海王神シーランド
地震、津波、というキーワードがあります。
ご気分わるくなる方は、とばして頂ければと思います。
時は過ぎ、グルドニア王国歴509年
グルドニア王国東部ウェンリーゼ領
ウェンリーゼ公爵家エントランス
1
『警告、警告、災害レベル 厄災 退避を推奨します』
ユーズレスの瞳は、赤く点滅している。
「「ユーズが喋った! 」」
ラザアとアーモンドは、驚きのあまり顔を見合わせた。ラザアとアーモンドは、初めてユースレスの声を聞いた。
その直後に、ウェンリーゼ領地東部地方沿岸に大きな揺れが発生した。
「ちょっと、なによこれー」
「ラザア! ユーズにつかまるんだ! ユーズ、ラザアを頼む」
ウェンリーゼ公爵家のエントランスの揺れは続き、巨匠ヤーケン作のシャンゼリアは、床に落ちた。二人はその場で立つこともままならなかった。
「きゃあっ、いや、いや、怖いわよ」
「大丈夫か、ラザア」
しばらくして、ウェンリーゼ公爵領の揺れは止まった。
「たっ、助かったのか」
アーモンドは、ラザアのそばに近づき、安全を確かめる。
「怪我はないかいラザア」
「ええ、なんとかね。お腹の子もこのとおり無事よ…胎教にはよくないけど」
『………』
「それにしても、一体今の揺れはなんだったんだ…」
「お前たち無事か! 」
ボールマンは杖を片手に、執事兼介護機械人形のハイケンに支えられながらエントランスにやってきた。ハイケンは、執事服を着て本物の人間のように振る舞っている。
『………』
ユーズレスはエメラルド色の瞳を九回点滅した。
「御父様! 私達は大丈夫よ! 御父様こそ、大丈夫なのは嬉しいけど、寝ていなきゃ駄目よ! 」
ラザアは最近寝たきりだった、父の顔を見て驚いた。
ボールマン・ウェンリーゼ公爵、ウェンリーゼ家当主代行であり、東部王国海軍元帥である。
五十半ばの初老であり【オールバック】の髪型が似合う。身長はアーモンドと同じ(一メートル八十)くらいだが、杖に支えられる病弱なボールマンは少々小さく見える。
昨年の王都奪還作戦の功労者であり、彼の代で子爵であったウェンリーゼ家を魔導具を中心とした工業地帯として発展させた。今では、グルドニア王国序列三位の公爵である。
また、すべての機械人形の父、亜神ユフト神の再来とも言われている。グルドニア王国、最高の魔導技師である。
「こんな揺れがつづいたらにオチオチ寝てもおられん」
『私はお止めしたのですが…一部の報告を終了します』
ハイケンは目をつぶり大袈裟に首を降った。
「こんなことが出来るのはあいつ以外いないだろう」
「あいつとは一体、誰でしょうか?」
ラザアは不安そうに父をみる。
「海の王 海王神シーランド」
海の竜王 古文書風 作画 東のナポレオン
2
『海王神シーランド。海の守り神として信仰を受け、海と水の女神様の眷属であると言い伝えられています。
詳細な記録はありませんが、船乗りたちの間では我が海軍が誇る魔導船ガレオンを越える、全長百メートルほどとされる竜と蛇の特性を持った海の魔物です。神話の時代では東の姫巫女を背に乗せ、海の彷徨える魂を天に還したとされる伝説もあります。一部の報告を終了します』
ハイケンは、人間のように流暢に皆に話した。
先ほどの揺れから半刻、ウェンリーゼ公爵家を海軍本部とし、東部貴族、海軍参謀たちおよそ三十名程度が集められた。
その席には、当主代行の娘であるラザアと機械人形ユーズレスもいる。身重の体での軍部出席を、ボールマンとアーモンドが止めたが言ってもきかなかった。
「五十年振りの海王神祭典か」
ボールマンは、顔をしかめた。
「ハイケン、皆に続けて説明を」
『分かりました、旦那様。お集まりの皆様でご存知の方もいらっしゃいますが、ご説明させて頂きます。
海王神祭典は、今から約五十年前のグルドニア歴460年頃におきた、海王神シーランドによる厄災級魔法《津波》、《地震》による大災害であります。
ウェンリーゼ領以下、東部全体で当時の死者は五万を越え、その後の二次被害による重軽傷者や、病人等合わせるともたらした被害は約十五万人にも及ぶと言い伝えれております。一部の報告を終了します』
「私の父、先代キーリライトニングも海王神祭典でやられた。当時は原因すら分からず、ただ逃げるしかなかったがな」
その場にいた皆が息を飲んだ。
老人たちは、昔を思い出すように目を閉じる。
「当時のことは俺も覚えている。ありゃ、被害なんて生易しいもんじゃねぇ、死んじまったもんは、訳が分からず一瞬のうちに逝っちまったし、いまだに行方が分からねえ奴だっている」
アルパイン子爵こと海軍少将は、重厚な声で当時を思い出すようにいった。ユーズレスに近いその大きな体で目には涙が浮かぶ。
「生き残った我々のほうが地獄だったかもしれませんね。住む家はない、食べ物はない、道端には死体だらけで、自分が生きることで精一杯でした。ろくに遺体の供養もできず、死者たちは動物たちの餌になって、そのせいで魔獣が増えました。死霊人が少なかったのが、唯一の救いではありましたが」
ボールマンの副官ランベルト中将は、若い頃から使っている目元の眼鏡の位置を少し直し、当時よりも痩せたてシワが増えた手元を見ながらいった。
「御言葉ではありますが、緒先輩方、昔話もそれくらいにして、今をどうするかを話しましょう。事態は急を要するのです」
アーモンドは、急かすように言った。
「なんだと貴様! 若造が昔を知らんからそんなことを言う言うんだ」
アルパインはアーモンドを睨み付けた。
「これだから余所者は嫌なのです。私たちのウェンリーゼを乗っ取りにきた王家の犬が!戻る場所がある王子様は他人事でいい気なものですね」
ランベルトは、机にあったペンでペン回しを始めながら言った。
「お二方!いくら中将閣下、少将閣下とはいえ言葉が過ぎますぞ! 私はすでに、王位継承権は辞退している。グルドニアの姓を捨て、今はアーモンド・ウェンリーゼであります」
アーモンドは、立ち上がり言った。
「三人ともそこまでだ。アルパイン、ランベルト、うちの婿殿をあまり虐めんでやってくれ。婿殿もだ。この二人も、口ではこう言っているがウェンリーゼの一員として婿殿ことを認めておる。
それに、もうすぐ父親になる君がそんなに大きな声を出すのは、ラザアのお腹の子にさわるのではないか」
「ハッ! 失礼いたしました元帥閣下」
アーモンドは、敬礼をして座った。
「けっ」
「確かに、我々のお嬢に何かあれば困りますね。お嬢が我々ウェンリーゼ領皆の姫であれば、その御子は我々の御孫様と同じウェンリーゼの宝であります」
ランベルトは、左手で器用にペンを回し、右手で眼鏡の位置を直しながら言った。
「このお坊ちゃんの子ってのが癪にさわるがな」
「あら、でしたらアルパイン伯父様はこの子を可愛がって頂けないのかしら、まぁなんて不憫な私の坊や」
ラザアはその大きなお腹を愛らしく撫でた。
「いやいやお嬢! そんなことは一言もいってねぇだろう!」
「あら、それでは私の夫と仲直りして下さる」
「はぁ、それはこいつがこの土地の歴史を分かりもしないで」
「困ったわ。きっと生まれてくる坊やは、私に似て世界一可愛い天使でしょうに、アルパイン伯父様には坊やをみせることが出来ないのね、ああーウェンリーゼを守りし、海と水の女神様、亜神ユフト様、どうぞこの私をお許し下さい」
ラザアは軽快に言った。部屋の端にいた海と水の女神は微笑んだ。
「わかった、わかったよ。まったく、お嬢には叶わないな。誰に似たんだか。おい、若造! 今回はお嬢に免じて許してやるが、次に舐めた口きいたらテメーのその銀髪を丸刈りにしてやる」
「ハッ! 我が妻子を可愛がって頂けるようで、恐悦至極であります」
「けっ、口の減らねえガキだぜ」
アルパインはアーモンドを軽く睨む。
「どれどれ、和解できたようでなによりだ。私も是非、婿殿の丸坊主をみてみたいものだな」
ボールマンは杖の柄を撫でる。
「「「「ハハハッ」」」」
アーモンド以外の皆が笑った。
「皆の空気も緩んだところで何よりだ。だが、得てして時間がないのも確かただろう。ハイケン」
『了解しました。本件の作戦の概要を説明致します。厄災級魔法《竜巻》ディックの杖の使用を愚行します。作戦概要の一部の報告を終わります』
ディックの杖(魔法の杖)作画 ヴァリラート様
本作戦が終了し二つの月が昇る刻
ゴルドニア歴509年、海王神祭典を境に、ユーズレスの記録には空白の期間がある。
ラザアが初めてユーズレスの音声を聞いた次の日、彼女の最愛の魔道機械人形は空を見上げることはなかった。
ラフ画 シーランド
一話完結出来なかった。
個人的には、やはり一話の文字数、二千~三千弱が気軽に読めるかと
新しい登場人物の名前考えるの難しいですね。
やっぱり、時間軸とかもっと分かるように工夫したほうがいいですかね。
戦闘シーンがないから読者さん飽きちゃったかな?
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