閑話休題 賢王のタコ(指パッチン)
1
「フラワー、魔力は私に任せろ! その想い(愛)をこの鈍感野郎に伝えてやれ! 」
「デニッシュ……殿下、何を」
フラワーの顔が朱に染まる。
「今さら隠すな、ずっとバレバレだ。そこの剣術タコ野郎は分からんがな」
デニッシュは、かつて一番に欲しかった女神を……自分の気持ちに蓋をして、鈍感剣術タコ野郎に譲った。なぜなら、今一番にデニッシュが欲しいものは……
「キーリ、いつもお前だけにカッコつけさせはせんぞ」
デニッシュは、今一番欲しい者(命)に突き刺さった巡剣を握る。もう片方の手には絶剣が握られた。
かつて、建国王アートレイが振るった〖双子の騎士〗の二振り、巡剣深月と絶剣満天が四百年の時を経て、いまここに尊き(アートレイ)血筋に握られた。
カタカタカタカタ(きゃははは)
二振りの剣が嗤う。デニッシュはいまだに剣に主人としては認められていない。
キィィィィィン
二振りの剣が共鳴している。二つの剣は、再び絶好の獲物を見つけ喜びに狂っている。
「ぐぁぁぉぁぁぁぁぁ」
デニッシュは頭が割れるような痛みを感じる。
デニッシュは、先ほどの巡剣一振の比ではない勢いで二振りの剣に魔力を吸われる。
ガタガタガタガタ
闘技場全体も揺れる。デニッシュを中心に魔力の渦が発現され周りからも魔力を奪おうとするが……
「が……がんばれ」
「そうだ! がんばれ」
「殿下、気合いですぞぉぉぉ」
「殿下ぁぁあ、どうか私のキーリ様をお救い下さいぃぃぃ」
「あんたのじゃなくて、みんなのキーリ様でしょう! 殿下ぁぁあ、頑張ってください」
「そうだ! そうだ! グルドニアの稲妻を死なせるな」
「キーリも頑張れ! 死神に負けるな」
「「「殿下! 殿下! 殿下! 」」」
「「「キーリ! キーリ! キーリ! 」」」
王族の腕を切るという、息子の失態にただ立ち尽くしていたホワイトが涙する。
本当は誰よりも息子の痛みを叫びたかったはずだ。
「キーリ聞いているか、この皆の声を! 返ってこいキーリ! 神よ! どうか、私の自慢の息子を! 皆の願いを叶えたまえ」
ホワイトは、膝をつき神に祈る。同じく父である大神がホワイトの声を聞いた。
「デニッシュ、負けないでキーリのために! いえ、あなた自身のために! あなたが目指した憧れに! あなたが信じて、毎日振った自分の剣のために! 」
フラワーがボロボロになりながら、魔力の渦にあるデニッシュに触れる。その力強い瞳が青色に染まり、眠っていた巫女の力が解放される。
デニッシュの深紅の瞳が、女神の青い瞳に酔いしれる。女神の視線は、この銀髪の深紅の眼をした一匹狼に力を与える。
「がああぁぁぁぁぁあ」
二つの月が見え始めた刻に、銀狼が吠える。
月の女神が、幼くも逞しくなった一匹狼を照らす。
「神よ! 死の神よ! 私は奪おう。そなたの鎌も運命神のダイスも! 私は神の子、アートレイに連なるものなり、剣よ! 寄越せ、その力を私の欲するものを、キーリを奪うなぁぁぁあ《強奪》」
デニッシュが二振りの剣から魔力を奪う。
キィィィィィン
二つの剣が共鳴し、その音色が辺りに鳴り響くが徐々に静まり返る。
魔力の渦が落ち着き、奪った魔力が一度デニッシュに集まり、そこから巡剣が黄金色に輝き出す。闘技場に溢れんばかりの光の柱が発現する。
「フラワー! いまだぁ! 」
「私は願い、望む、最愛の命を、人の、皆の奇跡を、キーリ絶対に帰って来て、《延命》」
パチン
何処からか小気味のいい指を鳴らす音が聞こえた。
光の柱がキーリを中心に集束していく。
その光が導いた先には……
「殿下、フラワー、死の神に危うく【チョンパ】されるところでした」
相変わらずの軽口の鈍感タコ野郎が涼しげな顔で涙を流していた。
「「キーリ! 」」
キーリは全身で二人の愛を感じた。
「殿下、腕は治ったのですか。良かった、痛みはありませんか」
「馬鹿者が自分の心配をしろ」
「キーリ! キーリ! キーリ! 」
フラワーはもはや言語がキーリしか言えないが想いは十分に伝わっている。
「フラワー、ありがとう。ずっと君の声が聴こえた気がした」
キーリがフラワーの髪を撫で、涙を拭う。
「フッ……」
デニッシュは、それを見て本当に良かったと思った。それは、負け惜しみなどでは無く純粋な気持ちであった。
「殿下、ありがとうございます」
「何がだ! そなたを斬った私に文句はあろうと、礼を言われる筋合いはないぞ」
「あの時の刹那、殿下が剣を止めようとしたのが分かりました。でなければ私は今頃、身体の上下が【チョンパ】されていました。殿下は、その剣から私を助けてくれたのです。殿下の剣は災いを切り裂いたのです」
キーリのその真っ直ぐな愛に
デニッシュは泣いた。誰よりも大声で泣いた。
デニッシュ・グルドニア
後の世で、誰よりも自分に厳しかったとされる賢王(剣王)が、他人の為に、自分の為に流した透き通った純粋な涙であった。
死神が大神を睨む。大神は、ヘタクソな口笛を吹きながら……手が滑ったとイタズラ好きな子供のような笑顔を見せた。
ここに神々公認の奇跡がなった。
巡剣と絶剣がカタカタ(良かったね)と揺れた。それはまるで、三人の若人達を祝福しているようだった。
今日も読んで頂きありがとうございます。
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