十振り目 ゴーレムの子 ボールマン(坊)
残酷な描写あります。
キーワード「斬首」あります。
1
「ハイケン、がふっ……私の首の使い道は分かっているな。以後は、王都プランBで遂行するように」
ボールマンは血を吹き出しながらハイケンに【アドバイス】を送る。マスター権限を剥奪された外道畜生にもはや命令権はない。
『外道畜生に命令権はありません。記録は残しておきます』
ハイケンが最後の一歩を踏み出し、模造刀(白燈)の潰してある刃をボールマンの首筋にあてる。ハイケンは《演算》で最適解を導く、このナマクラで罪人の首を落とす作業を実行する最適解を……
「ラザアには愛している。すまないと」
『ピー、ピー、ピー、記録だけはしておきます』
機械人形ハイケンは記録する。
「アーモンドには、あとは頼むと」
『ピー、ピー、記録だけはしておきます』
機械人形ハイケンはかつて主であったものの言葉を記録する。
「アルには……何を言っても怒られるな」
『ピー、記録だけはしておきます。同意します』
機械人形ハイケンの胸にある何かが熱を帯びていく。オーバーヒート寸前である。
ハイケンが斬れないであろうナマクラを振り上げる。
ハイケンに習い、死神も鎌を振り上げる。
ハイケンがナマクラを振り下ろす。
死神も後に続く。
「ワォーン」
何処かの犬が機械の代わりに泣く。
「ハイケン、ご苦労(不苦労)だった」
ボールマンが息子のいままでの労を労った刹那に、ハイケンのナマクラが……止まった。死神がその鳴き声に驚き、鎌はなにもない宙を振るう。
『ビィィィィ、ビィィィィ、ビィィィィ、エラー、エラー、斬首、斬首、斬首、予期せぬ【アップデート】があります。更新しますか……【ダウンロード】が完了しました。外道鬼畜を斬首することが出来ません。キカイノココロが強い拒否をしていることのすべての報告を終了致します』
ハイケンは〖ココロノカケラ〗を手に入れた。だが、ボールマンは罪を精算していない。
こんなことは望んでいない。
アーモンドはディックの杖を使えない。
偽誓薬よる自死ではディックのマスター権限は削除されない。
ウェンリーゼが救われない。
時の理は残酷だ。例え、神々がそれを望もうと時間は無常に流れる。ココロノカケラを獲得した機械のことなどお構いなしに、ボールマンの身体が崩れ、もはや首と胴しか残っていない。
死神が鎌を振るった。
2
何故か武神がウズウズしている。
世界中神々が事の顛末に大変興味を示している。
海と水の女神は穴を掘り終えて砂の防空壕が完成した。
ボールマンの命が尽きようとしている。
ハイケンは刀をおろせない。
ランベルトはもういない。
ユーズレスはシーランドと戦闘中であり、アーモンドは何やら魔石の熱に抗っている。一番冷静であるリーセルスは気絶している。
ディックの強すぎる制約は、薬による自死ではマスター権限が削除されない。アーモンドがディックを使うことができない。それどころか、未来永劫子々孫々に至るまでディクの杖を使うことが出来ないであろう。
死神の鎌がボールマンに迫る。
「ワォーン」
犬が鳴くが死神はもう驚かない。
ザシュ
死神が鎌を振るった先には……左腕を斬られた武神の姿があった。
世界中の神々が驚愕する。この数千年傷を負うことの無かった戦いの神の左腕が宙を舞う。
武神はガハハハハハハと豪快に笑ったあとに、右腕で斬られた左腕を拾う。武神はそのまま大神の前に跪き己の左腕を捧げた。大神は困った顔をした後に「確かに受け取った」といった。
ハイケンが光に包まれる。武神は自身の左腕を対価として機械人形に〖武神の加護〗を授けた。
『予期せぬ【アップグレード】を確認しました。垂直切りを【ダウンロード】しました』
ハイケンは神なる剣術を習得した。
ここに神の祝福を受けし機械人形ハイケンが、命あるもの生命体として神々に認められた。
神々が称賛の拍手を送る。
「ハイケン、もう限界だ。身体が持たない……がはっ、このしわ首一つで国が救われるのだ。安い買い物だろう」
ボールマンの胴が砂になり崩れていく。まだ声を発すだけでも奇跡だ。
『斬首、斬首、エラー、エラー、貴方の首は尊いと進言いたし……エラー、エラー、斬首、斬首、斬首、エラー、エラー』
ハイケンが戦っている。ハイケンが再びナマクラを振り上げる。
「「「ニャー、にゃん、ニャース」」」
犬が鳴くなら猫も啼く。アーモンドのブーツに宿りし猫たちは、ブーツの制作者であるボールマンに猫の恩返しをする。アーモンドの傍にいつでもいれるようにしてくれた最高の魔導技師に……ナマクラの刃が薄らと赤みを帯びていく。
キィィィィィン、美の女神が猫たちが奏でるメロディーに聞き惚れる。
アーモンド専用武器の白燈が、主人の魔力を通したように赤く染まり魔刀赤橙となる。その切れ味は神刀にすら届きうる。猫たちは啼く。ボールマンが刹那の痛みすら感じえぬように啼く。
ボールマンが最後に戦闘中のユーズレスを見てハイケンに命ずる。
「早くしろ、このポンコツ(愛してるぞ、馬鹿息子)」
ザシュ、大罪人の首が跳んだ。
〖ユフト師の四原則〗
機械は人を傷つけてはならない。ただし、ブリキ、ポンコツと呼ばれた際はその限りではない。
赤橙の刃が血を滴らせて泣いている。泣けない機械人形の代わりに泣いている。ハイケンの代わりに赤い血の涙を流している。
『グランドマスターであったボールマン・ウェンリーゼの最後の命令を遂行したことを報告します。以降、本機のマスター権限は永久凍結となることのすべての報告を終了します』
仕えるマスターのいない執事兼介護機械人形ハイケンが、誰かに【アナウンス】した。
死神は最後まで振り上げた鎌を下ろせなかった。武神は神々に「漢が漢に惚れただけだ(おっさんずラブだ)」と得意げに笑った。
海と水の女神は砂の防空壕から、武神に熱い視線を送る。
中立である大神は立派になった二人の息子の頭を撫でた。
時の女神はレンガを積もうとしたが、そのレンガはつかんだ瞬間に砂のように朽ちてしまった。神でさえ零れた星の砂を掴むことは叶わなかった。
パァン
半世紀以上前に西の姫巫女が坊のペンダントにかけた守りのまじないが解けた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
色々迷ったのですが、連載当初のプロット通りこのルートでいきました。
作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます(笑)
今日か明日あと一話更新予定です。