閑話休題 賢王のタコ(掌のタコ)
始めて評価★★★★★頂きました。
本当に涙が出るほど嬉しかったです。
ありがとうございます。
1
幼き日のキーリの日常
「父上、四極(十二月)は古文書にも載ってないけど、どういう型なの? 」
幼いキーリは父であるホワイトにねだるように聞く。
「ああ、これは上ノ月(一~六月)を極めし先の下ノ月(七~十一月)の更に向こう側の型でなぁ。実を言うと、私も先代、先先代も覚えられなかったのだ。古文書によれば、すべての四季を極めしその剣は、魔を払いし十六夜を駆けるとな」
「要するに分からないってこと? 」
キーリライトニングは名前の通り、幼き頃より稲妻のように心を突き刺すような言葉を発現する。
「ハッハッハ! まあ、そうとも言うなぁ。キーリが大人になったら父に四季の終わりの十六夜の月を見せておくれ」
ホワイトは言葉とは裏腹に、心に痺れるような【ダメージ】を受ける。
「うん、分かった! 僕が父上に、おっきい始まりのお月様見せてあげるね」
キーリは満天の笑顔を見せる。
「ハッハッハ、それは楽しみだな。よし、今日も走り込み二時間、川泳ぎ二時間、弓矢避け千本、滝行一時間して身を清めてから、素振り二万回、終わったら魔獣退治だ」
「お猿さんの首【チョンパ】だね」
「そうだ! 上手に出来たら、おやつにクッキーを作らせよう」
「わーい! 僕、クッキー大好き。いっぱいお猿さん【チョンパ】するね」
無邪気に喜ぶ何処かズレているキーリ少年と、全く悪気のないホワイトを見る母の目はとても悲しそうであった。
幼少期のキーリにとっては、訓練が親子のふれあいであり、父に褒めれることが子供ながらになにより嬉しかった。
2
「「はあぁぁぁああ! 水の月」」
金と銀の稲妻(キーリ―とデニッシュ)の渾身の一撃が重なった瞬間に……
バキィィィ
二本の木剣は主人の技に耐えられずに砕け散った。
審判である近衛副団長は困惑する。栄えある初代剣帝を決める決勝戦で、両者引き分け再試合というのも興が冷める。ましてや、今回は王族の【エキシビション】であったはずだがと、オリア家のキーリライトニングを見ながら思う。
「うっ……両者、一旦」
カタカタカタカタカタカタ
双子の騎士の二振り、巡剣〖深月〗と絶剣〖満天〗が鳴った瞬間に……
ガタガタガタガタ
グルドニア王国を大地の怒り(地震)が襲った。
「なんだ、揺れてるぞ」
「これは大きい」
「なんだ、土の女神の怒りか」
「みんな、落ち着け身体を低くしてその場を動くな」
観客たちが騒ぐ中で……
カタカタカタカタ……カタ
「治まったか」
地震の揺れの最中に巡剣と絶剣は祭壇からまるで意思を持つ生き物のように、キーリとデニッシュの手に収まった。
「「なっ! 」」
キィィィィィン
絶剣満天はキーリを、巡剣深月はデニッシュを選び、二本の剣は数百年振りの喜びを表わすかのように共鳴した。
二人はその喜びに導かれるままに、再び剣戟を繰り出す。
ガァン、ガァン、ガァン
二人に緊張が走る。これは真剣であり、斬り付けられれば間違いなく怪我だけでは済まない。斬り付けた方も、斬られた方も……だが、剣戟は止まらない。二人はまるで、剣の喜びに狂うように魔力を吸われて意識も朦朧となる。
絶剣が垂直に剣を振るう。巡剣が真横に避け水平に剣を振るが、絶剣はスレスレで身体を捻りながら避け、そのまま体重を乗せ回転し片手で剣を返す。巡剣が態勢を屈め、紙一重で避けながら後方に転がりながら距離を取る。
絶剣が「そろそろ準備運動はいいかい? 」と、転がった巡剣まで距離を詰める。巡剣は、大腿部に意識を集中しおよそ常人の域を脱した脚力で駆けるように絶剣に間合いに入り、両者は剣を振る。木剣と同じように剣同士がぶつかり合うが、先ほどと違い剣は砕けずにキーリ―とデニッシュの最大値を引き出す。もはや、本人達の意思は関係なく……
きゃはは、きゃはは
神々はその剣から聞こえる、ずっと我慢していた鬱憤を晴らすような、嬉しそうで楽しそうな、不気味で子供のような笑い声を、両の耳を塞ぎながら聞いていた。
3
闘技場 王族観覧席 ロイヤル
「父上! いや、陛下! 決闘を今すぐに止めるべきです!これは既に学生の試合の域を越えています。これでは、どちらかが死ぬまで剣に遊ばれるだけです。これは【エキシビション】であって【コロシアム】ではないのです」
第一王子であり、成人の儀を昨年終えたサンドが父である国王陛下に進言する。
「………………」
国王は二人から、デニッシュの深紅の瞳から目が離せない。
「くっ……近衛騎士団長!今すぐに二人を止めろ!あれはどうみても剣に取り憑かれている!学生や、淑女達の前でまさかの事態が起きてからでは遅い」
「如何致しますか、陛下」
近衛騎士団はあくまでも国王陛下の剣であって、王子の剣ではない。
「陛下……」
第一王妃が夢中になっている国王の手を握り、自身の不安と息子を助けて欲しいと懇願する。
「あぁ……そうだな……いや、いかん!いかんぞ!決して死合を止めてはならん! これは王命である」
「はっ! 全てはアートレイのために」
その場にいた護衛の一団が礼を取る。王命、それはこのグルドニア王国で何よりも絶対的で尊き法である。
「なっ……父上、何を」
サンドと王妃は絶句する。
「このままだ、このままだ、もっと! もっと! 染まるのだ……あぁ、父上、お祖父様、坊は坊はやっと見つけました……あなた達と同じ〖紅き秘宝〗を見つけましたぞぉ! 四百年は……なごうございました……」
国王陛下は涙を流しながらデニッシュを見つめている。皆、興奮しているのか、まるで話が噛み合わない国王を前にしながらも王命の前に従わざるを得ない。
「王子、申し訳ありませんがこの二人の闘いは止められません」
騎士団長がサンドに耳打ちする。
「王命のせいか」
「はい、実力も含めて命を投げ出せば。せめて第三騎士団の甲羅がいればまた違ったかもしれませんが……あの二人はもはや、我々隊長級と同格かそれに勝るでしょう」
「なに……」
サンドは歯軋りをしながらも、掌の汗を感じる。サンドは視線を死合に向ける。
ゾワァ
サンドの全身が逆立ち、鳥肌が立ちその瞳は稲妻の剣戟が舞い散り、火花が点となり線となる星座のような剣閃のお絵描きに魅入られる。
やはり、国王と同じくサンドにも建国王の血が、宴を求めそうさせるようだ。
4
双子の騎士の二振り、絶剣と巡剣が喜び躍る。
デニッシュの巡剣が月を描くように剣を振るう。絶剣は鏡合わせのように同じ軌跡をなぞるように刃を合わせる。
ガァン、ガァン、ガァン
二つの剣は遊ぶように刃を合わせて音色を奏でるが、闘技場には頭がイカれるような音が響く。
「はぁぁぁぁあ」
「あぁぁぁぁぁ」
デニッシュとキーリが剣の代わりに吠え、更に速度を上げようと身体を酷使するが、互いの身体から少しずつ血飛沫が闘技場を染める。それは切り傷ではなく、身体が限界を超えて悲鳴を上げているのだ。
だが、二人の身体とは裏腹に岩さえ砕けてもおかしくない刃と刃のぶつかり合いに、剣は刃こぼれ一つしていない。
火花に紛れて血飛沫が舞う中で、先に限界が来たのはキーリの方だった。
「ハァハァハァ」
キーリは魔力が先に尽きたようで、絶剣からようやく解放された。いつの間にか《知覚》も解除されている。キーリは生まれて始めて全力で剣を振ったが、心は穏やかではない。何故なら先ほどの剣戟は、ただ丈夫な棒を振り回していただけだからである。
キーリは膝をつき、絶剣を睨む。
その目はかつてないほどに、どこまでも冷えきっているような熱のある視線だ。
一方のデニッシュは、言葉すら発せずにいまだに巡剣に囚われたままだ。デニッシュは王族だけあって、その魔力保有量はキーリより上であり、かつての二振りの主である。アートレイの血筋であって魔力も美味であろう。
デニッシュは、深紅の瞳を更に紅く染めながら魔力を奪われ続けている。
「ごぷぅ……」
「殿下! 」
口からは血が吹き出し、このままでは命すら吸われかねないとキーリは直感的にデニッシュの状態を分析する。
キーリはゆっくりと殿下の剣を見る。
(これは、違う)
(こんなのは違う)
(さっきのは、私じゃない。そして……)
(これも殿下ではない)
キーリは掌の血だらけで潰れたタコを見ながら、深呼吸をし幼い頃の記憶を辿る。
キーリライトニング・オリア
この天災級の天才は今まで本気を出したことが、出せたことがなかった。
近年では戦いはただの作業であり、農夫の草刈りと何ら変わらない仕事であった。
学園に通い、感覚系魔術の《知覚》を覚えてからは【安全マージン】を取るために魔術に頼り己自身の感覚を研ぎ澄ましたこともない。
本当はキーリは草刈りではなく、おもいっきり剣を振りたかった。
今、手に握られているのは……
幸いなことに、四百年経とうが刃こぼれ一つない相当に丈夫な一振がある。
スッ
気付かない内に、死神の鎌が付け根から切られていた。
神々は驚く。
どうやら、天災(天才)の一振は死をも切り裂くようだ。
カタカタカタカタ
絶剣満天が神々を笑った気がしたが、剣がキーリの内なる闘志を感じ取り黙る。
キーリライトニング・オリア
神器すら黙らせる、天才の忖度なしの【カウント】が始まる。
今日も読んで頂きありがとうございます。
これからも頑張りますのでよろしかったらブックマーク、いいね、評価★★★★★して頂ければ作者頑張れます(笑)




