ハイケンのみる夢は
ハイケンの思い出パートです。
1
ハイケン誕生より一週間後
ウェンリーゼ、海軍本部元帥特務室
『皆様、お初にお目にかかります。介護兼執事機械人形ハイケンと申します。グランドマスターでありますボールマン・ウェンリーゼ様の補佐として今後誠心誠意お仕えすることの一部の報告を終了致します』
ハイケンは皆の前で高らかに宣言した。この一週間でハイケンは日常会話や人種における一般常識をインストールし、軍のデーターもあらまし把握している。
「へえ、こいつが噂の新しい機械か、ユーズよりシャッキリと喋るじゃねぇか」
クロが下から覗くようにハイケンを品定めする。一体どこの不良であろうか。
「ほう、機械人形の稼働に成功したか外見と顔をもう少し人種に似せれば密偵につかえるか」
シロがなにか悪いことを考えている。なにをさせるつもりであろうか。
「オトコか、ボール! 今度はオンナのカワイコチャンを作ってくれよ。看護が人手不足で医院に欲しい」
ジョーよ、機械に性別はないのだが。
「カッコいい! お前、泳げんのか。俺と競争しようぜ」
スイよ、残念ながらハイケンは陸上特化型の機械人形だ。
「この外装甲は、なかなかに硬いな。一体どんな金属を使っているんだ」
レツはハイケンではななく、ハイケンの素材に興味津々だ。
「………」
無口なヒョウは今日も安定してヒョウだ。
「ハイケン、しっかりと兄上にお仕えするように」
ギンはハイケンに友好的なようだ。
「いいか、ハイケン! 言っとくがメイドに手を出しだら許さねぇからな」
アルパインは機械を相手に一体何を心配しているのだろう。
「ハイケン、《演算》と《鑑定》が得意と聞きましたがよろしくお願いいたします。私の郷土料理を至高なる一品にするために頑張りましょう」
ランベルトさんや、魔術を何にお使いだい。
機械人形ハイケンは記録した。このオッサン達の決して良くない第一印象を、ハイケンは浜ッ子達に臆した。
………
『自爆シークエンス発動まで残り五秒です』
礼儀正しい機械人形ハイケンは、泥臭く虫が木を這うかのようにシーランドの頭部目掛けて進む。
ハイケンは様々なメモリーがフラッシュバックする。
2
「ハイケン、後生だ。頼む。給料の前借をボールに一緒に頼みに行くの付き合ってくれ」
クロが朝一番で酒の匂いをプンプンさせながらそれは見事な土下座をしてきた。
『お給料日は昨日だったと記録しておりますが』
ハイケンはクロに一晩で、白金貨十枚(約百万円)をなにに使ったんだと尋問している。
「いやな、昨日よう俺の部下が結婚するっていうからよう。部下の奴ら連れて酒場に行ったんだよ。そしたら、冒険者のヒヨッコどもが腹空かして黒パンと水しか頼んでねえから、クロの兄貴なんて言われちまったら奢るしかねえだろう。いつの間にか五十人くらいの大宴会よ」
『先月と先々月も同じようなこと仰っておりましたが、クロ様は学習という言葉の意味をご存じでしたか』
ハイケンが冷ややかな視線をクロに向ける。
「まだ、先月のツケが残ってるんだ。酒場のマリーダに今度こそ尻の毛までむしられちまう。鼻血もでねえ。頼むハイケン助けてくれ」
『自業自得かと思われます』
「あっ、マリーダが来やがった」
クロは全速力で逃げた。クロは風になった。それから翌月まで夜はマリーダの酒場で皿洗い、掃除をしているクロがたびたび目撃された。
……
「ハイケンちょうどいいとことに来た。今度、無味無臭の毒の調合で配合の比率を演算で補助して欲しいんだが」
『使用用途は』
「ああ、豚を何匹が眠らせてやろうと思ってな。王都の薄汚い私腹の肥えた豚どもをな」
シロの目がイってしまっている。
『機械の四原則で人を傷つけるようなことはできません』
「大丈夫だ。人じゃなくて、ポンコツな豚だから。ボールに仇なす」
『喜んでお手伝いすることの全ての報告を終了致します』
ボールマン絡みになると二人はとても気が合った。
……
「ハイケン、頼む。今日だけ夜勤を、夜勤を出てくれ。もうお前しか頼れるのがいないんだ」
ジョーもクロに負けず劣らずの土下座をしてくる。
『先週、看護メイドを採用したはずですが……また、手を出したのですね。何人目ですか』
ハイケンが呆れている。ジョーは医術士としては非常に優れているが、狩り(ナンパ)の名手でもある。この狩人は狙った獲物は外さない。
「ハイケン、これが愛なんだ。おれは愛の為に生きているんだ」
『なにかカッコいいこと言ったつもりでしょうが、単に女性にだらしないだけだと結論の全ての報告を終了致します』
ハンサムは何をしても許される訳ではないと世の中の厳しさをハイケンはジョーに説いている。これも、クロに習って毎月のことだ。
「頼む、もう五日徹夜で本当に死んでしまう」
『徹夜で、毎日違う女性の相手をするしているだけでしょう。一体なにの夜勤をしているんですか』
ハイケンよ。そこは察してあげよう。結局、グランドマスターであるボールマンのお情けでハイケンは医院の夜勤を手伝った。ボールマンは仲間に甘く、ハイケンも主人に似たようだ。
……
「おう、ハイケンしっかり稼働しているようじゃのう」
『ベン様、おはようございます。昨日の定期点検のおかげさまで調子がいいです』
ボールマンの師匠でもあるベンは大陸随一の魔導技師だ。
「ところでなあハイケン、こんなものを作ってみたんだが」
ベンが二メートル級の右腕のパーツ、試作拳骨カスタム二号機をニコニコしながら持ってきた。
『私は、戦闘用機械人形ではないのですが』
ハイケンは非常に悪い予感を見えない電波(魔力粒子)でキャッチする。
「あんしんせい。これは、あくまで作業用でな。変形やオプションでスコップやドリル、電動ノコギリ、大型のハンマー、ツルハシにもなる優れモノじゃ。ゆくゆくは小型化してインフラ用の作業装備にしようかと思っとる。ちょっと装着してくれんか」
『……畏まりました』
ハイケンは臣下の礼を取る。ハイケン創作に関わったベンはいわばサブマスターのようなものだ。断りたいけど、断れない。執事機械ハイケンは非常に奥ゆかしい気遣いができる機械人形だ。ハイケンは試作拳骨二号機を右腕に装着した。
「よし、セット完了だ。ハイケン、モードドリルで地面を掘ってみてくれ」
『モードドリル』
ギュイーン
先端のドリルの回転数が上がっていく。
『警告、警告、試作拳骨二号機で想定以上の熱を感知しています。直ちに実験の中止を進言致します』
「大丈夫じゃ、想定の範囲じゃ、ハイケンそのまま地面を殴れ」
『了解したくありませんが、了解しました』
ドッツゴォォオォッォン
拳骨が煙を出して粉々になり、地面が半径十メートル削れた。
後にハイケンとベンは、ボールマンとランベルトに日が暮れるまで怒られた。
ハイケンはベンに抗議したが、「旅は道連れ世は情けじゃ、ガハハハハハハ」と濁された。なんだが悪くない気分だった。故障かと思い、ボールマンに見てもらった。ボールマンは何故か嬉しそうに頭を撫でてくれた。ハイケンも嬉しかった。
………
『自爆シークエンス発動まで残り四秒です』
時が、ずっと続けばいいのに終わりが近づいていくのが分かる。
天地が逆さになろうが、ハイケンの砂時計がひっくり返ることはなかった。
今日も読んで頂きありがとうございます。
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あとニ話投稿予定です。




