シャットダウン
残酷な描写あります。
タイトル通りの内容ですのでとばして頂いても大丈夫です。
1
むかし、むかし、ある所にとても強い機械人形がいました。
機械人形は敵をいっぱいいっぱい倒して国が平和になりました。
平和になったら、機械人形はやることがなくなってしまいました。
一人でいろいろ頑張ってみますが、ごはんもつくれない。さかなもつれない。おうちもつくれません。
機械人形は思いました「僕は戦いがなくなったら役立たずなんだ…」
そんなとき、機械人形は猫に会いました。
猫はお腹が空いていたので機械人形は持っていたおさかなをあげて、頭をなでてあげました。
そのあと、手を振ってお別れをいいましたが、猫は機械人形にどこまでもついてきます。
機械人形は「僕は役立たずだから、一緒にいれないよ」といいました。
それでも猫はついてきます。
機械人形は猫と一緒に旅をすることにしました。
そんなある日、猫は病気になりました。機械人形はひとりで病気を治そうしましたが、どうしていいかわかりません。
困っていると、木の妖精と犬がそこを通りかかり、病気を治す薬を作ってくれました。
機械人形は猫が治ったことに喜びましたが、猫が苦しんでいるときに病気を治す方法も知らない自分が嫌いになりました。
それを見ていた妖精は言いました「知らなかったら、これから学べば良いし、分からなかったら、みんなに頼っていいんだよ」
それから、機械人形は、みんなからいろいろなこと学び、分からないことはみんなに聞くようなり、友達もいっぱいできました。
そんなある日、一緒に旅をしてきた猫の元気がなくなってきました。機械人形はお薬を作りますが、元気に鳴りません。
とても慌てた機械人形は緑の妖精に猫を元気にしてほしいと頼みました。
緑の妖精は「悲しいけど猫はたくさん生きたから天国に行く順番がきたみたいだ」といいました。
それでも機械人形は猫を治そうといろいろ頑張りました。でも、猫は元気になりませんでした。
機械人形は「やっぱり僕は役立たずだ…」とつぶやきました。
その時、猫は機械人形の手に乗り丸くなって「一緒にいてくれて、ありがとう」と
ニャーンと鳴いてながいながい眠りにつきました。
機械人形はとてもとても泣きました。泣いていたら友達も集まってくれて一緒に泣いてくれました。友達は「猫は機械人形と一緒で幸せだったね」と言ってくれました。
それから機械人形は『ありがとう』と言ってくれた猫のためにも自分を「役立たず」と思うのをやめました。
そして機械人形は猫の子供たちを今でも守っています。いつまでも、いつまでも、幸せそうに守っています…
〖機械と猫〗絵本より 作者 ヴァリラート
2
ユーズレスは悪夢を見る。
何をしているのだろうか。映像にバグが映る。本機は故障しているようだ。マザー・インテグラやアナライズ級の【サイバー攻撃】だろうか、でなければ説明がつかない。
ユーズレスがハイケンを見る。ハイケンが坊に向かって刀を振り上げている。
ザシュ、嫌な音がした。
機械に嫌な音という判別はないが物凄く嫌な音だ。刀が赤く怪しげな魔力を帯びて血を滴らせている。
ユーズレスの《自動探知》が発動する。ランベルトの生命反応が消えている。坊の生命反応も消えている。
『本機は外装甲に甚大なダメージを受けておりますが、【ブラックボックス】に問題はありません。システムは正常です』
補助電脳ガードがおかしなことをアナウンスしている。やっぱり壊れているんだ。
「ガララララララララ」
シーランドのブレスがユーズレスを襲う。ユーズレスは直撃して吹き飛ばされる。ユーズレスは防御すら取らずに無防備な状態で戦闘に意識が向いていない。
『本機は甚大なダメージを受けています。稼働時間はあと二分です。』
ユーズレスは思考する。
(ああ、なんだ)
(これが、生命体が見る夢というやつか)
(早く起きないと、坊が待っている)
(本機はどこでシャットダウンしたのだろうか)
(いつから夢をみているのだろう)
ユーズレスはメモリーを再検索してみる(記録をたどる)。記録媒体である【ブラックボックス】が稼働する。
獣国で、再起動となり白猫獣人のラブに出会い、ラブの恋人のヒノエ(ヒョウ)が捨て子の坊を連れてやってきた時からだろうか。
坊が泣きながらイッショウモチの儀式を行い転ばないようにと《斥力》の魔術を使い皆に日が暮れるまで怒られたときであろうか。
坊が本機のところまでたどたどしく初めて二足歩行しながら来て「パーパ」と人語を発した時であろうかあの時は「嬉しい」という感情【自己アップグレード】でインストールした。
獣国を離れて二人の冒険が始まった時、坊は毎日本機の腕の中安心してスヤスヤ眠っていた。その寝顔はきっと「天使」という天界の使いのようだ。「愛しい」とう感情をその時【自己アップグレード】インストールした。
旅の途中で坊が風邪なる病になった。熱が下がらなかった。木人とホクト(犬)には本当に助けられた。本機はその時に失うものの「恐怖」と他者に対する「感謝」を【自己アップグレード】インストールした。
ニンゲンの里で本機が原因で意地悪をされた日、本機が坊から離れようとしたら坊は泣きながら一緒に再び旅に出た。あの時はもう一生離れないと決めた。坊はその時に序列第三位のマスターとなった。
ピィー、ピィー、ピィー
【聴覚センサー】に響く信号を感知する。きっと【アラーム機能】だ。
目覚ましで起きるのだ。
ニンゲンと同じように夢から覚めなくてはいけない。
そしていつものように、坊のオトサンとしてドンと構えなければならない。坊と坊の家族が笑っていられるように…そのヒトハダのような陽だまりで、機械にはない温かさを感じる日々を過ごすのだ。
これからもずっと…
さっき仲直りはしたのだ。また手を繋ごう。昔よりガサガサでシワが増えた頑張り屋さんの手を、右腕が無かったのもきっと夢であろう。本当に悪い夢だ。
もう一度、あの手からたくさんのエネルギーを貰うのだ。あの全身を包み込むような幸せを、本機は誰よりも坊のことを知っている。
好きなところなんて、百年だろうが千年だろうが語ることができる。
なんで、今まで直接いわなかったのだろう。
そりゃぁ少しは嫌なところもある。
ギャー、ギャー、うるさい。オネショをする。いつも危ないことばかりでお守りが必要。足が臭い。寝る前に油断すると歯を磨かない。大人になってからも泣いてばかり。人の不幸を背負いたがる。たまに嘘をつく。でも、人を傷付けるような嘘はつかない。やられたら必ずやり返す。本機の好むヒトハダの温度は変わらない。
「まあまあ」と翻訳不能な口癖をするがそれは最高の褒め言葉だ。すべてが本機の宝物だ。
そうだ、そうだ、もう仲直りは出来たのだ。また手を繋ごう。さっき右腕がなかったのもきっと悪い夢だ。もう一度手を繋いでヒトハダに触れて、数値に出来ない全身を包み込まれるような【無限のエネルギー】幸せをを分かち合うのだ。あんなに笑って泣き合った、二人はずっと一緒だったんだ。
ユーズレスの【ブラックボックス】が【オーバーヒート】寸前になり思考がループする。
ピィー、ピィー、テンス、テンス
補助電脳ガードが呼んでいるもう起きる時間だ。
早く起きよう。そして、坊に【アップグレード】して貰おう。この【ブラックボックス】に溢れる言語をしっかりと伝えるのだ。自分の【アナウンス】で…
『ピィー、ピィー、テンス、テンス』
目覚めない。
目の前の坊の顔が消えない、夢から覚めない。
ユーズレスは首だけになった坊に手を出して触れる。
(ア…タタカイ)
(デモ…ツメタ…クナル)
(カタク…ナッテ…キタ)
坊が【シャットダウン】してしまった。
この手でイッショウ護ると約束したはずなのに…
本機は状況が理解出来ない。
『…ネ……ム……イ……』
『テンスの【ブラックボックス】に大きな問題が発生しました【強制シャットダウン】を行います』
隠されし十番目の子 魔道機械人形ユーズレス
本機は名前の通り役立たずだ。
ユーズレスは坊を抱き締めながら眠りについた。神々にはその姿が、機械が仔猫を護るように見えた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
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