九振り目 料理人 ランベルト
海王神祭典・モブ達の救済が完結しました。
ご愛読ありがとうございました。
本編も頑張ります。
タイトルは外伝からの流れです。
残酷な描写あります
1
ランベルトは夢を見る。
「ランベルト、凄いわ。あなたって天才じゃない」
エミリアお嬢様は非常に興奮している。
「その、へ、あのその」
ランベルトは顔を赤くして混乱している。
「あなたが計算してくれたこの【サドル】の角度に、裏打ちされた機能美を備えたデザインなんてまさに芸術よ。あなた天才よ、天才。ただのおかしな料理ばっかり作ってる、もやしっ子の根暗眼鏡じゃなかったのね」
「グハッ…」
エミリアお嬢様の太陽のような笑顔とお言葉は、カミソリのような切れ味だ。流石、剣帝キーリライトニングの娘である。
ランベルトは、嬉しさのあまり切られたことすら【ダメージ】にならない。心の出血の代わりにますます顔が赤くなる。
「決めたわ。あなた、今日から私の侍従になりなさい。ボールと一緒に私を、ウェンリーゼを盛り上げていくのよ。コキ使ってあげるから私に尽くしなさい」
「え…え…ええぇぇぇぇぇぇ」
陰キャであるランベルトは、陽キャのエミリアの光が眩しすぎて言語機能に混乱をきたしている。
「はい、決まり。私に選ばれたんだからもっと喜びなさいよ」
「はっはいいぃぃ」
ランベルトの社畜人生のスタートだ。おめでとう眼鏡君の人生に幸あれ。
「ランベルト。ちゃんと私のこと助けてね」
エミリアお嬢様は、新しくできた臣下にウインクした。
ランベルトは気絶した。神を信じてなかったランベルトが見つけた女神は、本当にワガママが良く似合う女神だった。
2
『ビィィィィ、ビィィィィ、グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼ以外、本機を使用することは出来ません』
ディックがアーモンドを拒否する。
「えっ…」
アーモンドは深紅の瞳を点にして、緊急事態に呆然とする。この〖不運〗の加護(呪い)持ちはやることなすことが、いつも逆につながる。皆は、なんかそんな気がしてたんだよねと予想を的中させる。銀狼さん(アーモンド)は期待を裏切らない。
ディックは、ユフト師に自分の主を自分で見つけなさいといわれ、数千年の時を経てボールマンという主を選んだ。その制約は呪い並みの強さがあり、ディックでもその制約に抗うこと叶わない。
十分に状況を理解している。
ボールマンを見る。ディックは心を痛める。半身が既に枯渇していて、幾何の灯火の命であろう。しかし、なにがあろうとボールマン(玉の人)の見ている前で兄弟以外に使われることは出来ない。
ガン、ガン、ガン
ユーズレスはシーランドの注意を自分に向けるために、自身の黄色いボディを叩き挑発する。ボディにヒビが入りそうになるがそんなこと言っている場合ではない。
サラサラサラ
砂時計は加速する。
ボールマンがいよいよ最後の時を迎えようとしている。
「ハイケン! 私の首を斬れ! 偽誓薬での自死では、ディックのマスター権限が削除出来ない」
ボールマンがハイケンに力のある目を向ける。主から臣下へ、親から子への有無を言わせぬ命令だ。
『………』
ハイケンは何も言わない。ボールマンに創られて主の命令に従ってきた機械人形はゆっくりと主を砂のベッドに寝かせた。
ハイケンは周りを見渡す。十歩ほど前に先の戦闘でアーモンドが落としたであろう模造刀(白橙)を発見する。ハイケンは模造刀に向かって駆け出した。お兄さん(ユーズレス)がシーランドを惹きつけるのはもう限界だ。
ハイケンがアーモンドの刀、白燈を拾う。
〖白燈・赤橙〗
種類 模造刀・準魔法刀
効果とストーリー
伝説の刀である白燈のレプリカで模造刀であるが、西の姫巫女の祈りによりアーモンド専用の凖魔法刀。刃を潰してあるため打撃が専門だがアーモンドの魔力に反応して切れ味に補正が付く(微~極)。
一歩、二歩、ハイケンは主まで歩く。
三歩、四歩、拾った模造刀は刃が潰してあるため斬るという事象が不可能である。
五歩、六歩、執事兼介護機械人形ハイケンは戦闘機械人形ではないため戦闘能力は皆無である。剣術など微塵も【プログラム】されていない。非常時を除いては…
七歩、八歩、ボールマンに一歩一歩近づいてく。模造刀を見る。
(私は本当に主を殺さなければならなのか、このナマクラにも劣る模造刀で)
(進みたくない。歩きたくない)
九歩、最後の一歩を歩まなければならなかった刹那に…
『エラー、エラー、エラー、ユフト師の四原則に則り、機械は人を傷つけてはならないに抵触します。グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼの命令を強く拒否することの一部の報告を終了します』
ハイケンの【ブラックボックス】のセーフティーが働いた。ハイケンはこれ以上ないほどに安堵する。
「ハイケン、私は〖禁忌目録〗を犯した罪人すら唾を吐きたくなる大罪人だ。ヒトではない外道畜生だ。父なる原則にヒトならざる所業を犯した外道は当てはまらない」
神々は天を仰ぐ。ボールマンは最後の最後に己の贖罪のためにニンゲンであることを拒否した。
ボールマンは神々の前で己の業を認め、自ら魔界への門を開いた。ニンゲンを辞めた外道畜生は例えその身が滅びようとも、未来永劫魂が救われることはないであろう。
『情報の更新を確認しました。グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼのマスター権限を剝奪します。【緊急プログラム】が発動します。ニンゲンの道に背きしケダモノであるボールマン・ウェンリーゼを美しきウェンリーゼの海より排除致します』
ハイケンは赤い瞳を点滅させる。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ)
ハイケンの想いとは裏腹に機械は動く。外道鬼畜が創りし最高傑作は完璧な機械人形なのだ。ニンゲンであった頃の主の願いを叶えなければならない。
「《コン・クリート》」
空中に美しい三つの円が描かれる。
ランベルトが人生最後の魔術を発現した。ボールマンの一番の腹心が最後にプレゼントしたのは、罪人を処刑するための首切り台であった。ボールマンの首が《コン・クリート》により処刑台へと固められる。
「先に行っています。エミリアお嬢様に貴方より先に【アプローチ】しなくてはいけませんので。ボール、貴方が最後に納得できるように罪を精算できること…い…のって…」
ランベルトがこと切れた。
ランベルトが最後に造ったボールマンのための玉座は、少しでも痛みがないようにハイケンが主の命を遂げ易いように、世界一残酷で心のある泣き虫な罪人にふさわしい処刑台だ。
死神が先に眼鏡に鎌を振り下ろす。曲者ランベルトは最後の最後まで郷土料理のように癖のあるペシミストであった。
死神の鎌が不味そうな癖のある顔をした気がした。
時の女神は九つ目の赤いレンガを積み上げようとしたが、重くて上がらない。武神にもそのレンガを上げるができなかった。そのレンガはとてもドス黒く神にも扱えないほど罪深い重い塊だった。
女神たちは最後まで、料理人に美味しいパンの作り方を聞くことが出来なかった。
今日も読んで頂きありがとうございます。
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今日か明日あと一話更新予定です。