閑話 キカイノココロ 伍
木人とフクロウの会話パートです。
会話パートの練習なのでスキップして頂いても大丈夫です。
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隠れ家の夜中
坊とユーズレスが寝静まった頃に…
木人が一階のリビングでハチミツ酒を味わいくつろぐ。心なしか、顔のシワの数が減ったような印象を受ける。
「ホウホウ」
不苦労(梟)が三階より降りてきた。坊とユーズレスの眠りの邪魔をしないようにしているのだろう。ホクトは心配性で坊のベッドに一緒になって寝ている(守っている)。
「あんたを拾ったのもこんな満月の夜だったね」
木人がもう一つの杯にハチミツ酒を注ぎ不苦労に話しかける。
「ホウホウ…人化するのは久しぶりなので変な気分ですな。夜の守りを告げました。満月の夜は魔力制御が荒れるので気持ちも高ぶってしまいました」
不苦労が梟の姿から背広に白のローブを羽織った老紳士に形態を変化させる。
「ふん、エリティエール魔導国の大魔導士が何をいってるのかね。人種の中であんたほど術に長けた厄介なやつを私は知らないよ。それで、あんたの探し物はあの坊やで良かったのかい」
木人がハチミツ酒を勧めながら不苦労に問う。
「ええ、あの方が私の愛しき人、エリティエール王国最後の末裔である御方であります」
「アートレイの怒りに滅ぼされし、魔導大国エリティエールの血脈がまだ続いていたとはね。今日は祝いだ。失われしエリティエールの大魔導士フォローに」
「まだ名もなき愛しき我が御方に」
杯と杯がぶつかり、小気味のいい乾いた音が夜の森を支配する。動物たちはその機嫌のいい音色に眠りを深める。
「だが、あの坊やがエリティエールの王子様だっていう証明はあるのかい。ただならぬ魔力を秘めとるのは分かるけどね」
木人の目が光る。
「これを持っていました」
不苦労が木人の前にペンダントを出す。
「こりゃあ、また珍しい。転移石じゃないかい。しかも、巫女の守りのまじない付きとは畏れ入ったね」
再び木人が若返る心がときめいているようだ。
「この転移石はエリティエール王家しか生成方法が分かりません。当時、宰相であった私ですら知り得ることなかったですから。それにそのペンダントは青く輝いておりました。不思議なことにその転移石はエリティエール王家に連なる者以外には反応しないのです。巫女のまじないについては私も不明ですが、相当に力のある術でしょう」
不苦労が杯のハチミツ酒を煽る。木人が気を利かせて杯に酒をつぐ。めったに酒を口にしない二人の会話と酒が進むほどの一大事らしい。
「あの時は急いでおりましたし、私の心が乱れておりました。上手く座標が固定出来ませんでした。とにかくあの化け物から逃げ出したかった。まさか、四百年の時を越えて別々の時代、場所にランダム転移するとは思いませんでした。お笑いください。私は賢者ではなくただの愚者、臆病者です」
不苦労に悪い気が集中する。
「しかし、あんたは諦めなかった。この百年間動物と同化しながらも、時を緩めてただただ宝物を探した。何の手がかりも希望もなく探した。神様ってのはいるもんだねえ」
木人が指を鳴らすと調理場にあった調理器具達が軽いつまみを作り始める。
「私は逃げました。国につく要職でありながら、王子をダシに逃げました。その底知れぬ後悔が私を生きながらえさせました。私は自分の為に、やってきただけです」
「いいじゃないかい、逃げるのにも勇気がいるもんじゃよ。あんたの場合は相手が強かったんだ。あの時代の奴には私でさえ手に負えなかったのう」
皿には薄く切った臭いのキツイチーズに、干し肉と干し葡萄が綺麗に盛り付けられていた。
「十秒です…」
不苦労がか細い声でいった。
「あの時、奴にアートレイに言われました。十秒も粘ったな新記録だ。ご褒美に十秒待ってやると…何が大魔導士でしょう! 賢者でしょう! 奴にとっては、そこら辺の魔獣と何ら変わらない存在だったのです。私は怖くなりました。泣き叫びました。敵の目の前で、王を殺した敵の前で…すると奴は興味なさそうなフリをして言いました」
不苦労が気持ちを落ちつけれるように、木人は再び指を鳴らし香を焚く。それは優しい森の香りだ。月も森の番人の為に深々と森に光を照らす。
「絶望は美味であろう」
ドクン、ドクン、ドクン
不苦労の時が止まる。底知れぬ恐怖が甦る。
パァン
木人が手を叩き。不苦労の百年間(四百年間)の苦労を解くまじないをかける。
「今ここに宝物はある。あんたの苦労は報われた。あんたは自分にできる精一杯正しいことをしたんだ。自分を誇りな、エリティエールの偉大なる大魔導士フォローよ。あんたの王なる誓いが証明されたことを私が称えようさ」
木人が神々に不苦労の功績を称える。その証明は天なるエリティエール王に届くことを願う。
「痛みいります」
不苦労が天にいる主に向かって礼をとる。月の光が微笑んでいる。
木人はチーズと干し肉と干し葡萄を一つずつ掴んで口に入れるとなんとも言えない甘さと濃厚さを味わいながら決意したように口を開く。
「それで、これからはどうするつもりだい。王子は見つかったが、また国でも起こすつもりかい。エリティエール宰相殿」
場の雰囲気が一変する。香の煙が漂う。チーズは臭い。
「私は、これからも影として生きます。御方に出生を知らせるつもりもありません。御方の人生は、御方のモノです。決して失くなった国のモノではありません。私は他に生き方もわかりませんし、これから好きなことをしようにも些か年を取りすぎました」
「好きなことをするのに年は関係ないと思うがねえ。ふん、たかだか百五十年程度だろうに私にとっちゃあまだまだ童子さね」
木人の杯の中身も失くなり、不苦労が酒を足す。
「久しぶりに酒を飲みましたがとても旨い。木人殿、秘蔵の酒ですか」
不苦労が酔いが回ってきたのか杯の中酒をユラユラと揺らす。
「ふん、そこいらのハチミツに適当に在り合わせで作った代物だよ。【レシピ】もなにも合ったもんじゃないさ、五級酒より下の六級酒みたいなもんだよ。カッカッカッ、宰相殿が残りカスを気取って呑むなんてお月様もお笑い草だねえ」
「これが樹液の残りカスですか、ハッハッハ。どうやら、木人殿の仰る通り。まだまだ私は童子のようですな」
二人は笑う。数年振りに笑う。木人は心が踊り若返り、不苦労の百年間の労を労う。
「宰相殿や、人生とは生きているだけで丸儲けだねえ」
木人がまるで自分に言い聞かせるようにいう。
「木人殿、私はきっとこの樹液の残りカス(六級酒)の味を生涯忘れないでしょう」
「一つ儲けたね」
「全くです。人生とは神秘ですな」
神様でも分からないことがあるようだ。
「「ハッハッハ」」
二人は笑った。そして日が昇るまで語った。
それはそれは楽しそうに語った。
状態異常耐性が非常に高い二人が、次の日に二日酔いという状態異常にかかったのは、この巣穴にいる皆だけの秘密だ。
月の女神は楽しそうな二人がもう少し話せるように少しだけ夜を長くした。
魔道機械人形ユーズレスはこの会話を【聴覚センサー】がキャッチしていたが、補助電脳ガードに気付かれないように【デリート】した。坊を助けてくれた恩人に対する【エチケット違反】無礼だと思考した。
また、坊が何処の生まれだろうが誰だろうが、この寝顔が天使であることに変わりはないのだから…
『…ホ…ウ…ホ…ウ…』
機械人形は、巣穴の皆がいい夢を見れるように、もう怖いものが来ないように、長い間苦労したフクロウの代わりに夜の森と丸い満月にお願いした。
ユーズレスがココロノカケラを…ココロに夜長な色が加わった。
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