閑話 西の姫君の涙(エピローグ)
閑話 獣たちのステップの続きです。リフレッシュ兼ねてますのでお付き合い頂ければ、後でまた乱文修正します。
テイク2
深紅の刃が鎌を撫でる。
二刀の鎌が宙を踊る。この猿王の鎌捌きは尋常ではない速さだ。その【スピード】は死神顔負けだ。
通常、鎌での二刀流等とは素人のお遊びでしかない。しかし、この猿の鎌はアーモンドの洗礼された剣術を捌き、反撃しさらにはその器用な脚を手のように使い、アーモンドの死角から蹴りを放つ。
「チィィィッ」
アーモンドは守勢に回ざるを得ない。圧倒的に手数が足りていない。
アーモンドは、グルドニア王国では控えめにいっても強者の部類に入るであろう。だが、この青年は実績経験は今日が初陣である。さらには、猿と猫(虎)ときてまた猿と既に三連戦だ。戦場で泣き言等、愚の骨頂ではあるが、この青年は疲弊し過ぎた。
心も身体も…この青年を突き動かしているのはなんなんのであろうか?時の女神はこの坊やに問う。しかし、坊や(アーモンド)にはそのような余裕はない。
猿王の一刀(鎌)が軽く振るわれる。アーモンドは、迎撃するがその隙にもう一刀が鋭く急所をつく。
ズシャ、鎌が血を啜る。
「くっ…」
猿王は嗤わない。代わりに、カクカクカクカクと首が嗤う。
「「ニャース、にゃん、ニャー」」
ブーツの中の猫達が猿を威嚇するがあまり意味が無いようだ。アーモンドは埒が明かないと、模造刀(白橙)を鞘に戻しブーツに力を込め、渾身の一撃を放つ。その刃は、主の意のままに深紅の刃となる。
「ギィィィィ」
猿王は後方へ【ステップ】を踏む。
猿王は右腕を撫でられ(斬られ)、鎌が地面にこぼれる。
アーモンドは、抜刀の勢いそのままに猿王を追撃する。
「ニャース、にゃん、ニャー」
ブーツの中の猫達も張り切っている。
「ギギギィィィィ」
猿王は右腕の傷口を舐めとり、再び口腔内に魔力を集束させるが先ほどより【タイムラグ】がある。
アーモンドとブーツの猫達は距離を詰める。騎士であるアーモンドは、基本的に近接戦闘スタイルで距離をとられては攻撃手段がない。パーシャルデントの鏡(胸当て)による《反射》も一日一回しか使用できない。この距離は明らかに不利だ。
「アーモンド様!またブレスがきます」
リーセルスが警戒を訴える。ラギサキとズーイ伯爵は息を飲むばかりだ。
「ギギギィィィィ」
猿王から複数の血の色をした炎の球が放たれる。だが、先ほどより威力も速度もない。
「うぉぉぉぉ」
アーモンドは刀を振るう、深紅の刃が光る。魔法刃(赤橙)はここにきて更に刀身を赤く染め、火球を撫でる(斬る)、撫でる、撫でる。
多少の被弾はあるが、パーシャルデントの鏡の魔法耐性(大)によって衝撃はくるが炎による【ダメージ】はない。
「スッ…スゲェ」
ラギサキは目が熱くなる。ブレスの熱によるものでは無さそうだが…
「ギギギギギギィィィィ」
炎の先で猿王が吠える。
この距離は、アーモンドの距離だ。
猿王が鎌でアーモンドを裂く、裂く、裂く。
タッ、タッ、タッ、
アーモンドは【ステップ】を踏む。
「にゃん、にゃん、にゃん」
ブーツの中の猫達も軽快だ。アーモンドは酒(上級回復薬)を飲み過ぎたせいか【リズム】に乗っている。
深紅の刃が猿王を撫でる(斬る)。
「ギギギィィィィィィィィ」
猿王の脇腹が斬られた。
残念ながら猫と狼と違い、猿はリズムに乗れなかったようだ。
フラッ…
アーモンドが追撃をかけようとするが、その場でよろめく。いよいよ限界がきたようだ。
「ギギギィ」
猿王は無造作に左腕の鎌を振るう。
「ガァァァあー」
銀狼は吠える。アーモンドは脚を踏ん張り、地に脚をつけ刀を振るう。
ガギィィィィ
お互いの武器がぶつかり合い、傷口の血飛沫とともに武器が宙に舞う。
時の女神は時の流れを止めようとしたが…
「あああぁぁぁぁぁ」
「ギギギィィィィィィィィ」
獣たちは止まらない。
【リーチ】の長い猿王がアーモンドの左腕を掴む。
「ギギギィィィィ(生命置換)」
アーモンドの体内によく似た〖違う色〗が流れ、何かを奪おうとする。アーモンドの左腕が渇いていく。
「グウゥゥゥ」
アーモンドの赤目が色を増す。アートレイの血が〖違う色〗を嫌っている。
奪われるな、奪え…
高貴なる血が銀狼に問う。欲しいものを食い尽くせと…
「うぉぉぉぉ《強奪》」
「ギギギッ」
アーモンドは自分の色を取り返し、猿王の何かを奪おうとする。
お互いに譲らない。狼と猿は自分達の色の一部を【トレード】した。
バチバチバチバチバチ
森に溢れんばかりの光が発現する。
「アーモンド様!」
「ご主人さまー」
「お前達伏せろー」
ズーイ伯爵は部活達に命令しつつ、リーセルスとラギサキの頭を地面に押し付ける。
「ハァハァハァ」
「ギイギイギイ」
閃光の後に皆がみた光景は…
獣たちは見つめあっていた。息を切らしながら、二匹ともボロボロだ。
アーモンドは、息を整えた後に猿王に口を開く。
「猿よ!いや、猿殿!うちの猫達が怖がっているから、カクカク唄うのはほどほどにしてくれないか」
アーモンドはお猿さんに苦情を申し立てる。
「「はぁー??」」
リーセルスとラギサキは顔を見合せる。
猿王はある程度言葉が通じるのだろうか。目が点になっている。
「ホーリーナイトはうるさいのは苦手なんだ。他の猫達もビックリしてオシッコ洩らしてしまっている」
「ニャース(その通りニャ)」
どうやらアーモンドの苦情はもっとものようだが…
「………」
三人とズーイ伯爵の部下達は言葉がでない。
「キィ、キィ、キィ、キィ」
猿王は笑った。獣になって初めて笑った。その姿はまるで人種のようだ。嗤わない猿が声を出して笑う。
猿王はひとしきり笑った後にその場を立ち去ろうとする。
「猿殿!うるさいのはご免だが、いい勉強になった。また、稽古をつけてくれ」
「「「………」」」
「「「ニャ、にゃ、ニャース」」」
三人は呆れて声が出せず。ブーツの中の三匹の猫は、流石ご主人と誇らしげだ。
「キィキィ」
猿王は落ちていた鎌の一振をアーモンドに軽く投げる。それはまるで、ご褒美だとでもいっているようだった。
猿王はそのまま振り返らずに…
「キィ、キィ」
と手を振って森の中へ帰っていった。それはまるで、また来いとでも言っているようだった。
【犬猿】、仲が悪いという使い方をする古代語がある。犬と猿が仲が悪いかどうかは定かではない。まして、この狼と猿は特別に仲がいいとかそういうでも関係ではない。だが、お互いに踊りあった(殺しあった)二匹は、【古代語】では言い表せない関係のようだ。
リーセルスは呆れ
ズーイ伯爵は笑い
ラギサキは更に目が熱くなる
グルドニア国王歴505年 猫の郷
アーモンド・グルドニア、十五歳
彼は今日、猿に腕を噛まれ、飼い猫には泣かれ、酒を飲み、白猫にお漏らしをさせ、また猿に噛まれ、最後には神々に獣の舞を披露した。
大人顔負けの【過密スケジュール】だ。
時の女神は、このまだ幼さの残るあどけない寝顔の坊やと猫達に微笑んだ。また、遥か昔この坊やとよく似た寝顔を見せてくれたお猿さんにオヤスミなさいと優しい声で囁いた。
エピローグ 終り
今日も読んで頂いてありがとうございます。
西の姫君の涙はそのうち、別枠(外伝)で短編でやろうかなと思います。
作者の励み、創作意欲向上になりますのでよろしかったらブックマーク、いいね、評価★して頂ければ幸いです。




