もう一つの厄災と二者択一
キーワード〖地震〗、〖魔力暴走〗、〖マナバーン〗あります。
ご気分悪くなるかたはとばして頂いても大丈夫です。
1
「これで、終わりだ」
アーモンドが吠える。
キュィィイィィィン
滑らかな心地よいメロディーがディックの杖より奏でられる。《竜巻》竜を巻き込みし暴風に竜なるものの気が混じり、風が鋭さを増す。
ズシャアァァァァ
風の刃がシーランドの水鎧の二層目に食い込み高密度の水面に傷跡が残っては再生されていく。だが、鎧の再生速度が間に合わない。その風の刃がシーランドに届かんとしている。シーランドは思考する。竜なるものの気が迫ってくる。その威力たるや我を滅し得る力である。
シーランドは嗤う。
楽しくなってきた。
コヤツの嫌がることは何かと、シーランドは学んだ戦いとは、相手が嫌がることをするものだと、そして見てきた自身が葬った者たちは、自身を傷つくことにはなんら恐れを抱かぬ稀有な存在であった。
シーランドは理解しがたいが理解した。コヤツは自分以外のものが傷つくのを極端に恐れていると、シーランドは陸に上がってから感じていたこの浜辺より少し離れた膨大な魔力の塊(人工魔石製作炉二号機)に意識を向ける。
これが爆発したらコヤツはどうなるのであろう。
シーランドがニタリと嗤った。
「ガラララララララララララララララ」
シーランドは水の鎧を解いた。
「なっ」
アーモンドは顔をしかめる。竜の気を操ることが出来るようになったアーモンドは違和感を覚えた。
シーランドが《竜巻》を全身に浴びながら、魔力を【チャージ】する。
「ガララ…ガハッ、ツ」
シーランドが口より出血する。
海と水の女神の加護により大気中と海より無限の魔力を集束することができるシーランドだが、魔力を貯蔵できる身体はボロボロだ。
特に臓器は表立った【ダメ―ジ】は見えないが、スイの《水爆》による圧力とヒョウの〖大剣夜朔〗による打撃や、ギンの剛剣(卯の花月)による衝撃貫通、ユーズレスによる《物理攻撃》等、生命力の高い竜種であっても無視できない損傷である。
集める魔力はあっても、魔力を貯める器に傷があっては高威力の技は負担が大きい。
シーランドの口腔内が自身の血で染まり、その鉄のような美酒のような味に怒れる竜は狂気を取り戻す。竜種の血が戦いを求め脈が波打ち荒ぶっている。
気力は十分だ。
魔力の【チャージ】が終わり、独眼竜が青く輝く。
「ガラララララララララララララララ」
シーランドは《竜巻》切り刻まれ全身と口から血を流しながら、自身の永遠の脊椎の尾鰭があった場所を天に掲げ地面に思いっきり鞭を打つ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
《津波》に並ぶもう一つの厄災《地震》が発現する。
2
『ビィィィィ、ビィィィィ、警告、警告。ウェンリーゼ海岸で《地震》の発生を確認しました。この《地震》は故意によるものだと一部の報告を終了致します』
ハイケンが体勢を崩し、砂の上に四つん這いになりながら警告を【アナウンス】する。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「しまった」
アーモンドは大地の揺れにより立っていることすらままならない状態だ。
《竜巻》の照準がズレ、術の制御が狂い、風が終わりを告げる。アーモンドはディックの杖を砂の地面に突き刺し残った右腕で杖に支えられながらシーランドを睨みつける。
「「「ニャー、にゃん、ニャース」」」
言われるまでもなくブーツの中の猫たちも頑張っている。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォォォォォォォッォォォ
竜により引き起こされし大地の怒りが収まった。体感で三十秒程度であろうか…
「ガララ…ガハッ、ツ」
シーランドが口より出血する。万全の状態でなかったシーランドによる《地震》は不発に思えたが…
ガァァァァァァン
大きな金属音が響いた。空気が乾く。ウェンリーゼの生きとし生けるモノすべてが、寒気を感じ全身が震える。神々もその音にかつての世界の終わりを告げる楽器を思い出す。
大気中の魔力濃度が濃くなり空間が歪んで見える。風がその人工的な魔力を大陸に運ぶ。風の女神はその気まぐれな風を止める権利はない。
『さらなる異常事態が発生しました。ここより、南へ一キロ地点の人工魔石製作炉二号機にて、《地震》による魔力暴走が起きました。早急な冷却が必要です。対応が遅れた場合は、空気中の魔力濃度のさらなる上昇により大陸全土の魔導具に予期せぬ不具合が生じる恐れがあります。また、二次被害として防衛用魔導具に不具合が生じた場合は、都市レベルでの災害、迷宮での魔獣の暴走、軽度の人体による何らかの影響が予想されます。以上の一部であろう予測の報告の終了を致します』
ハイケンが最悪の未来を【アナウンス】した。
3
「ふぅー」
アーモンドは自分でも分からないが非常に状況を理解していた。賢き竜を喰らったせいであろうか、この絶望的な状況でも何故か客観的に最適解を思考する。
(先手を打ったつもりが後手に回っている)
(こういった状況であれば、リーセルスならばどうする)
アーモンドは気絶したままの副官リーセルスを見る。
(やはり、慣れない頭はつかうものではないな)
(剣術や魔術だけでなく少しは勉強もすべきだったか)
「ハイケン、この状況をどうみる」
アーモンドは、シーランドを睨み、牽制の意味で杖を向けながらハイケンの意見に問う。かつて、アーモンドは学園でユーズレスに決闘を申し込んだ日の【マナロスト】の犯人呼ばわりされた経験がある。真相は詳細不明となっている奇怪な事件であった。
当時の当事者である神々が口笛を吹く。それにより、学園規模ではあるが大変な混乱があったことは、今でも覚えている。
シーランドは血を吐きながらも興味深い目で高みの見物を決め込んでいる。
『《高速演算》の結果、我々に残された選択はアーモンド様のディックの杖による魔法で海王神シーランドを討伐するか、ディックの杖による魔法《冷続》での魔石作成炉の表面温度を正常に戻すかの二択でございます』
ハイケンが二者択一を進言する。
「そうか、魔石炉までの距離は分かるか」
アーモンドがハイケンに何かを決意したかのように聞く。
『ここからおよそ南に一キロと五十メートルであると一部の報告を終了します』
ハイケンはあくまでもハイケンだ。
「ハイケン、お前は過去と未来どちらを大事にする」
アーモンドはボールマンの息子であるハイケン、兄弟に問う。
『主なき今の私に未来はありませんと一部の報告を終了します』
「そうか」
アーモンドは何故にこのような質問をしたのだろうと頭を冷やす。
『しかしながら、私の主であったお方は過去に囚われながらも常にウェンリーゼの未来を憂いておりました。そんな精一杯強いフリを…お優しい主を敬愛しておりましたことの感情の全ての報告を終了致します』
仕える主のいない機械人形が感情の全てを吐き出す。
「ハイケン、私は今こそ心に叫ぼう。ボールマン・ウェンリーゼの、義父の、誰よりもウェンリーゼを愛したオトコの優しさを! 私は、義父のような〖強い人より優しい人〗になりたい」
アーモンドは頭を冷やして心を燃やした。ハイケンに何故にこのような質問をしたのか…それはきっと、心だけはニンゲンのままでいたかったのだろう。
「ハイケン、未来を救うぞ」
『主であったお方を敬愛するアーモンド・ウェンリーゼ様の選択に全て同意することの報告を終了致します』
ハイケンが兄弟に同意した。
大神がカツンの岩に寄り掛かりながら二人を見る。
お互いに切り札を隠している兄弟に、カツンの岩が父であったモノの代わりに悲しげな二人を見ていた。
アーモンドが魔法の杖を未来に向けた。
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