きかんぼう
1
『《鑑定》を使用します』
補助電脳ガードが衛星であるマザー・インテグラの補助を受けて、シーランドの状態を鑑定する。
〖海王神シーランド〗
・種族 竜種、海と水の女神の眷属
・状態 損傷部位、一角破損、左目欠損、後頭部鱗破壊、口腔内火傷、右前歯破壊、内蔵損傷、表皮に切り傷多数、背びれ一部欠損、尾鰭極度の脱水・腐敗(朽ちている)
・加護 海と水の女神加護(枷により封印状態)、海より無限の魔力粒子を供給することができる。
・攻撃パターン
近距離 噛みつき、爪による切り裂き、尻尾(脊椎)による締め付けと打撃
遠距離 初級魔術≪水球≫、中級殲滅魔術≪散水≫、上級殲滅魔術≪水月≫、高密度に圧縮された水による竜の息吹
・魔法 ≪地震≫、≪津波≫、神々のみ許された厄災級の魔法
※背びれ・一角の破損により、≪散水≫、≪水月≫の発現が困難。口腔内の火傷と内臓の損傷により≪水球≫、竜の息吹の威力低下。
「ガララララララ」
シーランドはユーズレスに笑みを浮かべて挑発する。
お前のオトモダチはうまかったぞと…
『ビィィィィィィィィィィィィィッィイッィィイィイ』
ユーズレスはまるで口が裂けたように吼える(警報を鳴らす)。
ユーズレスの瞳の赤色が濃くなっていき、無意識に練り上げられた魔力が暴走し空間が歪んでいる。
ユーズレスは【ダウンロード】したマザー・インテグラの情報(戦闘記録)と、補助電脳ガードの≪鑑定≫による分析結果を考慮せずにシーランドに突撃した。
ユーズレスは海王神シーランドの挑発にノッた。
「ガララ、ガラ、ガラ」
こい! ポンコツとシーランドの挑発は止まらない。シーランドは初級魔術≪水球≫を三発発現した。その威力は一発で巨木をもへし折るであろう衝撃だ。
ユーズレスは迫りくる≪水球≫を力の限り殴る。殴られた≪水球≫は水しぶきとなりユーズレスの視界を奪う。そこに、右側から本命の尻尾による横なぎがユーズレスを襲う。
シーランドはこの短期間にモブ達とランベルト、ボールマンとの戦闘で戦法というものを学んだようだ。
ドッツシーン
ユーズレスはボディに数百トンに値する衝撃を受ける。ユーズレスのボディにへこみができる。しかし、ユーズレスは倒れない、跪かない。
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィッィィィ』
ユーズレスがシーランドの尻尾を掴み、枯れていた尾鰭を引きちぎった。
「ガラララララ」
シーランドが痛みを叫ぶ。気高き竜の血がユーズレスとウェンリーゼの砂浜を染める。
枯れてしまった尾鰭では、美味なる鰭酒は作れそうにないと酒好きの神は心配する。
『………』
ユーズレスは紅蓮の瞳を何度も点滅させ、シーランドにまだまだ終わらないと告げる。
ユーズレスは尻尾を離し、力のままにシーランドの脊椎の腹側を殴る。シーランドの全身を守護している鱗を破壊することは叶わないが、その威力たるやヒョウの大剣〖夜朔〗並みの一撃だ。
一撃、二撃、三撃とユーズレスが優勢に見えたが、突然にユーズレスの身体が宙を舞う。シーランドの嚙みつきによってユーズレスは持ち上げられた。
機械人形であるユーズレスからはブリキの臭いがして美味しくないと、シーランドは数百キロあるユーズレスをそのまま宙に放り投げ、ブレスを発現する。
ユーズレスは、現在攻撃に思考が偏り過ぎて防御の選択肢がない。
古代語で「攻撃は最大の防御」といった格言がある。ユーズレスは無意識に両の手に魔力を集中させ腕をクロスしてから十字の手刀を放った。
数百トンを超える圧縮されたブレスが引き裂かれシーランドまでの道を作る。ユーズレスは〖自動姿勢制御〗で落下の勢いと怒り(オーバーヒート)のままに、シーランドの顔を力の限り殴る。
攻撃は最大の攻撃なる怒れる機械の一撃は…
ゴォォォォォォォォォン
ウェンリーゼの海に神々すら耳を塞ぎたくなる戦いの銅鑼が鳴る。
「ガララララララララァァァァァァ」
陸へと進撃を進めた海の王者シーランドは、その全長百メートルの巨体が吹き飛び海へと戻された。
攻撃の衝撃で砂浜にはユーズレスが所持していた〖賢き竜の魔石〗も転がった。
初手はユーズレスの圧勝であった。
カタカタカタカタ
賢き竜の魔石が海の竜を笑った気がした。
2
海に愛されし、海王神シーランドの猛攻は陸地とは段違いであった。
ヒョウの枷により加護を封印されていようが、自身の魔力収束により海の魔力を吸収し一切の出し惜しみをせずに、≪水球≫による牽制からブレスの連続攻撃、ユーズレスの攻撃時は海へと潜り自分の得意な環境での打撃や、爪による切り裂きはユーズレスの装甲を破壊こそしないが、軽~中度の損傷を与えている。
ユーズレスの海での適正は低くはないし、実戦経験もある。しかし、相手が悪すぎた…海王神シーランド、その名の通り海で一番の王者なのであるから…
何度目かのブレスを受けて、頭に血が上った魔道機械人形ユーズレスは、全身をへこませながらボールマンの元に返却された。
「ユーズ」
『テンス(十番目の子)』
『お兄さん』
ボールマンと補助電脳ガード、ハイケンが返却されたユーズレスの状態を確認する。
『テンスの全身のダメージを確認しました。現在の猪突猛進の戦闘では海王神シーランドの勝率は一割以下です。自立戦闘を解除して、ボールマン・ウェンリーゼによる操作型の戦闘を推奨します』
補助電脳ガードが分析をして
『お兄さんの補助電脳の意見の推奨に深く同意することの報告を終了致します』
第三者としてハイケンも同意するが
『ビィィィィィィィィ』
暴走状態の魔道機械人形ユーズレスには彼らの声は届かない。
ユーズレスはバックパック(四次元)より流体金属を取り出した。
『…ム…キ…コ…ウ…(矛盾機構)』
〖矛盾機構〗
ユーズレスが経験した武器(工具)を、流体金属を通して模倣することができる。ただし、強度と性能はオリジナルに劣る。
ユーズレスは流体金属を両の手に纏わりつかせて砲身の形を作る。
『七…六…タイ…ン(七六式タイタン)』
キュィィィィィィン
両の手に魔力の渦が収束し周囲の空間が歪む。
『矛盾機構により、過去記録からチェイサーの七六式タイタンが使用可能です。使用後は、周囲の地形が変化する恐れがあり半径五キロメートルの生命体は活動を停止することを予測します。また、マザー・インテグラとアナライズの補助がない状態での七六式タイタン発動後、本機は強制シャットダウンとなります。再起動には千と八百二十六日、約五年間休眠状態となります』
補助電脳ガードが警告を発する。
キュィィィィィン
魔力の収束は止まらない。
流体金属が滅びのメロディーを奏でる。
亜神ユフトは、息子の暴走を悲し気に見守ることしか出来なかった…
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今日はあと二話投稿予定です。




