切り札
外伝で★★★★★といいねつきました。
ありがとうございます。作者頑張れます。
1
パリン
流体金属の体積が減ってきた。
この流体金属は連続での使用でその体積を大幅に減少させる。ボールマンとユーズレスも過去の戦闘では日に二~三度のここぞという状況でしか使用はしてこなかった。本日は、千変万化によりその形状を幾度となく変化させた。まさに大盤振る舞いである。
この【バディ】は意思疎通している。海王神シーランド、この厄災を天の星座へと還すことができるのであれば、すべてを使い切るつもりだ。ここまでくれば勝利以外の選択肢はない、撤退もさせない逃しはしない。次世代のためにも【後顧の憂いを断つ】つもりだ。
『戦闘モードでの継続可能時間は残り九分です』
補助電脳ガードが機械的にも焦るような【アナウンス】を発する。
サラサラ
機械と罪人は無情にも時の終焉を迎えようとしている。結果がどうであれ仲直りしたばかりの二人に残された時間はわずかだ。二人はそのわずかな時間にイッショウモチ(一生分)の想いを懸ける。
2
「ガララ」
シーランドの右目が光り残り少ない魔力で渾身のブレスを放つ。竜が本気になった息吹の破壊力は、今までの比ではない。
「ユーズ、《防御・大》、タワー60階(大盾)」
パリン
流体金属がユーズレスの倍はある大きさの大盾を形成する。タワー最上階60階はユーズレスが持つ記録の中で最強の盾だ。
ドッシーン
荒ぶる竜の息吹とこの世で最強の硬度を誇る盾がお互いの【プライド】を懸ける。
バキ、バキ、パリン、パリン
大盾はへこみ、流体金属の特性も相まって盾はその体積を減少していく。弾かれた水流は雨となりウェンリーゼの浜辺を濡らす。だが、ブレスの勢いは収まらない。タワーの硬度が55、53、50、48、46とその硬度が低下していく。
バキ、バキ、パリン、パリン
タワーの硬度が40まで低下した時に…怒れる竜のブレスは収まった。
「いまだ。ユーズ、裏コード《バベル》」
『………』
ユーズレスは空色の瞳を一回点滅させて了解の意を示した後に、瞳を五回点滅させて流体金属に「あ・り・が・と・う」と別れを告げた。
〖裏コード・バベル〗
防御を司るU-4フェンズの能力の一つで盾の自爆機構である。【アップグレード】したフェンズが防御だけは嫌だったという理由から自己進化した能力である。
ユーズレスがタワー40階(中盾)をシーランドに投げつける。
「ハイケン、ラン、リーセルス伏せろ。《バベル》」
破壊の詠唱後に、局所的な四色の光が弾けた。
かつて人種はその英知により天にも届きうる塔を作ろうとした。そして、神々の領域にも足を踏み入れようとして怒りを買った。神々は人種の英知を遮るために共通言語を乱すことにした。人種が互いの言葉を理解できぬように、心を通わせぬようにと…
武神はいった。言葉が同じであったならシーランドと皆は分かりあえたのだろうか…
それは神々も知るところではない。
3
「《バベル》」
タワー40階(中盾)が四つのタワー10階(小盾)に分裂してシーランドを取り囲み、局所的な結界が形成された直後に四色の光が弾けた。
シーランドは爆発の衝撃と紅蓮の炎を【ピンポイント】で食らう。海蛇が焼かれている。本日の一品炙り竜の踊り食いである。神々はきっとこの珍味に舌鼓するであろう。
パリィィン
光と共に流体金属はその姿を消した。数千年の時を共に戦ってきた現在の技術では再現不可能な古代アーティファクトの最後である。
『流体金属の消失を確認しました。裏コード《バベル》の使用により本機の戦闘継続可能時間は残り五分となります』
補助電脳ガードが寂しそうにアナウンスする。どうやら、残り時間ギリギリで本作戦〖海王神シーランド討伐〗はなされたようだ。
神々は人種と機械と獣たちの奇跡【ミッションコンプリート】に拍手喝采の嵐だが…
「ガラララララッララララッラララッラ」
【アンコール】は裏切らない。
シーランドは爆発の瞬間に自身を大型の《水球》で包んで、水温が高温で火傷しながらも地面の砂に向かって魔力を振り絞りブレスを発現した。水分を含んだ砂と水の衣によりユーズレスの切り札である≪バベル≫を防いだのである。
「裏コードを防いだだと…」
ボールマンは顔しかめ、補助電脳ガードが感情を読み取る。
成長している…恐ろしいまでに
竜種である海王神シーランドは、種族特性を生かした力任せの戦い方をしてきた。この竜は戦闘を知らなかった。竜にとっての戦いはただの遊びだったのだから…シーランドはこの数十分で傷を負い、生命の危機を幾度となく経験した。それは王者にとって屈辱的なことであったろう。だが、その経験がシーランド一つ高みへ、かしこき竜へと誘った。
サラサラ
ユーズレスの稼働時間は五分を切り、ボールマンの両足は動かない。今、一歩でも動けば両足は儀誓薬の代償により砂のように朽ちるであろう。だが、ボールマンは表情を崩さない。自分の状態を悟られる訳にはいかない。
シーランドと、父であるユーズレス(オトサン)にも…
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