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キカイノココロ 参

原案ヴァリラート様

1


獣人連合国を出て20日目のことだ。

予めヒノエ(ヒョウ)に渡された秘密の簡易地図に従って、森へ森へと抜け道を歩く。

「かふぅ、かふぅ、かふぅ」

坊の体温がいつもよりも高い。咳という反射も出ている。呼吸数及び、脈拍も平常時の数値を超えている。

『坊の体温が39℃を超えています。このままでは生命維持に問題が…』

生命維持に問題…シャットダウンのことだろうか。でも生き物は本機と違って一度シャットダウンすると再起動することは…出来ない。

ユーズレスは空を見上げ母なる機械人形マザー・インテグラに助けを求めるが…

『エラー、エラー、エラー、マザー・インテグラに【シグナル】は届きません』

駄目もとで試したが、本機のアンテナが破損しており願いは届かない。

ユーズレスは補助電脳ガードに記録メモリーでる〖ライブラリ〗から検索をする。

『エラー、エラー、エラー、該当する経験記録はありません』

この数千年の記録にも対処法がない。


ユーズレスは後悔する。

坊がこのような症状になったのはこれが初めてではない。これまでは、ラブに任せっきりだったのだ。記録はあるが対処法が分からない。本機はことの本質を【ダウンロード】理解していなかった。

魔道機械人形ユーズレス、その名の通り()()()()だ。



2


ペロペロ


ユーズレスの手を柔らかい物体が触る。

『ビィー、ビィー、ビィー、警告、警告』

ユーズレスは冷や汗をかいた。実際、機械は汗をかかないのだがユーズレスは反射的に振り返りながら後方へ下がり最大限の警戒をする。常に自動探知をかけている本機に気付かれずに近づく等、特定の条件下を除けばこの数百年無かったことだ。【高性能ステルス機】、【忍ばざるもの】、【ネームレス】こういう時は決まって何かが起こる。

ユーズレスがエメラルドの瞳から赤い瞳(戦闘モード)になる。

せめて坊だけは何があろうと守らなければならない。


「ワォン」


ユーズレスが視認した先は、ニコニコと舌を出して笑っている甘えた顔をした一匹の犬の姿があった。

その後ろから更に誰かやって来る。

「何処に行ったんだいホクト。おや、ずいぶんと大きな迷子さんだねぇ」

木から顔を覗かせやって来た老婆が声をかける。

それが、ユーズレスと木人(永遠を生きる人)との出会いだった。




3

「こんな深い森の中で珍しい組み合わせだねえ」

老婆が犬を撫でたあとにユーズレスに接近してくる。ユーズレスは《鑑定》と《演算》を繰り返す。この二つの生命体からは…本機を遥かに凌駕している。

『勝率は限りなくゼロに近いです。即時撤退を強く推奨します』

ユーズレスはコマンド《敏捷》を使おうとしたが坊を抱えての急激な加速では、坊がその圧に耐えられない。

ユーズレスはバックパック(四次元)から流体金属を取り出そうとした刹那…


「ワォン」

犬が鳴く。ユーズレスは動きを止められた。


「そう警戒するな。私は木人族。しがない時の旅人じゃよ。こっちは愛犬のホクトじゃ、ラブ種とのミックスじゃから珍しい犬種だがのう。賢い子じゃから噛みつきはせんよ。そんなことより、その子は熱があるようじゃのう。少しは力になれると思うのじゃが」


「ワォン」


ユーズレスはその言葉にハッとする。

機体も動く。いったい今のはなんだったのだろう。

坊を見る。【バイタル】は先ほどより乱れて早急な対処が必要だ。

ユーズレスは再び《鑑定》と《演算》をかける。老婆木人と愛犬ホクトの反応は、同型生命体の平均と同じ強さの反応になる。【センサー】の故障であろうか。


「かふぅ、かふぅ、かふぅ」

坊の【バイタル】がさらに乱れる。

ユーズレスは補助電脳ガードに相談した。この場での最適解が何なのかと、二人の意見は一致した。

ユーズレスは警戒しながらも力なく腕の中の坊を木人に向ける。


「どれどれ、どうやら風邪を引いたようじゃな。昨日の夜は寒かったからのう」

木人が指を鳴らす。するとどうしたことだろうか、木々が道をあけて風が一枚の葉を連れてくる。

その葉はフワリと木人の手に収まる。

「なかなかいい素材じゃ、《冷続》」

木人は懐から出した十五~二十センチ程度の杖を葉に向けて魔術を発現する。透き通るような美しい混じりのない魔力が葉の温度を下げて物質の粘度を上げる。

不思議な魔術だ。数千年を生きるユーズレスの記録にもない。

「久しぶりのヒエピじゃがこんなもんじゃろ」

木人はその冷たいヒエピなるものを坊の額にくっつける。どうやら害は無いようだ。

「近くに私の隠れ家がある。薬もあるから来るといい」

「ワォン」

愛犬ホクトは久しぶりのお客さんに尻尾を振る。


『……リ…』

ユーズレスは赤い瞳(戦闘モード)ブルーの瞳(通常運転)になり了解の意を示す。


スヤスヤ

腕の中の坊を見る。

この小さな命が助かるのであれば、例え竜の巣でも喜んで付いていこうと機械人形は決意した。

愛犬ホクトと老婆木人が森を歩く。木々や草が道を譲る。魔道機械人形ユーズレスは後に続く。


先ほどの《鑑定》で記録にある〖賢き竜ライドレー〗より強い反応を持つ二つの生命体の後を…補助電脳ガードは願う。

先ほどの《鑑定》がエラーであることを…これから向かう先が竜の巣より安全であることを…


ユフトの四原則に、機械は自分を守らなければならないとの項目がある。

魔道機械人形ユーズレスは気付かない。いつの間にか、父の言いつけより大事なことを見付けたことに…


ココロノカケラを獲得しました。


誰かが機械に気付かれないように【アナウンス】した。




今日も読んで頂きありがとうございます。

作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます(笑)



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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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