介護兼執事機械人形ハイケン
1
「ガラララララララララララララララ」
竜種特有の強い生命力で自己治癒により軽度であるが回復したシーランドが吼える。シーランドが特攻してくるブリキ臭い人形に向かって《水球》を数発放つ。シーランドは本能的にハイケンの接近を嫌う。本日の幾多の経験として、この機械から感じる魔力は不吉な匂いがすること察知する。
『もう少しだけお付き合いください。プログラム垂直切り』
ハイケンが赤橙に許可を求める。赤橙の刃が鞘の中で深紅に染まり了解の意を示す。
ハイケンは特攻の【スピード】はそのままに更に加速する。加速しながら赤橙の鞘を投げ捨て加速度のままに垂直切りを振り抜く。
中級魔術並みの《水球》直径一メートル程度の水の球が飛沫へと還る。ハイケンは垂直切りしか行えないが、武神の加護であり剣帝級の垂直切りを、人種では再現不可能な機械の可動域でシーランドの《水球》を切り裂く。
ハイケンの《演算》はシーランドの動きを予測しており、データーも収集済みだ。介護兼執事機械人形は対象の動きバイオメカニクスと、対象が常に何を望んでいるか僅かな情報から推察することに非常に特化している。
「ガラララララララララララララララ」
シーランドが永遠の脊椎をしならせて尾の部分で横なぎを行う。ハイケンは、トンッとまるで船に甲板にでも降りるかのようにシーランドの背部に着地する。
『《演算》、姿勢制御機構フィードバック、環境適性を海王神シーランドの背部でインストールします。自己アップグレード完了したことの報告を終了致します。自爆シークエンス発動まで残り十秒となります』
ハイケンが輝いている。
魔光炉が熱を帯び冷却が間に合わないほどにオーバーヒート直前までリミッター解除し本来の性能の数倍の機体性能と情報処理を行う。その様は、一時ではあるが、アナライズ(U-2)やアギール(U-5)に並ぶであろう。
環境適性を受けたハイケンはシーランドの背を道なりに頭部まで駆け出した。接近されたシーランドに攻撃手段は限られている。シーランドは身をひるがえしてハイケンを振りほどこうとする。
『《高速演算》を起動します』
ハイケンは思考する。
残り限られた時間を最後まで精一杯稼働する。そして答えに辿り着く。この流れ星のような刹那の【フィナーレ】を飾る。ハイケンが導き出した回答は。
『本機の制限を解除します。データベースより四足歩行を検索、獣の踊りを確認しました。四足歩行をインストールします。自己アップグレード、獣化変形を獲得しました。自爆シークエンスまで残り七秒です』
ハイケンの肩関節と股関節が外側に外転して、四肢がシーランドの背にしがみつく様に器用に歩を進める。獣化変形とあるが、その様は百足やアメンボのようである。しかし、速度は二足歩行の時を凌駕する。
ハイケンは夢を見る。
2
十五年前、ウェンリーゼ領主屋敷の地下迷宮深部〖秘密の部屋〗
『……インストールを開始します。本機の起動プログラムを開始します』
機械のアナウンスが部屋に鳴り響く。
「成功だ。二千と六百二回か、長かった……」
ボールマンとベンとデクス(U-7)が安堵の表情を浮かべる。
御付きのメイド機械人形も主達に習い安堵の表情を見せる。
『おはようございます。主よ。この度は私めを稼働頂きありがとうございます。感謝の一部報告を終了致します』
「ほう、言葉も流暢じゃわ。ユーズとディックのデーターをベースにした割にはいい出来じゃねえか」
ベンが無意識に二体の機械人形をディスる。どうやら起動成功のようだ。確かに、ディックは基本的に必要な時以外は魔力波長に訴えてこないし、ユーズレスは頑張ってカタコトが精一杯だ。
『創造主であります皆様方のプログラム調整がよろしかったと謹んで深謝の一部の報告を終了致します』
ハイケンが二人と一体に臣下の礼を取る。
「まあまあに特徴的な喋りだがな。礼儀正しい機械人形か……確か古代語で【拝見】という言葉があったな」
ボールマンが名を考える。
『燕尾服に使う厚めの布を【拝絹】ともいう』
デクスが単語を検索する。
「燕尾服を纏し、礼儀正しい機械人形、お前の名はハイケンとする。まあまあだろう」
グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼが良い名前だろうと機械人形に問う。
「ハイケンか、【佩剣】と帯剣なる意味もあるな。ディックの杖に続いてお前さんを守護(介護)する剣としていい名だのう」
ベンは中央の元貴族だけあって教養も持ち合わせている。
神々は、遥か昔にあったエールの名を連想させる。いつの時代も酒飲みには本当に困ったものだ。
『登録、登録、TUFシリーズ、U-11 介護兼執事機械人形の個体名をハイケンと登録したことのすべての報告を終了致します』
表情のない機械のハイケンが嬉しそうにしている。
ここにボールマン・ウェンリーゼの最高傑作機械人形ハイケンが誕生した。
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