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救う権利

1


シーランドは先ほどの《バベル》により重症である。


生命力は既に半分は削られ、魔力も残り一割以下であり、全身の傷に火傷自慢の一角は折れ、鱗も所々砕け、千切られた背鰭・尾鰭や、抉り取った片目はもう回復することはないだろう。神話の時代より、海王神シーランドをここまで追い詰めたものはいなかった。

五十年前であれば、撤退しているであろう。だがそれ以上に楽しかった。自身の傷が増えるたびに、シーランドは震え感動を覚えた。これが戦いかと、なんと命のぶつかり合いとは心躍り甘美なモノなのだろう。美味だ、美味だ、癖になる我はまだまだ腹を空かせている。


「ガラララララララララララララララ」

独眼竜は深紅に染まり狂気を孕んでいる。


古代語で【虎(竜)の尾を踏む】、【逆鱗に触れる】といった非常に危険な言葉がある。

尾鰭が千切られ、鱗を壊された竜の怒りは古代語のそれにすら及ばない…



2


ウェンリーゼの海が震えている。


荒ぶる竜が恐慌状態となりユーズレスに突っ込む。


「気をつけろ。ユーズ、今までのシーランドではない。《防御・小》、《器用・小》」

ボールマンは痛みを堪え、奥歯を嚙みながら指示を出す。本来であれば、コマンドも中以上を出したいが稼働時間を考えると難しい。小技による小手先の苦肉の策だ。


ユーズレスが両の手を交差させて防御の構えをとり重心を落とし軽くステップを踏む。シーランドが体当たりをしてくる。ユーズレスはその衝撃を逸らそうとしたが、怒れる竜の一撃をいなすことは叶わなかった。


吹き飛んだところに、尾による横なぎからの爪牙による切り裂き、嚙みつきからの零距離での《水球》による三連射、ユーズレスは防戦一方で黄色外装甲のダメージも無視できないレベルだ。


「くっそぅ、ユーズ、《防御・がっふ…」

ボールマンの口より血が噴き出し、その反動で足が崩れ砂となる。ボールマンは這いつくばったまま全身がのたまうような痛みに耐える。記録を優先し離れた場所にいたハイケンが主を支えるために走る。いよいよ罪人ボールマンの時間はない。

神々にも、禁忌の薬により時に逆らいし罪人を助ける義理はない。


「ユーズレスのグランドマスター権限を一時的に凍結、半自立モード」


 ボールマンはハイケンに支えらえながら最後であろう指示を出した。もう自分はオトサンとは戦えないと…


『………』

ユーズレスはシーランドの猛攻に耐えながら、悲しそうに空色の瞳を一回点滅させた。


『グランドマスター権限の一時凍結を確認。魔道機械人形ユーズレスは半自立モードとなります。ビィィィィ、ビィィィィ、ユーズレスの外装甲に規定値を超えるダメージを確認しました。今すぐ修復が必要です。また、戦闘継続可能時間は四分を切りました。早急なスリープモード、シャットダウンが必要な状態です』


ザァァァァァ

潮の流れが強くなる。


世の理に中立である大神が、隅っこに隠れ様子を伺っていた海と水の女神を見る。この二神が借金までして手に入れた〖救う権利〗を使う時がやってきた。


救う権利、神々が自身の代償を払い現世に干渉できる大いなる力を…




3


ユーズレスはシーランドの猛攻に耐えるがもう限界だ。半自立モードでは、育成大器晩成型の機械人形はいまだに戦闘における刹那の判断が遅い。

シーランドはもう魔力は残っていないが、純粋な物理攻撃はさすが竜種だけあって圧倒的だ。


海と水の女神が手を揃えてユーズレスに狙いを定める。


ユーズレスがシーランドに吹き飛ばされた。


「いまだ! 」大神以外の世界中の神々が叫んだ。


二人の女神は〖救う権利〗である祝福をユーズレスに与えた。ユーズレスがまばゆい光に包まれる。神々はまた海と水の女神が、予想だにしない何かをやらかすのではないかと心配していたが安堵した。


バシュン


美の女神が耳と塞ぎたくなるような嫌な音がした。

祝福が弾かれた。弾かれた祝福はシーランドに注がれた。


「ガラララララララララ」

シーランドがまばゆい光に包まれ母なる加護を得る。その祝福は枷となったヒョウが封印していた女神の加護を解き放ち、さらに強力となった。


海王神シーランド

〖海と水の女神の加護・極〗海より半径百キロであれば大気中より海と同等の無限の魔力を供給することができる。


「ガラララララ」

シーランドは天を見上げ祈りを捧げた。

母よ、母よ。やはり貴女は我を守ってくださっていたのですね。この数千年ずっと独りで寂しさを感じておりました。ですが、母よ、母よ。貴女はいつも傍にいてくださったのですね。今この黄色いブリキ臭い人形とウェンリーゼのボールマンに勝利し海王神祭典を貴女に捧げましょう。

シーランドは盛大な勘違いを起こし、気力を漲らせる。


神々の【フラグ】は回収された。二人の女神は裏切らない。海と水の女神は開いた口が塞がらない。穴があれば入りたい。世界中の神々が二人に非難の視線を浴びせる。二人の女神は泣きながらウェンリーゼの砂浜に穴を掘り始めた。


大神は驚愕する。大神は瞼を見開きユーズレスを鑑定する。


()()機械人形ユーズレス


〖魔界大帝の加護〗すべての状態異常無効に加え大いなる加護、呪いを弾く。


ユーズレスは過去に魔の神となんらかの契約をしていたようだ。


『海王神シーランドに魔力が戻りました。戦闘における勝率が再び、一割以下になったことの一部の報告を終了致します』


ハイケンが無情にも未来を告げた。

今日も読んで頂きありがとうございます。

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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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