登録率などの《演算》を行います』
「どれどれ、俺にも見せてみろ」
豪快な歩くトラブルメイカーアルパインがやってきた。
『アルパイン様、お疲れ様でございます。何か御用でしょうかと一部の報告を終了致します』
ハイケンのセンサーがアルパインの溢れ出るトラブルの波長を【キャッチ】する。
「アルが仕事で忙しくて困っていると聞いてな。どれどれ俺が手伝ってやる。任せろ、こう見えても花屋の時は、経理からなにもかもすべてやってたからな」
そのどんぶり勘定で何度も店がつぶれかけたのは記憶に新しい。
「いえいえ、アルも忙しいようですからここはハイケンに任せて……」
「遠慮するな。困ったときはお互い様だ」
アルパインはランベルトの書類を持って颯爽と消えていった。お人好しで有名なアルパインだがその厚意がいつもプラスに働くとは限らない。
『……お茶でも入れましょうか』
ハイケンには他に単語が見つからなかった。
案の定、税率の計算や元のオリジナルデーターの間違いや、飲み物のシミ、所々の紛失など散々な結果になったのは言うまでもない。その後、ハイケンとランベルトで倍の時間を掛けて修正した。アルパインが詫びとして持ってきた花は書類と違いとても綺麗だった。
屋敷の皆がその花を見て心を安らげていた。
ボールマンが「苦労をかけるな」とランベルトを労う。
ランベルトは「いつものことですから」と二人はハイケンの入れたお茶を口に含みながら、アルパインの厚意の色がする美しい花を眺めていた。
……
「ハイケン、今日もご苦労だった」
ボールマンは就寝前に必ずハイケンの一日の労を労う。
『過分なお言葉痛み入ります。本日も一日、不苦労であったことの報告を終了致します』
何千回繰り返したこのやりとりにハイケンはいつも【ブラックボックス】である魔光炉がヒトハダの温度になる。ハイケンはその正常から逸脱したバグを心地よいと思考する。
3
ハイケンは勢いのままに、レツが剝ぎ取った鱗のない後頭部にしがみつく。
『自爆シークエンス発動まで残り1秒』
ハイケンがユーズレスに抱かれたボールマンの首を見る。
『私のメモリーは、こんなにも輝いていたことの最高の報告を終了致します』
魔光炉が輝く。
『自爆シークエンスが発動致します。皆様の健闘を称えます』
死神が命ある機械に向けて、鎌を振り上げた。
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