プロローグ 1
シーランド戦後の王宮にて
ネタバレも多少あるので飛ばして頂いても大丈夫です
1 プロローグ
グルドニア王国王宮玉座の間
「こたびの、海王神シーランドの一件ご苦労であった」
現国王であるピーナッツは、アーモンドとリーセルスにハイケン(機械人形)と身重のラザア達に海王神祭典と人工魔石製作炉二号機爆破の後処理の労を労う。
「勿体なきお言葉です国王陛下。椅子での謁見の無礼どうぞご容赦下さい」
ラザアはウェンリーゼ家当主として国王に臣下の礼をとる。
「そのままで良い。無理をするではない。娘のいなかったワシにとって其方は本当の娘も同然だ。身体は何より大事にせねばならん。数々のことで心労も溜まった中での、王宮謁見ご苦労であった。数日後に、マナバーンに対する王都での魔導具暴走による被害の査問会(懲罰決議)があるが、安心せいワシは其方たちの味方である」
「お心遣い痛み入ります。お腹の中の坊やも、御祖父様のお優しいお声が聞けて喜んでおります」
ラザアは大きくなったそのお腹を優しく撫でる。
「あまり疲れさせるのも良くない。王座の前では緊張もするであろう。今日はご苦労であった。ゆるりと休むがよい」
「それでは、私達は失礼致します」
一同が立ち上がり玉座の間から退室しようとした時に…
「息子よ、話がある。おぬしは残れ」
国王がアーモンドを引き留める。
「話でございますか」
アーモンドが玉座の間で初めて口を開く。
リーセルスとラザアが心配そうな視線をアーモンドに向けるが
「久しぶりの親子の語らいじゃ、おぬしのその様変わりした体型と片腕のことも気になる。なあ、銀狼…いや、今や白き狼(聖なる騎士)であったな」
「お前たち先に行って休んでいてくれ、私も久しぶりの父上(教官)との語らいを楽しみにしていた。あとは頼むぞ、ハイケン」
「畏まりました。マスターの命令を受諾したことを報告致します」
アーモンドは二人に「心配するな」と視線を向けて、ハイケンにラザアのエスコートを頼んだ。
「あらためてご苦労だったな、【ボンレスハム】」
ピーナッツの口調が軽くなる。
「国王陛下こそ、お元気そうで何よりでございます」
「そういう堅苦しいのはもういい、ここには俺と宰相のバーゲン(リーセルスの父)だけだ。俺も他の奴らの前では威張った口調でいるが、肩が凝ってかなわねぇ」
「父上(教官殿)の威張った口調は、初めてお会いした時からでしたが」
アーモンドは肩の力を抜く、王座についてからもあまり変わらない父の姿勢に安堵する。
「それにしても様変わりしたな、もうボンレスハムとも呼べんな。俺の真似して片腕まで失くしちまって」
国王は細身で隻腕となったアーモンドを見る。その姿は、若き頃の国王に瓜二つだと傍に控えていた宰相は、先ほどから驚いて声も出ないでいる。
「激戦でしたから、今でも生きているのが不思議なくらいです」
アーモンドが失った左腕の傷口(肩)を撫でる。
「重軽傷者が二桁で死者が十二名とは、厄災級の神獣相手には上出来といえましょう」
宰相が報告書を片手にやっと口を挟む。
「上出来…でございますか」
アーモンドの目が深紅に染まり、毛が逆立つ。無意識に聖なる魔力があふれ出ている。
「ぐうぅぅ」
同席していた宰相の息が詰まり、床に膝を突く。
「よせ、失言だった。バーゲンに代わり俺が詫びよう。国王である俺が息子に詫びよう」
ピーナッツの隻眼も釣られるように深紅に染まる。眼帯をしている反対の瞳も見開く。
親子は赤き目を宿したまま見つめ合う。
「ふぅー」
アーモンドは宰相に視線を移し、溜息を吐く。
次第にお互いの瞳の色が収まっていく。
「ああ…失礼いたしました。未熟者ゆえ気持ち(怪物)が溢れてしまいました。ご容赦を」
アーモンドは虚ろな瞳で臣下の礼をとる。
「いい、戦場ではその場にいた者しかその想いは分からん。死亡者の名簿は見せてもらった。ウェンリーゼ卿や師匠、そうそうたる戦士たちだ…本当に惜しい方達を失くした」
国王は宰相の名簿に再び目を通す。
「陛下からのお言葉、グルドニア王国のために散っていった者たちも救われるでしょう」
「ふん、心にもないことを言いやがって。それはそうと息子よ。白狼(竜殺し)であるお前がいれば、グルドニア王国は安泰だな」
「私一人の力ではございません。私はただ、死に損ないの海蛇の首を跳ねただけに過ぎない…臆病者です」
アーモンドの目は虚ろなままだ。何を思い出しているのだろうか…
「息子よ、王宮に戻ってこい。ウェンリーゼは今や、旨味は薄い。巫女とともに俺の下に来い。今やお前はアートレイ(建国王)に次ぐグルドニア王国の象徴だ。王太子の席は空けてある。悪い話ではあるまい」
国王の目が父から王の目に変わる。
「ご冗談を、私を大陸中の笑いものになさるおつもりですか。【客寄せパンダ】はご免です」
アーモンドは、自然と苦手だった古代語を口にした。アーモンドは自分に足りないところを、人が変わったように一生懸命お勉強したようだ。
「息子よ。国王である俺に逆らうつもりか」
「私の女神に雫を落とさせるならば」
アーモンドは国王のその怒気を含んだ物言いにもまるで動じないどころか、牙を剝く。その唸りは、殺気はないがすべてを地に伏せる威厳を持つ。
玉座の間は二人の放つ、厳かな静けさの後に
「ハハハハハッ、全くもって見違えたな。もう下がっていいぞ」
「しかし陛下」
宰相が再び口を挟もうとしたが
「いい、いい、そもそもコイツの頑固なところは母親譲りだ。ただ、いってみただけだ。それに、こんな土産まで貰ったらな」
国王と宰相は、《凍結》の魔術が付与してある蓋が丸みを帯びた箱を見る。
「グルドニア王国に永遠の栄光を」
アーモンドは礼をとり「もういいや」と飽きたように、場を去ろうとする。扉の前に手を触れようとしたと瞬間にふと国王に振り返り、息子として問う。
「父上、今回のダイスの目(賭け)はいかがでしたか」
「いったいなんのことだ」
「いえ、欲しいもの(土産)を手に入れた気分は、どのようなものかと思いまして」
「今更だ。もういい、下がれ」
アーモンドの代わりに何処からともなく控えていた影が扉を開ける。
「待て、そういえばあの、ポンコ…じゃなかった機械はどうした」
「機械? ユーズのことですか」
「ああ、そうだ。ユーズだ、ユーズ。海竜相手にずいぶんと活躍したようだな」
国王は好奇な目で話をせがむ。その目は少年のように輝いている。
アーモンドは一呼吸置いた後に
「…動かなくなりました」
「そうか」
「父上、元帥閣下に…義父に始めて名前を呼んで頂きました」
「そうか」
誰にも気付かれないが、国王の口がなぜか渇く。
「父上…陛下、私はウェンリーゼの義父(故人)の下で王国のために尽くしたいと思います。これからも、ずっと…」
「…そうか」
バタン
玉座の間には裸の王様の声と、扉の重い音が響いた。
今日も読んで頂きありがとうございます。
第二部プロローグ後に、ユーズ対シーランドやりますのでお楽しみに
これからも頑張りますのでよろしかったらブックマーク、いいね、評価★★★★★して頂ければ作者頑張れます(笑)




