3 カエルさん暗躍歴史
1
「ゲコー」
カエルは悪夢を見ていた。
「おはようございます。カエルさん、ご無沙汰しております」
目覚めたら目の前には魔界大帝クリッドと、側近のタンテールが優雅に紅茶を飲んでいる。
「ちょっと失礼しますね《心音》」
クリッドがカエルの心を探る。
(ああ、夢ゲコか)
とカエルは思考した。魔界大帝クリムゾンレッド、魔界の王であり中級悪魔のカエル如きでは数千年に一度会えるかどうか、ましてや直接会話をするなどもっての外の遥か高みの存在である。側近のタンテールは悪魔でこそないが、魔界での位、純粋な戦闘力でも上級悪魔よりも頭一つ抜けている。
(なぜ、灰色様ではなく。王が……)
カエルが長年に渡ってグルドニア王国に仕込んだ魔法陣は完璧だった。試運転でも問題なく稼働していた。この魔法陣は実は多重魔法陣である。査問開会会場から抽出した魔力を無駄なく循環させて魔界との扉を開く仕組みである。循環の為に、王宮内にいくつかアンカーとなる小規模な魔法陣設置してあり、魔法陣がループ機構を通して魔力の力場を発生させる。そこに、目標の座標をすれば短時間ながら冥界の門が開く。これは、《転移》魔法の技術を流用したもので、最後には力場となったループ機構の魔力をエネルギーとして有体を瞬間的に発生させて灰色悪魔を受肉させる仕掛けであった。
基本的に悪魔召喚は、受肉するための大規模な贄か、悪魔の受肉に耐えられる個体が必要であった。カエルとイタチは、主である灰色悪魔を地上に受肉させるために数千年、いや、数万年の時を費やしていた。
2
カエルとイタチは失敗の連続であった。
幾度か数万を超える大規模な戦争を起こしたが、多くが『魂の不純』があり贄の役割を果たさなかった。
『不死』の素体、国一つ生贄にして実験をし、木人族を作ることに成功した。しかし、最終的に特殊個体以外は、『白い木』になってしまった。
魔力の塊である『白い木』の利用方法を模索した。万を超える『白い木』を一つの塊にして個体を作れないか実験した。結果、体は意識の集合体となり、受肉には向かなかった。そこから生まれたのが『絶剣』『夢剣』であった。
ならば、地上でに入る最高の肉体とはなんだ。
竜王『暴炎竜バルドランド』である。悪魔にも勝るとも劣らない地上の覇者、神々の眷属であるともいわれている。中級悪魔であるカエルとイタチの手には余る正真正銘の化け物だ。当時、国のトップだった二人はダメ元で当時の人類最強に討伐依頼を出した。目的は、バルドランドの素材であった。素材から禁忌の技術を使い、複製体を生み出す予定であった。
人類最強『双子の騎士インヘリット』という女騎士は見事に『暴炎竜バルドランド』を討伐した。笑う二振りの剣で、素材のすべてを灰にして……
英雄である聖なる騎士はカエルとイタチの怒りを買い、凍結された。
まだ、利用価値はあった。手札は多いことに越したことはない。最終的にインヘリットをしたっていた騎士団の謀反によって国は亡びた。
3
カエルとイタチは発想の転換をした。
生命である必要はないのではないか、いや、生命となった人形ならばどうであろうかと……
イタチとカエルは受肉する素体として『自我をもったゴーレム』は生命となるのではないか?それも『穢れなき純粋な魂』、そこに生命よりも遥かに強い鋼の肉体、受肉には最適と思考した。二人はいつものように暗躍した。強制的に文明を発展させてできた近未来都市『ヴァリラート帝国』は神話のさらに昔の時代にも匹敵する文明社会となった。そこに、魔術も加わった歪である文明は『自我を持ったゴーレム』を作るのにうってつけであった。五千年後には実用的な機械人形が出来上がってきた。稀代の天才『機械の父ユフト師』、『戦場の魔女アリス』の二人はカエルとイタチの期待以上の成果を出してくれた。自我を持ち始めたと思われた『オール』後のプロトタイプユーズレス『鉄骨竜』は、少しばかり育成を急ぎ過ぎたために暴走してしまった。
仕方がないトライアンドエラーは重要だ。
アリスも医療用ユニット『ボンド』というなかなか面白い発想をした。ユフト師とはまた違ったアプローチの機械人形だった。
だが、如何せん足りない。
執着が足りない。
好きこそものの上手なれ。
そんな生易しいもので、最高のゴーレムは生まれない。
灰色悪魔様の素体となる『贄』は最高にして最強の者で無ければらない。
そういう時こそ必要なもの、それは『悲劇』と『戦争』である。
「始まりの機械人形マザー・インテグラ、またユフト君には踊って貰おうかねクックク」
4
アリスが死んだ。
悲劇は人を成長させる劇薬だ。短時間でより、効率よくステージを一段も二段も高みへと導く。それが、毒だとしても当事者は気にしない。むしろ、猛毒を喜んで咀嚼して自身の血として肉にするだろう。
ユフト師の成長はイタチとカエルの予想を超えた。
ユーズレスシリーズ、試作機であった『鉄骨竜』の特性を分けてさらにバージョンアップさせた。
マザー・インテグラの『統合』、『演算』のアナライズ、『物理攻撃』レング、『防御』フェンズ、『敏捷性』アギール、『魔法抵抗』ジスト、『器用』デクス、『道具』ツール、『魔法』ディックの九機のロールアウトに成功した。
このゴーレム達は素晴らしかった。どれも性能は一級品、純粋な戦闘力でもカエルやイタチでも手に余るゴーレムである。
ただ、「違うんだゲコー」「我々の欲するコンセプトとはズレたねククク」
そう、悪魔が求めるものは史上最高最強のゴーレム、どちらかというと特性を個々にわけるのではなく、『鉄骨竜』のようにすべてを兼ねそろえたゴーレムである。それこそ、主である灰色様に相応しい。
正直、ユフト師には『鉄骨竜セカンド』といったバージョンアップした機体を創って欲しかった。だが、ユフト師は『鉄骨竜』の暴走から特性を統合した機体の開発に、頑なに拒否した。
「頑固だねぇ。ユフト君はククク」
「仕方がないゲコ。だったら、作らなくてはいけない状態にすればいいゲコ」
「なんだい、また大規模な戦争でもやるのかいククック」
「アリス君が死んでから、ユフト君にはもうあまり響かないゲコ」
「だったらどうするんだい? 」
「簡単ゲコ。一度、地上を浄化するゲコ」
「浄化? 神にでもなるつもりかい? 遥か昔の黙示録ようなククク」
「そんな大それたことはしないゲコ。ちょっと、した、マナバーンだゲコ。我らが魔界のような住みやすい魔力濃度にしてあげるゲコ」
「それは、みんな死んじゃうんじゃないか? それに、これは極秘情報だけど近々、魔界大帝のご子息様が地上に降臨される予定だよ。いくら灰色様のためとはいえ、王と揉めるのは勘弁だよ」
「大丈夫ゲコ。その王子様は確か、『離塔ブラメガメノキト』に幽閉されいる山羊王子ゲコ」
「ああ、君が誕生日かなんかに大帝のご機嫌とりに送った『夢剣』を振ってる能無し王子ねククク。《強奪》が暴走して千人単位の悪魔が闇に消えた事件があったね。それから幽閉状態で、大帝様も扱いに困ってる王子様かぁ……不憫だよね」
「ある意味での地上への追放だな。近々、大帝様は死神様になり神々の仲間入りだゲコ。まあ、自分の汚点は消しておきたいゲコね」
「それだったら、気にする必要もないねククク」
「むしろ、魔力濃度が魔界に似た環境になるから住みやすいゲコよ」
「その頃には生物は誰もいないだろうけどねククク」
「ユフト君にはマザー・インテグラとアナライズがいる。演算が得意な二体ならある程度未来をシミュレーションできるだろう。人類の滅亡を回避するにはどうすればいいか。それを回避する術はないゲコね」
「だったら、意味ないんじゃないか? カエル君、君なにがしたいんだい? 」
「科学者という人種は厄介なものだゲコ。ある意味ではこの世の真理を追究することを生きがいとする生き物ゲコ」
「???」
「インテグラとアナライズの演算でも答えが出ない? だったら、もっと高性能な答えを導いてくれる機体を創ればいいだけだゲコ」
「おおおお! そういうことか! でも、こちらの注文通りいくかな? 鉄骨竜のバージョンアップ機体の案はずっと出してるけど断られているし」
「大丈夫ゲコ。今回は、潤沢な予算に国中の技術者を使う権利をユフト君にプレゼントするゲコ。コミュ障ほど、根は優しいんだ。ああいうタイプはなんだかんだ情に熱いゲコ」
「他の技術者が人質みたいじゃないかククク」
「違うゲコ。イタチ君、ヴァリラート帝国じゃない、人類の生存……それがユフト君の肩に懸かっているゲコー! ゲッコゲコゲコー! 」
「救われない未来に、絶望の中で希望を探せか……どう頑張っても見つからないんじゃないククク」
「少し時間はかかるゲコが、灰色様が受肉するゴーレムは手に入る。そして、荒野となった地上で好きにやればいいゲコよ。まあ、時期を少しずらして、何か別の生命が文明を出してきた段階で受肉されても面白いゲコね」
「はなっから人種を救済する気ないだろうカエル君、ククククク」
「ユフト君がいろいろ悪あがきするんじゃないゲコか? だって彼は」
「「天才なんだから!!」」」
「ゲッコッコー!!」
「ククククク! 」
しばらくして、ヴァリラート帝国沿岸部でマナバーンが起きた。海に面した施設の魔力は海を通じて世界中に浸透していった。
ヴァリラート帝国が誇る機械人形マザー・インテグラとアナライズの演算でも、導き出された答えは『人類の生存不可避』であった。
三日後に軍部より『統合』を司る十番目の子の設計依頼が正式にユフト師に届いた。
すべての物語が繋がるようにまとめられたらいいなぁ。




