4 カエルさん暗躍歴史 2
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カエルの記憶 ヴァリラート歴5643年
「超大器晩成型の機械人形だってゲコー?! 」
「ああ、ユフト君も頑固でねククククク。いやー、まいった、まいった」
イタチは言葉とは裏腹に楽しそうである。
「そんな悠長なこといってたら、人類は滅ぶだろうに、今でさえマスクをしなければ致死量の魔力濃度だゲコ」
「我々にとっては、心地良いのだけどね。まあ、受肉しているベースが人種の肉体だから今回もあまり長く地上にいれないだろうククク」
「困ったゲコね。これでは、すぐには灰色様を召喚できないゲコ」
「いい知らせもあるよ。どうやら、十番目の子には補助電脳としてマザー・インテグラを入れるらしいクク」
「ゲコ! 」
これにはカエルは驚いた。始まりの機械人形マザー・インテグラ、ユフト師の相棒、いや、あの機械オタクのコミュ障にとっては自分の身体の一部のような存在である。冗談抜きに自分の身体の半身を新たな機械人形の補助電脳にするなど、よく決断できたものだと。
「ユフト君らしくないゲコね」
「ああ、私も驚いたよ。どうやら、マザー・インテグラがユフト君に進言したらしいねククク。マザー・インテグラとアナライズの《演算》でも人類がもう手遅れなことは分かっていたようだよククク。苦肉の策で、『人類休眠計画』と『地底人類進化論計画』なんてものを進めているようだククク」
この時、カエルとイタチは気付いていなかった。マザー・インテグラは『キカイノココロ』を手に入れたのだ。ある意味では自己犠牲という名の『自我』を……
「なんだゲコそれは? 」
「ああ、どうやらマザー・インテグラが九体の並列ネットワークで導き出した計画らしい。なんでも、『人類休眠計画』は高位階級の者たちを宇宙に上げて休眠させるらしい『人工休眠機』といったかな?なんでも、数千年はゆうに眠れるらしいよ。起きたら、地上は元の魔力濃度でなんて都合のいいこと前提らしいねククク。面白いことにマザー・インテグラのコピー体をベースに大規模な衛星型の機械人形を急ピッチで作成中らしいよコードネーム『トゥワイス』といったかな。貴族たちにはマザー・インテグラが搭載された衛星とブラフの情報を流しているようだがね。補佐で『デクス』が管理と担うようだよククク」
「後者は?」
「あああ『地底人類進化論計画』ね」
イタチが鼻で笑うようにいった。
「君が呆れるなんて珍しいゲコね」
「いや、これがね。非常に、笑っちゃうくらい興味深い計画でね。アリス君の機械人形で医療ユニットの『ボンド』っていただろう。あれにデーターの元になったコンセプトでね。人類を種として進化させる計画らしいよ」
「平時だったら。ぶっとんでるゲコね」
「ユフト君も苦い顔をしていたよ。だが、流石に全人類を衛星には乗せられないからね。地上に残された人類に『強制進化ワクチン』を摂取させて、体内の魔力適応値を強制的に引き上げる計画らしいククク」
「失敗するゲコね。ユフト君も罪深い、我々もたまには人体実験もするゲコ。でも、人類そのものを実験体にするとは……悪魔よりも悪魔だゲコね」
「全くだよ。ユフト君には特別に魔界に招待したいくらいさククク」
「人種はあがくねゲコねぇ」
「それが彼らの美徳さ。悪あがきというククク。だが、ユフト君も馬鹿じゃない。ワクチンは数回に、数世代に分けて摂取する中・長期的なプランらしいよ。そのために、地下都市『バイブル』『コンパス』『ガイドライン』を突貫んで工事中らしいね」
「ユフト君にしては素晴らしい行動力だゲコ! 見直したゲコ! 」
「どうやら、あの木人族『ファトゥム』が率先して指揮を取っているらしいね」
「あの出来損ないか! 毎回、毎回、まったく余計なことをするもんだゲコ」
「まあ、不老不死の出来損ないにしては頑張ってるよねククク。最近知ったんだが、ユフト君とは師弟関係にあるらしいからね。あの魔女でめんどくさがりで滅多には干渉してこないんだけど、アリス君を失くしたユフト君を見てられなかったんだろうねククク」
「黒幕のくせに」
「君も共犯だろう。私は、落ち込んでいるユフト君にコーヒーの一つでも御馳走したよ。勿論、アリス君の好きだった甘いコーヒーをねククク。泣きながら「アリス」っていいながら味わってたいよ。ああ、彼は普段はブラックしか飲まないからね。実に、美しい光景だった。カエル君に至っては手ぶらだろうさククク」
「イタチ君のやっぱり素晴らしい性格だゲコ」
「ありがとうククク」
「それでも、やっぱり引っかかるゲコ。あれだけ意固地だったユフト君が『鉄骨竜』のようなオールラウンド機械人形をよく承認したゲコ。マザー・インテグラまで犠牲にして……」
「そこなんだけどね。《演算》の結果だと、その十番目の子が完全体になった時に、十体の機械人形兄弟機で並列ネットワーク処置を行った《演算》を行うと九体の時と比較して、百倍~一億倍に処理能力が上がるらしいよククク」
「そんなバカな……ゲコ? 《高速演算》もしや、未来を覗ける力、超疑似的未来世予測? スーパーシミュレーション? 」
「シンギュラリティどころの騒ぎじゃなよね。未来を覗けるなんて、時の女神様、それこそ、神の領域だよククク。マザー・インテグラが補助電脳に立候補するわけさ」
「危険ゲコ」
「まあ、十番目の子に何かあればセーフティーとして、補助電脳であるマザー・インテグラ『補助電脳ガード』が本体を《統合》するらしいよ。生まれたての赤ん坊みたいなものだからね。育成計画を間違えばどう転ぶか分からない。どっちみち、今代の人類の破滅は免れないよ。ユフト君は完全に未来に次世代、数世代先に置きに行ってるね」
「置きにいってるわりには全力投球ゲコ」
「カエル君、面白くなさそうだね。結果的に時間はかかるけど、灰色様の素体になるゴーレムは手に入るんだ。少し時間はかかるが、数千年など灰色様にとっては大した時間ではないだろう」
「ゴーレムの性能がゲコね」
「育成型だから、始めは弱いだろう?」
「ポテンシャルでもみられればいいゲコ。何かいい当て馬がいないかゲコね」
「うーん、中途半端な敵じゃねえ」
「鉄骨竜クラスのゴーレムとなると都合がいいゲコ」
「鉄骨竜だと、中級上位の悪魔くらいは強かったからねー、そうだ! いい機体がいたよ。ボンド君なんてどうだい? 」
「あれは医療ユニットゲコ?」
「そうなんだけどね。災害救助も想定しているから、後方支援機の割にはベースの戦闘力も高いんだよねククク。確か、鉄骨竜の暴走も直すようにチューンしてあったんだ。鉄骨竜は使い物にならなくなったけどね。ボンドいいんじゃない」
「ああ、確かアリス君が亡くなって暴走したんだゲコね。今は、凍結中か、バレると面倒だゲコ」
「ほら、ほら、そこは、医療ユニットって分からないように外装と装備を変えてさぁ! 呼び方も『ボンド』からコードネーム「チェイサー」なんてどう?イカしてないククク」
「イタチ君、随分と上機嫌ゲコ」
「改造は紳士のロマンだよクク」
「好きにしなゲコ」
「あああ、楽しみだな。亡きアリス君のボンドが医療ユニットではなく、破壊兵器としてユフト君の新たなゴーレムと相まみえる最高の絵だねククク」
イタチは非常に上機嫌で、カエルは呆れていた。イタチそして、同じ悪魔だがイタチのことはできれば敵に回したくないなと思考した。
「……ああ、そうだちなみに、新たなゴーレムはなんていうんだい?」
「うん? 十番目の子だね。確か、面白い名前だったな? 『ユーズレス』といったかなクク」
「役立たずの機械人形? ユフト君は随分と酔狂な名前を付けたゲコね」
「自分を戒めるために名付けたんだろう。今回は、いかに天才といえど役立たずだったからねククク」
機械の父といわれたユフト師の最後にして最高傑作の機械人形『ユーズレス』、二人の悪魔はこの『ユーズレス』の名に、どのようなユフト師の願いが込められているか理解できる日はこないだだろう。
これが、最初のボンドとの戦闘に繋がります。




