耳障りなメロディー
夜なので誤字脱字警察は明日やります。
ご容赦を
1
ディックは夢をみる。
十数年前 ウェンリーゼ 迷宮 魔獣スタンピート
始まりの迷宮から数百に及ぶ魔獣が溢れかえっている。
「くそっ! いいか、何としても持ちこたえろ」
ウェンリーゼ冒険者組合ギルド長のマルエフは言葉とは裏腹に焦っていた。この四十近くの元銀級冒険者は、愛剣クサカリを握りしめながら皆を鼓舞する。しかし、集められたベテランから駆け出し合わせて総勢五十名でどうこうできる数ではない。
魔獣の中には大型や中型もかなり多く、一匹倒すだけでもベテラン三人は必要な計算なのだ。
「ハハハハハハ、もうお仕舞いだ」
駆け出しの冒険者の中には既に漏らしているものもいる。
「怯むな、ここで食い止めなければ町まで被害が出る。死んでも死守するのだ」
(くそっ、まず無理だ。どうすれば)
(せめて、王都に視察にいったギンやヒョウ達がいてくれたら)
「「「ギィギィギィギィ」」」
魔猿が嗤う。気味悪く嗤う。
「ちぃ、来るぞお前達絶対に死ぬなよ。生き残ったら、一人につき樽いっぱいの酒をギルド長権限で浴びるほど飲ませてやる」
マルエフは叶いもしない約束をする。彼なりの精一杯の励ましだったのだろうか。
「ソイツは、本当じゃろうなぁ」
無骨なしゃがれた声が聞こえる。
マルエフや冒険者達が、魔獣を前にしようが関係無しに後ろを振り返る。
「「「おやっさぁーん」」」
ウェンリーゼの皆のおやっさんがやってきた。
「そこに、とびきりに臭いのキツイチーズもつけろよマルエフ、小童ども下がってろ! なんたってワシの拳骨はちぃっと痛いからのう。拳骨岩砕き!」
ベンが右腕に装着した専用武器拳骨で地面をおもいっきりは殴る。
ドッゴオオオオン
「「「ギィギィギィギィ」」」
「「「グモォォェ」」」
「「「ピィギィァ」」」
迷宮の入り口前に地割れが出来て大半の魔獣が足を捕られる。
カッ、カッ、カッ、カッ
そこに杖をつくウェンリーゼ領主代行と補佐のランベルト、アルパインがやってきた。
「おやっさん、急ぎすぎですぜ」
「ボールの足も考えてください」
補佐の二人はボールマンを守るように陣形を組む。
「マルエフ、皆、御苦労だったな後は任せろ」
ボールマンが魔獣を引き付けておいた皆の労を労う。
「代行様、お逃げ下さい。ここは危険です」
マルエフが警告を発する。領主代行を思っての言葉であろう。
「ああ、確かに危険だな。私の魔法の杖は細かい加減が利かないからな。ディック、私の魔力を存分に使え、魔獣達を一掃する」
『了解しました。魔獣の群れに向けて上級殲滅魔術《雷音》を発現します。皆様、伏せて下さい』
「いきなりかぁ、お前ら伏せろ」
「我は、練る練る分厚い壁を《土遊び》」
アルパインが警告し、ランベルトが全員を囲むように分厚い土の壁を作る。
「《雷音》」
ボールマンの王族並みの魔力がディックの杖に【チャージ】され音すらない広域の雷が、足止めを食らった魔獣に降り注ぐ。
悲鳴すら聞こえないその雷の後には、跡形もない魔獣と辛うじて範囲外にいた一瞬の出来事に声すらでない魔獣がいた。
その数残り約三十程度であろう。
「すっすげえ」
「こんな魔術みたことないぞ」
「領主代行様ってただのお飾りじゃなかったんだ」
冒険者達は何があったか理解の範囲外だ。
「オラオラオラオラ、魔獣の群はどうした」
町の警備を飛び出して、自警団のクロがやってきた。
「きたかクロ! アル、あとの指揮は任せる。後片付けは任せた。自警団と冒険者達にも仕事を残してやらんとな、せっかくの実践だ」
一仕事終えたボールマンがディックの杖を撫でながらいう。
「了解したぜ。おらぁいくぞ、おまえら。さっさと仕事して、マルエフの財産全部、酒に変えるぞ」
「「「おう」」」
皆に力と気力が戻った。
「待ってくれアルパイン大佐、あれは言葉のアヤで」
「マルエフ、私の分の酒もあるのだろうな」
「領主だいこうーさまー」
マルエフは死んだ。後にボールマンが【ポケットマネー】でこっそりと酒場の代金を払った。マルエフは甦ったが、二日酔いで二日間死んだ。
「良くやったディック」
ボールマンが相棒を褒めた。
ディックは酒を飲むことは出来ないが、ボールマンの嬉しそうな安心したような表情に酔った。
2
ディックがボールマンの最後を確認する。
『ピィー、グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼの生命活動の停止を確認しました。本機はスリープモードに移行します。杖による能力の発現は可能です』
ボールマンの死によりディックのマスター権限が空席となった。
ハイケン同様に仕える主のいないディックは、自身をスリープ状態に移行し、意志のないただの魔法の杖となる。この数十年、文字通りボールマンを支えてきた杖にはココロを整理する時間が必要なようだ。ユーズレス同様に…
「ガララララララ」
シーランドがボールマンとユーズレスの活動停止を確信する。
シーランドは吠えた。天界におられるであろう母である海と水の女神に、母よ、母よ、貴方のおかげでこのブリキ玩具とウェンリーゼの王を星へと還すことができました。母よ、母よ、この海王神祭典もフィナーレを迎えます。母よ、母よ、次なる獲物も貴方に捧げましょう。
シーランドに気力と身体に再び無限なる魔力が漲る。
シーランドがその永遠なる脊椎をゆっくりとしならせて、その青く輝く独竜眼で腹を空かせた銀狼を捉えた。
当の母である、海と水の女神は天ではなく、砂の防空壕で世界中の神々の視線を気にしながら、我が子のヤンチャぶりに頭を悩ませた。
3
ザァァァ、ザァァァ
波の音がウェンリーゼを包む。
潮の流れが変わろうとしている。
銀狼が波の音に紛れて耳鳴りを聴く。
ドクン、ドクン
賢き竜の魔石がカタカタ嗤う。
誘惑が囁く。
おまえは何を望む。
お前の欲はなんだ。お前は何が欲しい。
竜が吐息を漏らす。
誰もが目を曇らせる財宝か、天よりも高い地位か、万人が称えその名を馳せる名誉か、それとも女神すら嫉妬する美しき女か、天裂き地を割る強さか、貴様の内にある孤独を癒す甘美なる思い出か…
銀狼は首を振る。
傷だらけの狼が瞳を深紅に染めて吠える。
アッハハハハハハ、これは愉快だ。
賢き竜が数百年ぶりに嗤う。声を出して嗤う。
銀狼が迫り来る海の竜を視界に入れる。
海王神シーランドは傷だらけでボロボロであるが、その高貴なる姿は沢山沢山楽しみ腹を満腹にさせて顔をほこぼらせている(ツヤツヤ)。
戦いが、強者との終わりなき【ゲーム】が、殺戮が楽しくて楽しくて仕方がない。
もっと、もっともっと我を楽しませろ。
熱い、熱い、血が滾る。
銀狼が海の竜を蔑む。そんな理由で俺の巣穴に手を出したのかと、銀狼が吠える。
アッハハハハハハ
魔石の竜が嗤いながら狼に耳打ちする。
安心しろ、お前も我々と同類だよと…
4
「があああああ」
アーモンドが涙を流しながら魔石をデックの杖を振るう。
その涙にはどのような感情が混じっていたのだろう。
最愛の人の父に対する別れの涙だったのだろうか。
ウェンリーゼの皆に疎まれていた自分に憎まれ口を叩きながらも、居場所を作ろうとしてくれた眼鏡に対する涙だったのだろうか。
ラザアとの約束を破った騎士の誓いを守れなかったことに対する申し訳なさと不甲斐なさだったのだろうか。
役立たずのパラディンもどきである自分の無力か…
デックの杖が怪しく輝き、再びその形を変える。杖の先端には大きな一つの窪みができる。
アーモンドはこの世に一つしかない金では買えない価値の魔石をディックの杖に捧げる。
魔石は杖の先端の窪みから吸い寄せられるように空中に浮遊する。魔石が杖の先端を中心として、等間隔の輪を作る。
ギィギィギィギィギィギイ
不規則な機械のような音が響く
美の女神は両の耳を塞ぐ。
「我は要求する、荒ぶる風を、竜の怒りを収束する、練る、練る、練る、練る、要求する」
ギィィィィィーン
機械音が小気味のいい流れのあるメロディーへと変化していく。
美の女神は片耳を澄ませる。
その風は、濁った魔石の魔力をウェンリーゼの風に纒い、散っていった者達の怒りとして杖の回りに円を描くように九つの輪が収束する。
ギィギィギィギィ(アッハハハ)
そのディックの意志なきメロディーは次第に酷くなる。
美の女神は再び両耳を手で塞ぐ。
古来の神で【ツクモガミ】なる物に宿る神いたそうだ。
大神がいった。あの杖には何も宿っていないと…
九番目の機械神は眠ってしまったと
なかなか評価上がりませんね。やはり、物書きは難しいですね。
今週は草刈りと地域行事で週末アップできないのでちょこちょこやっていきます。




