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2 霊僧タンテール

1


「それでは、クリッド陛下と呼ばせて頂きましょう。して、クリッド陛下は今回の騒動についてどう思われますかな? 魔界の考えが及ばずにですが、人種の世界ではこれはグルドニア王国、いや、世界連合への明確な敵対行動ということになりますが、良き隣人よ」


 ピーナッツが遠回しにクリッドに牽制したと同時に、グルドニア王国だけではなく、世界各国を巻き込んだ。


 ボンドに獣王は好戦的で滾っているが、ミクスメーレン共和国議長のフォートや、リトナー魔法大国宰相大賢者フォローを始めとした各国代表は心の中で「このクソガキが巻き込むな! 」とピーナッツを睨んでいた。


「グルドニアの王よ! クリッド様になんたる口の利き方だ! 」


 タンテールが激昂する。タンテールは普段、冷静沈着でありクリッドの優秀なブレーンであり、魔界の実務の多くをクリッドの代わりに行っている。このように感情をあらわにすることはない。だが、それは魔界での話である。


 魔界では真なる悪魔であるクリッドに意見をいう者などいない。それは、統治者として反対意見がないのはある意味では問題ではある。これには、クリッドも頭を悩ませているのだが、それはまた別の話である。


 タンテールはブチ切れた。地上の王とはいえ、人種ごときがクリッドにまるで対等でもあるように声をかけたのである。


「「「ぐううううう」」」


再び、タンテールの怒気がプレッシャーとなって会場の皆が重い空気に包まれる。


「はぁ……」


 クリッドが溜息を吐いた。


 タンテールが震える。いや、その刹那に会場の皆の首筋がヒヤリとした。


いる。


死神がいる。


いや、『死』体に纏わりついている。


死神の鎌が振られようとしている。


「し……失礼……致しました。どうか、どうか、お許しください」


 タンテールが泣いた。タンテールは土下座をした。


 この数千年、いや、召喚されてからクリッドがタンテールに対して溜息を吐いたのは初めてのことだった。タンテールを始めとした『六星柱』はこれまで、クリッドの期待に応えてきた。まさか、その筆頭である自分に、生みの親でありまさに神であるクリッドを落胆させてしまったのだ。


「こういうのは好みではないでのですが、上位者同士の会話に割っては入るような無粋な真似をするとは、魔界の品位が疑われますね。ピーナッツ陛下、重ねてお詫び申し上げます」


 クリッドが頭を下げた。


「あ、あ、ああああああああああ!」


 タンテールが更に泣いた。人目をはばからずに泣いた。


 自分のせいで、クリッドに頭を下げさせてしまったことに責任を感じた。自分の存在がクリッドの不利益になったのだ。


「あー、謝罪は受け取りました。タンテール……卿でよろしいか? まあ、その、そう、落ち込まれますな」


 子供のように泣きじゃくるタンテールにピーナッツはかける言葉が見つからなかった。


 会場の空気が多少ほぐれた。




2


「ひっぐ、ぐず、ひっぐ、ぐう」


 タンテールはまだ泣いていた。


 立ち話もなんだからと、クリッドとタンテールは着座を促されて座った。


 基本的にこの司法が管理する会場は飲食禁止だが、二人には茶菓子とお茶が置かれた。


「おおおおお! これは、地上のお菓子ですね! 」


 クリッドとタンテールの前には、ホイップクリームが盛り付けてあるスコーンに、香りが良い紅茶が置かれた。


「我が、グルドニア王国の伝統あるお菓子ですがお口に合うといいのですが」


 ピーナッツは給仕に目の前で紅茶を入れさせた。


 紅茶のセットを持ってきた台車は魔導具で湯を沸かすためのコンロがついている。


 給仕は下がり、宰相であるバーゲンが茶を淹れる。理由は、給仕が倒れたからである。クリッドとタンテールは力を抑えてはいるが、一般人が耐えられる空気ではない。


宰相バーゲンは沸かした湯にティーポットに入れて一度お湯を捨てた。


「宰相閣下にお茶を淹れて頂けるとは、なんとも光栄ですね。なんとお湯を捨てるのですか? 」


 クリッド紅茶を淹れる工程に非常に興味があるようだ。


 給仕は再びポットに熱湯を入れる。


「なるほど、一度、ポットを温めたのですね」


 そして、茶葉を入れて砂時計をひっくり返し、蒸す。


「香りが、素晴らしい。このような、お上品な香りは魔界では嗅いだ時もございません」


 クリッドはワクワクしていた。


 勿論、クリッドも紅茶を飲んだことはある。まだ、『秘密の部屋』でママであるアペンドからであった。だが、その時は残念ながら長期保存が可能な『高性能ティーパック』で、クリッドがまだ子供舌だったために、香りを楽しむとか風味よりも「砂糖で甘々だメェェェッェェ! 最高だメェェェッェェ! 」といった感じであった。


「本日は、ティンブラといわれるセイロンティーで、非常にフルーティーな味わいが楽しめます。ご希望であれば、ミルクティーにもできますが」


「せっかくですので、ストレートでお願います。タンテールにも同じものを」


「かしこまりました」


 香り高い紅茶がクリッドとタンテールの前に置かれた。


「頂きます」


 クリッドがカップに手をつけて紅茶を一口含む。


「はぁぁぁぁ、素晴らしい」


 クリッドの顔が緩んだ。


 クリッドがそのまま、スコーンを口に入れる。


「うーん……う! 」


 クリッドがスコーンの味を確認するようにして、紅茶を含む。


「いかがされました? クリッド陛下? 」


 ピーナッツがふとバーゲンに視線で「毒でも入れたのか」と、バーゲンは「滅相もない」と否定している。


「はぁぁぁ、そういうことでしたか。この味があまりしないスコーンには少々、がっかりしましたがこれは、紅茶と合わせることで何倍にも素材を昇華させるのですね。いやはや、参りました」


「お気に召したようで何よりです」


「タンテール、あなたも泣いてばかりいないで頂きなさい。これほどの、技を尽くした芸術を食さないのは無礼ですよ。生きている価値がありません」


 タンテールは泣きながら紅茶のセットを頂いたが精神状態が正常ではなく、鼻水で鼻が詰まっていたために勉強の機会を逃した。


「リーセルス、私たちはいったい何を見せられいるんだ」


「少なく見積もって、国の命運かと」


 リーセルスはこのタイミングでサンタとクロウにおつかいの合図をした。


 ピクピク


「ゲッ……ゲコー」


 気絶したカエルが目を覚ました。

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