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閑話 キカイノココロ弐

外伝のリテイクです。ユーズの心情を加筆しました。



ボールマンを観察して700日が経過した。


坊は、念願の二足歩行を獲得した。まだまだ歩みは遅いが、ラブがいうには今後は手が付けられないほど敏捷性が増し《演算》でも予測できない【ランダム運動】を繰り返すらしい。坊の摩訶不思議の世界は広がりを見せている。




「あー、坊ったら、またお漏らしした。ヒノエ(ヒョウ)起きて、おしめを替えるの手伝って」

白猫獣人で神殿の巫女であるラブが、拾ってから二歳になる坊のおしっこまみれの布団からヒノエを起こす。

「おはよう、ラブ、坊。これは、また盛大濡らしたな」

ヒノエは恋人のラブの前では、その無口が動くようだ。


最近の坊の仕事は、食事で得た物を排泄という機能を使用して栄養の少ないアルカリ性の液体で布団にお絵描きをすることだ。毎回違う絵を描く。ひょっとしたら坊は天才なのかもしれない。


「……あああああ」

坊は首を振りながら自分ではないと【アピール】しているが、ネタは上がっている。どうやらまだ自分の絵に納得がいかないのであろう。将来が楽しみだ。


「ダメだよ、坊。お漏らししたのは仕方ないけど、嘘ついたら。あんまり嘘つくと、そこのワンワンみたいに狼少年(嘘つき)になっちゃうぞ」

言葉と裏腹にラブの眼は優しい。


「私は嘘をついた覚えはないが…」

「そうね、嘘ついたことはないわね。この子と一緒に暮らそうなんて口説いといて、帰ってくるのは週に二日三日で、この子の面倒もたまにしか見ないでユーズに押し付けっぱなし。知っているかしら、この子ユーズのことパーパって呼んだのよ。私のことマーマって、貴方のことはなんて呼ぶのか楽しみだわ」

言葉の通りにラブの眼は怖い。


「………」

ヒノエは再び無口になった。

『………』

ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させヒノエの肩にポンと優しく手を置いた。


パーパ、どうやらこの言語は父親という意味を持つらしい。

オトウサンと同じ名前…本機は坊を制作した訳ではないがオトウサン…謎は深まる。

でも、嬉しいなぁ…


2

「兄者大変です」

昼過ぎにヒノト(レツ)が神殿に来る。

「どうしたヒノト、そんなに慌てて」

ヒノエが彫刻(獣神の像)をしながらいう。

「象のやつに坊がいるのがバレた。ゼオ(スイ)が森の中に誘い込んで罠で時間を稼いでるが…直に、ここにも象の軍団がやってくる」

「ヒノエ…」

ラブが坊を抱きながらヒノエに不安の目を向ける。

ヒノエがユーズレスを見る。

「潮時かしれんな」

坊が無意識にヒノエのフカフカの尻尾を掴んだことすら、気付かないほどにヒノエの決断は重かった。ユーズレスは坊を抱きながら皆の【バイタル】の乱れを察知した。


3


「お願いね。ユーズ、坊をニンゲンのいる住処へ」

ラブの言葉にユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させた。

「………」

ヒノエは坊にどんな言葉をかけたらいいか分からない。

「わわ、わわ」

ユーズレスに抱かれながら坊は何かを言いたそうにしている。

「坊これを、貴方が持っていたものよ」

ラブは捨てられたときに坊が持っていたペンダントを坊の首にかける。そのペンダントの中心には小さいが澄んだ純度の高い青い魔石がついている。

「守りのまじないをかけておいたわ。きっと貴方を守ってくれる。縁が貴方を導いてくれるわ」

ラブは坊の頭を撫でながら名残惜しそうにその手を離す。

「マーマ、マーマ、マーマ」

坊も何かを察しているようだ。

ラブは泣きそうになりながらヒノエの腕を掴み、ヒノエがラブを抱き寄せる。

「ユーズ許してくれ…坊を頼む」

『………』

ユーズレスはエメラルドの瞳を一回点滅させた。ヒノエとユーズレスは漢の約束を交わした。

「兄者そろそろ」

ヒノトが別れを加速させる。すぐそこまで象は迫っている。

ユーズレスは坊を抱きながら歩を進める。新たな旅立ちはとても名残惜しいようだ。


「わわわわわわ、わわわわわわわわ」

坊は一生懸命何かを言いたそうにしている。


「坊、泣くな。立派な漢になれんぞ」

ヒノエは最後まで厳しいが唇が震えている。ラブは泣きながら微笑んでいる。

「わわあ、わあ、わぁぁん」

坊は構わずに叫ぶ。大切な人の名前を…

「ワーン、ワーン、ワーン、ワーン」

坊は手を振り泣きながら笑う。ずっと言いたかった名前をやっと言えた。

「………」

ヒノエは言葉が出ない。自分では気付かないが、立派なワンワンの瞳が潤んできた。

「ヒノエ、坊にはちゃんと通じてたね貴方の心が」

ラブがヒノエの顔を見る。ヒノエは一生懸命無表情を貫いていたが、尻尾が嬉しそうに揺れたのを神々は「良かったね」と微笑ましく眺めていた。


魔道機械人形ユーズレスは記録する。

坊の成長を、この個体は自身では何も出来ずに摩訶不思議な行動をし、布団に液体で絵画を描き、皆を困らせ…そして皆を笑顔にさせる。

坊が覚えた【ワード】である、マーマ―、パーパ―、ワーンワーンどれも共通語とは少し外れた言語である。だが、坊がワードを覚えるたびに本機は理解する。そして思考する。坊と過ごす何気ない毎日…検索結果ではそれを宝物、奇跡というらしい。


機械人形と小さなニンゲンの旅が始まった



今日も読んで頂きありがとうございます。

作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます(笑)

明日も投稿予定です。頑張れます。



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『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
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