閑話休題 命の選別(ロスタイム)
ジョー青年の話の終わりです。
近々、外伝で大人のジョーやる予定なので楽しみにしていて下さい。
第一部完結に伴い、一話からゆっくりですが、本編の誤字脱字直し警察やってます。
1
雨が降っていた。
そういえば昔、父上は空が鳴くなんていってたっけ…ああ、温かいなぁ
「気がついたか。良かった一命は取り留めたようだ」
父上によく似たご老人がいる。このご老人の手が温かい。
「よし、黒は抜けた。後はだいじょ…だろ…う…」
ご老人が倒れてジョー青年にもたれ掛かる。
「ハンチング様!」
「先生!」
左利きと職なしが騒ぎ出す。
「ち、父上…嘘だろう。どうして、そんなお姿に…私は確か刺されて、あれ、あれ…」
ジョー青年は絶句する。意識が戻ったばかりで自体が飲み込めない。ジョー青年はその全身枯れ果てた父を壊れないように介抱する。
「どうやら、私もスマートになれないようだな。しかし、泥臭いのも悪くはないものだ」
「父上、父上、一体何が…」
ジョー青年は、ハンチングを抱き寄せながら左利きを見る。
「若先生が、刺されたところをハンチング様が《回復》で…いや、心臓は止まってました。ハンチング様は、薬神様は御自分の全てをかけて、神々の奇跡であろう神代級魔法《延命》をお使いになられたのです。私どもこの目で〖奇跡〗を見ました。その代償が…」
「フッ…」
ハンチングは何も言わずにジョー青年に微笑む。
「すまんな、ジョー。どれほどお前の寿命を延ばしてやれたかは、神のみぞ知るだ。だが、当分の間は死神も来ないだろう」
「何やってんだよ!何、バカなことやってんだよ。今ここに必要なのは、私じゃなくて父上だよ」
「ジョー、聞きなさい」
「父上の息子なのに魔術が使えない俺じゃなくて…」
「いいから聞くんだ!ジョー!」
ジョー青年と周りの皆は震えた。その恫喝は、獲物に対する狩人の一射のような鋭さがあった。
「魔術の使えないお前に、最高に魔法の言葉をかけてやろう」
「やだよぅ、最後なんて言わないでよぅ…」
「坊っちゃん、ハンチング様の最後の御言葉です」
左利きは、坊っちゃん(ジョー青年)の肩に手を置く。そして、我が主に跪拝する。ハンチングは左利きを見るが何も言わない。だが、目が感謝を伝えている。左利きはその視線(祝福)を受けて、誇らしくもあり嬉しくもあり、また悲しくもあった。
「ジョーよ。魔術が人を救うのではない。人を癒すということは、誰かが不幸になってからこそあるものだ。我々は神ではない、人種なんだ。自分が出来る精一杯をやるだけだ。肩の力を抜け、どんな時でも【ハンサム】でいるんだ。その時だけは、どんなに苦しくても相手を愛することが出来る。その愛がお前をきっと導いてくれる」
「父…上…」
ジョー青年は、涙でハンチングの顔が見えないがしっかりと耳を澄ませる。美の女神は、ハンチングの声がジョー青年に届くように雨音を小さくした。
「まだまだ話し足りないが…どうやら死神が迎えに来たようだ。最後の患者がお前で父は幸せだ。きっとこの日のために神は私に、魔術(魔法)を授けたのだろう…」
死神が鎌を振りかぶる。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ」
ハンチングは最後に襟を正した。そして、大声を出した子どもを叱るように人指し指を立てて〖シィッー〗とジョー青年の唇に触れた後に…
「ジョー、お前の父は最後まで【ハンサム】だろう」
ハンチングはジョー青年に優しく微笑んだ後に、灰となりウェンリーゼの風となった。その風に舞いあげられた灰は虹色となり、傷つき病んだ人々を癒していく。
「いてぇ、いてぇ、い…痛くない」
「本当だ。痛くない」
「奇跡だ!薬神様の祝福だ」
死神は鎌を振り上げたままだった。どうやら、ハンチングのハンサムな身体に傷を付けたくなかったらしい。ハンチングの魂はきっとこの若人に引き継がれたのだろう。死神はジョー青年の首筋にうっすらと傷を付け去っていった。
「あぁ、そんなうちのうちの子があぁ…みんなは、助かるのにどうしてうちの子だけ」
先ほどジョー青年を刺した赤ん坊の母親だ。神様は時に残酷であり、罪人には容赦しないようだ。その赤子に罪はないのは重々に承知しているであろうに、神々でも黒を白にすることは叶わない。
奇跡でも全てを癒すことは出来ない。死神が別の場所に鎌を振り上げる。
「お前が!お前がぁー!父上を!」
ジョー青年は左利きに押さえられながらも止まらない。左利きもジョー青年に加勢したいが、灰(奇跡)となられた主はそのようなことを望んではおられない。
ジョー…愛だ…すべては愛なんだ…風が囁く。
風の女神は美の女神に頼まれて、ウェンリーゼに世界で一番優しく美しい風を吹かせた。
ジョー青年はゆっくりとその事切れそうな小さな命の前に跪き、手を当てる。
「愛だ、愛なんだ!私はすべてを愛そう。痛みも、苦しみも、憎しみもすべてを愛そう。だから、私に…神よ!父よ!すべてを癒す力を、世界中の全てを愛せる力を!俺を世界一のハンサム(すべて愛せる男)にしてくれー!」
光の柱が空に発現する。
「なっ!坊っちゃんダメです。坊っちゃんまで枯れてしまいます」
左利きはジョー青年を止めるが、魔力の渦によって遮られる。
「大丈夫だ!左利き!私は…いや、俺は一人じゃない。癒せ、命を、愛そう、全てを、《回復・極》(延命)」
光の柱がゆっくりと集束していく。その魔法は人種が発現できる範囲を越えている。しかし、ジョー青年は枯れない。ジョー青年の手当てにもう一つの手重なった気がした。ジョー青年は一人じゃない。
光の柱がゆっくりと消えていく。
静寂が辺りを包む。
「オギャャャャヤア」
後には元気な命の息吹きが聞こえた。
グルドニア王国歴〖海王神祭典〗このウェンリーゼを襲った未曾有の厄災は、様々なものを奪っていった。
その中でこの厄災は、一人の現世に舞い降りた薬神を灰にした。しかし、その灰は生きるものを癒し多くの命を救った。
ジョー青年は、魔術を使えない。しかし、父から受け継いだ人を愛する心と、オマケの《回復》はきっと薬神様からのご褒美であろう。
その時に救われた赤ん坊は後に、ウェンリーゼ家のメイドとしてボールマンに仕えることになる。その奇跡の子は、不思議と年をとっても若々しくその奇跡の子は、花好きの男と夫婦となり新たな命を授かった。
ジョーの愛が、また一つの物語を紡いでいく。
それは、まだまだ先の話である。
死神は鎌を収めた。雨が降るなか死神は、天上の薬神と大神にこう呟いた。
商売あがったりだと…ただその顔は、雨のなかでも誰よりも晴れ晴れとしていた。
閑話 命の選別 完
今日も読んでも頂いてありがとうございます。
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序章の「隠された機械神ユーズレス誕生」で、原案者様と相談して戦闘シーン加筆しましたので、良かったらそちらも遊びに来ていた下さい。ユーズレスはいつの時代も作者以上に頑張ってます 笑




