表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/420

退場する銀狼と怒れる機械


「オトサン…」

ボールマンが振り返った先には、魔道機械人形ユーズレスがいた。


「ユーズ、どうしてお前が。ラザアはどうした」

 魔力を練りきったアーモンドは、ユーズレスの気配を感じ取ったのか歩みを止める。

『《敏捷》』

補助電脳ガードがユーズレスの意に同意して《敏捷》を発現する。

ユーズレスは一瞬でアーモンドの目の前に移動した

「なっ、ユーズ何を、ばぶぅぅぅぅうっぅぅうぅっぅいぃ」

アーモンドの顔面に入学時と懐かしい衝撃が走る。アーモンドは砂の上を転がっていく。技を合わせれば、本日四回目の〖肉車輪〗だ。アーモンドは新記録を樹立した。


『………』

ユーズレスは転がっていったアーモンドに向かって、赤い瞳を何度も点滅した。


「ハッハハハハハ、婿殿。どうやらユーズは昔、ポンコツ呼ばわりされたのを相当根に持っているようだ。それと、ちゃんとラザアとの約束を守れとな」

ボールマンはユーズレスの言葉がなくともメッセージを理解できるようだ。

四年前の学園でのアーモンドとユーズレスの決闘は時を経て…奇襲戦法により機械人形の圧勝である。


「………」

瀕死のアーモンドは気絶した。

【ムード】に酔ってカッコつけて張り切っていた銀狼は、一時の安らかな眠りについた。


『アーモンド・ウェンリーゼの意識の消失を確認しました。戦闘終了までのご退場を強く推奨致します』

補助電脳ガードが、アーモンドの生存を確認した。




2


 ユーズレスがボールマンまで歩く。

ボールマン、全身の傷口から多数の出血、打撲、骨折、右腕の欠損を確認しました。生命活動が困難なレベルです』


「ガードか、こうして話すのは久方ぶりだな。身体の状態は…見ての通り、まあまあだ」


ユーズレスは一歩進むごとにボロボロのボールマンが近くなり、傷の状態を鮮明に記録する。ユーズレスはボールマンの前に立ち、再度その姿を確認する。


『………』


ユーズ(オトサン)


 二人は見つめ合う。そこに、言葉はないがその瞳はお互いの気持ちを伝えあう。


ユーズレスは思考する。

これはどういうことだ。

ユーズレスの電脳が熱を帯び【オーバーヒート】しそうになる。


数時間前まで杖をついて歩くのもやっとだったうちのボールマンが、今にも死にそうに枯れそうになっている。おまけに、右腕と長きに渡り坊を支えてくれていた兄さん(ディック)もいない。


ユーズレスは鑑定をかける。


鑑定による診断では、恐らくあと一時間もしないうちにその生命活動を強制的に停止していまうであろう。


坊の命が消えてしまう…


ユーズレスは坊の瞳のさらに奥を覗く。

坊は何故か満足そうだ。

それは、何故であろうか。


アーモンドが特攻せずその命が助かったこと

領主代行として、シーランドと戦えたこと

ユーズレスと仲直りができたこと


坊はこれ以上生きるのを拒否している。


いや、違うその命尽きるまで一分一秒でも生きようとしている。

その最後の瞬間まで、ユーズレスと共にいることを望んでいる。


ユーズレスは悔やんだ。

この数十年、坊とのすれ違いを…

子供の反抗期程度と考えていたが、坊は違った。坊はずっと前から後悔し、反省していたのだ。自分がかつて行った過ちを、二度と繰り返さないようにと…

それを近くで見ていたのに、ユーズレスは手を差しのべようとしなかった。

いつの間にか、坊は大人になり、妻を持ち、子が産まれ、ウェンリーゼの大黒柱となった。そして、今その責務を…過去の精算をしようとこのような姿になった。


この冷たい機械の身体に触れ、温かさを教えてくれた柔らかかった右腕がなくなった。

怖くて眠れない日は、ユーズレスを抱きしめてくれた右腕が失くなった。

ユーズレスに身体的な【ダメージ】ではない忘れられないメモリーの痛みを教えてくれた右腕が失くなった。


そして、今やその命を奪わんとする輩がいる。


『…ダ…レ…ダ』


ユーズ(オトサン)! あぶない」

ユーズレスの後方より直径一メートルの《水球》が発現する。

シーランドの挨拶だ。

『《魔法抵抗》』

ガードによる自動防御が発動したがユーズレスはそれを拒否した。

シーランドの挨拶《水球》がユーズレスの後頭部を直撃する。

恐らく岩をも砕くシーランドの《水球》をユーズレスは受け入れた。

後頭部のボディに損傷はないが、衝撃と水を被る。《水球》による大量の水は、ユーズレスの怒りにより蒸発した。

どうやら、頭を冷やすことは叶わなかったようだ。

海王神ですら、今のユーズレスの怒りを鎮めること叶わない。


ユーズレスは月を見上げ、赤い瞳を何度も点滅させ、マザー・インテグラと交信を図る。


かつて大陸に破壊神と云われ、恐れられた機械人形がいた。

その機械人形は、自分の大切な(アリス)を失い、この世界の全てを破壊つくそうとした。

その機械人形は、非常に悲しい結末を辿った。


魔道機械人形ユーズレス

神々は、ユーズレスの姿がかつての破壊神(チェイサー)に重なった


『グランドマスターであるボールマン・ウェンリーゼの生存及び登録を確認しました。海王神シーランドとの戦闘を開始致します』

補助電脳ガードだけは、いつものように機械的にアナウンスした。


挿絵(By みてみん)

魔道機械人形ユーズレス ヴァリラート様作

今日も読んで頂きありがとうございます。

作者の励みになりますので、いいね、ブックマーク、評価★★★★★頂けたら作者頑張れます(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『機械人形(ゴーレム)は夢をみる~モブ達の救済(海王神祭典 外伝)』 https://ncode.syosetu.com/n1447id/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ