十一~振り目 主なき機械人形ハイケン
1
「ハイケン早く逃げろ。ここから先は、私でもどうなるか分からない」
バキベキバキベキ
アーモンドの竜化が進み、臀部からは尻尾ような突起が形成され頭部より二本の角のようなものが生えてくる。次第にアーモンドであったものが蝕まれていく。
(いいぞ、想像以上だ。この身体は我によく馴染む)
賢き竜が感嘆声を上げて笑う。この五百年間の中でも非常に上機嫌だ。
「ガララララァァァ」
シーランドの動きが止まる。竜なる気を察知して、先ほどまで勝ち誇っていたシーランドが困惑の表情を浮かべる。
「ハイケン、早くしろ。私が私では、蝕まれていく」
アーモンドがなんとか自我を保ち、ハイケンに強く命令する。
『マスターでないアーモンド様に命令権はございません』
ハイケンはマスター以外の命令は利かない。前マスターの命令である海王神祭典の記録を優先する。次代に未来を託すために。
「さっさと逃げろ。このポンコツが」
ガツン
アーモンドが後頭部に意識を奪い様な衝撃が走り、砂浜に這いつくばる。
「ガッ……ハ…イケン、なにをす…る」
『ポンコツと呼ばれるのを待っておりました。ユフト師の四原則で機械は人を傷つけることが出来ませんので。ポンコツ、ブリキ、スクラップとおっしゃられた方はその限りではございませんが』
どうやら、ハイケンが赤橙の柄でアーモンドの後頭部を殴りつけたようだ。アーモンドの竜人化が収まり、竜になりかけていた風貌が人種の姿に戻る。
『思った通り、まだヒトのままでいられました。本機の推測が正しかったことの一部の報告を終了致します。続けて、プログラム垂直切りを行います』
ハイケンが真っ赤な赤橙を振り上げて剣帝に及ぶ一撃を振り抜いた。
2
「ハイケン、止めろ!」
「「「にゃん、ニャー、ニャース」」」
アーモンドが辛うじてある意識の中でハイケンを見る。猫達が【フレンドリーファイア】に警戒する。
ハイケンがプログラムに従って赤橙を振り抜く。
ガシュッ
「がああああああ」
アーモンドの悲痛な叫びと共に、ほぼ竜化した左腕が宙を舞う。
赤橙の魔刄が再び血で染まる。ハイケンと赤橙は竜に近しき血を浴びる。
アーモンドが砂にまみれながらのたうちまう。
『さすがは、竜に近しき生命力です。痛みはご容赦下さい。《演算》によれば竜なる血がアーモンド様を生かしてくださいます。今後も……』
アーモンドの竜化が収まり、その風貌が人種に戻る。
「ぐうわぁぁあわあ、ハイケン! どうゆうつもりだ」
「「「ニャース」」」
アーモンドは怒り、猫達はハイケンにお礼をいう。ご主人様を助けてくれてありがとうと。
『プログラム垂直切り』
ハイケンが赤橙を振り抜いたあとには砂浜に深さ約五メートル程度の穴が空く。
ちょうど海と水の女神の防空壕の近くだ。
ハイケンは一度刀を鞘に納めて、のたうちまうアーモンドの首根っこをまるで猫でも掴むかのようにして砂穴に放り込んだ。力はやはり機械なだけあって強いようだ。
「がふぅ」
「「「ニャース」」」
アーモンドが砂穴の底に落とされる。すでにボロボロであるが、新たな怪我はないようだ。猫達も大変元気でよろしい。
『こちらで、静観下さい。アーモンド様までいなくなってしまっては、ラザア様に会わせる顔がございません。主であるボールマン様を斬り殺したポンコツには、未来など必要ございません。私にはスクラップがお似合いです』
ハイケンが感傷的な思考をする。その様はまるでニンゲンのようだ。ハイケンはそのまま、胸ポケットから鍵を取り出して砂穴に放り込む。
『【自爆シークエンス】に突入しました。機械人形ハイケンは、六十秒後に【ブラックボックス】である魔光炉が爆発します。速やかな避難を推奨致します』
ハイケンではない自動アナウンスが機械的に鳴り響いた。もう一枚のババが切られた。
3
『今回のパーティーは歴代でも最強でしょう。今後ここまで海王神シーランドを追い詰めることは叶わないと推察します。後顧之憂はここで断つに限ります。今後もウェンリーゼは荒れます。王都でのプランは、【クラウド】である地下迷宮〖秘密の部屋〗に保存してありますのでご参照下さい。道のりが少々険しくはありますが、アーモンド様ならば大丈夫でしょう。鍵を忘れずによろしくお願いいたします。【自爆シークエンス】まであと四十秒です』
「待て、ハイケン! 私では、力ですら中途半端な私ではウェンリーゼには必要ない。ボールマン・ウェンリーゼの意志を継ぐのは、残されたウェンリーゼを導くにはお前が必要なんだハイケン! 」
アーモンドは動かない身体で精一杯に叫ぶ。
『過分な御言葉痛み入ります。私は杯に……あの円卓の騎士の杯に、皆と誓ったのです。ウェンリーゼの平和を、そして主に抱き締めて頂きました。きっとこれが幸せという感情なのでしょうね。十一人目は譲れません。御神酒を注がれたのは私なのです。本作戦の部外者であるアーモンド様は、お呼びではございません。坊やはお家にお帰りミルクでも啜ってください。【自爆シークエンス】発動まで、残り三十秒です』
ハイケンは死に際に〖ココロノカケラ〗を手に入れた。
「ハイケン! ハイケン! ハイケン!」
アーモンドは叫ぶが掛ける言葉が見付からない。動けないアーモンドは自身の無力感と、騎士ハイケンの騎士道に心打たれながら、ほんの刹那に自身の欲が生まれる。
ラザアにまた会える。
お腹の子を残った右腕で抱くことができると……そんな意地の悪い自身を嫌悪し軽蔑した。
『アーモンド様、未来のあるウェンリーゼのパラディンへ。知らなければ学べばいいと思いますよ。【思い立ったが吉日】であると最後の報告を終了致します。【自爆シークエンス発動】まであと二十秒です』
ウェンリーゼの十一番目である円卓の騎士ハイケンは、海王神シーランド目掛けて駆け出した。
アーモンドは後悔に苛まれながら、なんとか意識を保ち、一つ気が付いた。
リーセルス、気絶したままだった。
介護兼執事機械人形ハイケン、ユーズレスとディックのデーターを元にボールマンによって創られたこの機械人形は、ユーズレスシリーズU-11を冠する。奇しくも、その数字は円卓で杯を交わした十一人目の騎士ハイケンと重なった。
大神が死神に仕事の準備をしろといった。
死神は私の鎌は命あるものしか刈れませんよという。
大神は、あの機械はとっくにココロを持っている。あれは生き物だと最高神がハイケンの生命を認めた。
時の女神は溜め息をつきながら、レンガを積み上げる準備をした。
亜神ユフトが、ボールマンの代わりにただただ今日が吉日であることを祈っていた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
第一部の円卓の騎士の話は多少回収出来たかなと。
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